第261話 戦争

決戦当日、宿屋で1部屋借りて、委員長とテーブルを挟んで座る。


「心の準備は出来てる?」


「問題ないわよ」


「これが作ってもらったトランプだけど、不正がないか確認していいよ」

委員長の前にトランプの入った箱を置く。


「必要ないわ。クオン君は私と真剣に勝負する気があるってわかっているから。それに、トランプに印を付けたりして不正を行うと、いつでも現場を抑えられるからね。イカサマするにしても、そんなことはしないわよ」

確かにイカサマするにしても、そんな方法はとらない。


「わかった。先に言っておくけど、元の世界のような印刷技術や製紙技術はないから、裏面にどうしても違いが出来てしまうらしいんだ。信じてと言うしかないけど、僕もこのトランプを使うのは初めてだから、有利不利はないよ」


「わかったわ。本気を出すから、負けても怒らないでね」


「負けたら、その時は覚悟を決めるよ。それじゃあ始めようか」

箱からトランプを出してよく切る。


「委員長も切ってくれる?不正してないよっていう意味もあるけど、出来るだけ規則性がないようにしたいから」


「わかったわ」

委員長にもトランプを切ってもらい、出来るだけぐちゃぐちゃになるようにしてから、三等分して1つは山札にする。


僕の手札にはジョーカーが1枚、エースが2枚、キングが1枚にクイーンは3枚もある。

他が小さい数字に固まっているわけでもないし、だいぶ運はいい。


「それじゃあ最初のラウンド。場のカードは6だね」

山札から1枚カードをめくって、表向きに場に出す。


「手札を並べ替えるからちょっと待ってね」

委員長はそう言って、パパッと手札のカードの場所を入れ替え、少し考えるように上を向いた後、カードを裏向きに伏せた。


この短時間で手札をすべて覚えたようだ。


はたして、本当に委員長はカードを順番に整列させたのだろうか。



「おまたせ。最初に出すカードも決めたわ」


「うん、それじゃあ裏向きに置いて、せーのでひっくり返そうか」


「「せーの!」」

お互いに出したカードを表にする。


僕はクラブの4、委員長はハートの7を出したので、最初のラウンドは委員長の勝ちとなり、委員長に6ポイント入る。


同じことを繰り返していき、委員長がポイント的にはリードした6ラウンド目、山札からジョーカーが出る。


さて、どうするか。

もう一枚のジョーカーは僕が持っているので、ジョーカーを出せば必ず勝てる。エースを出しても負けはないから、出すならエースかな……。


委員長がカードを決めて、裏向きでセットする。

今までの傾向的には、順番通り手札を並べているように見えて、真ん中より右から出したってことは6か7くらいかな。

でも、本当にきれいに並べたかわからないし……。


「「せーの!」」

僕はハートのエースを出して、委員長はスペードの5を出していた。


負けてもいいと判断した委員長に対してエースを出したのは結果的に勿体無いけど、悪くないだろう。


ポイントが2倍になる大事な次のカードを山札からめくる。


スペードの3か……ついてない。

これは負けないといけないな。


「「せーの!」」

僕は負ける為にも、弱いカードを消費する為にもダイヤの2を出し、委員長はハートの2を出して引き分けになる。


次に山札から場に出たカードはハートの8、勝つべきか、負けるべきか、どちらか迷いながらも勝つつもりでクラブの10を出すが、委員長がダイヤのジャックを出したことで、委員長にスペードの3も、ハートの8も取られる。


まあいい、ジョーカーの効果が消えたわけじゃない。


気を取り直して山札から次のカードを出すと、ハートの10だった。

結果オーライだ。


これは取らないといけないので、最後のエースを使って勝ちにいく。

委員長は勝負を捨ててダイヤの4を出していた。


そして、真ん中辺りのカードを選んでいたのに4だということは、やっぱり委員長の手札はきれいに整列されてはいないようだ。


10の倍である20ポイントを手に入れたわけだけど、完全に読み合いで負けている。



「私、小学生高学年になったあたりから、誰かとトランプをやることってなかったのよね」

ラウンドは進み、手札が残り5枚となったところで、委員長が急に話を始める。


現状、僕がわずかにポイントではリードしているけど、手札はあまりよろしくない。

ジョーカーは残っているけど、他は高くて8と全敗してもおかしくない状況だ。


僕の記憶が間違っていなければ、まだキングが1枚出ておらず、山札に残っていて委員長に取られると、負けが確定するくらいにまずいことになる。

キングが出た時の為にジョーカーは残しておきたいけど、温存しすぎるとジョーカーで小さい数字のカードを取ることになって負けてしまう。


「そうなんだ。委員長は友達も多そうだし、トランプをやる場面は多かったんじゃないかなって勝手に思うけど、何かトランプはやらない理由があったの?」

このタイミングで話してきた理由も気になるので、理由を尋ねる。


「運だけで勝てる遊びはいいんだけど、私が本気でやるとどうしても勝ちすぎてしまうのよ。勝たないように手を抜くのは相手にも失礼だし、それで負けても悔しくないでしょ?」


「そうだね」


「でも、今日のクオン君との勝負は本気で戦えて楽しかったわ」


「まだ勝負は終わってないよ。ポイントは僕の方が高いはずだし、勝ちを宣言するには早いんじゃないかな?それとも負けを認めるつもり?」


「クオン君は既に出されたカードを覚えて、残りのカードが何か考えているよね?」


「そうだね。委員長も当然やってるよね?」

完全ではないかもしれないけど、今日の僕のカウンティングはかなり精度が高いはずだ。


「もちろん覚えているけど、クオン君は私の手札に何が残ってて、山札に何があるかまでわかってる?」


「流石にそこまではわからないよ」


「そこがクオン君と私の違いね。私の中では勝ちが確定したわ。どの順番で山札からカードが出て、どの順番でクオン君がカードを選んだとしても、最終的に私が勝つことになる。クオン君は最初の方に強いカードを出し過ぎたのが敗因ね」


「動揺を誘っているわけ?これも駆け引きのつもり?」


「駆け引きをこれ以上する必要はないわ。クオン君の手札は、ジョーカーは確定、8、7、4の可能性が極めて高くて、後の1枚は2か3ね」

当たっている。

イカサマを疑いたくなるが、イカサマをしているならこんなに堂々と話なんかしないだろう。


「それはどうかな」


「山札に残っているカードで1番大きいカードは9、クオン君がジョーカーで9を取ったとしても、私の手札は全て9より大きいから、クオン君がジョーカーを出したラウンド以外は私の勝ちが確定しているの。絞りきれなかった残りの1枚が2でも3でも、ポイントは逆転するわ」

委員長の言葉を頭の中で整理する。


確かに、委員長の手札が全て9以上なら、山札に残っているカードの最大は9になり、どうやっても僕の勝ち目はなくなる。


僕の記憶が間違っている可能性は全然あるが、委員長が言っていることとも相違がないし、大きな記憶違いはないだろう。


「最後までやれば委員長の言葉が本当なのか、僕を動揺させてミスを誘っているだけなのかわかるから、次のラウンドを始めようか」


「そうね」


山札から出したカードはクラブの9。

委員長が言ったことが本当ならこれが残っている1番高いカードだけど、僕の頭の中ではまだ山札に9より高いカードが残っている可能性はまだまだあるので、ここでジョーカーを使うことはない。


ブレずにジョーカーはキングで使う為に残しておかないといけない。


僕は4を出して、10を出した委員長にカードを取られる。


その後、9より大きいカードが山札から出ることはなく、委員長の宣言通りに負け続け、最終ラウンド、僕はジョーカーを使って3ポイント獲得した。


「なんで僕のカードがわかったのか聞いてもいい?」

全てのラウンドが終わり、獲得したカードの数字を合計する所で委員長にからくりを尋ねる。


「ラウンドごとに相手が何を出したのか覚えるのは当然クオン君もやってると思うけど、状況を分析することでそれ以上の情報を手に入れることも出来るわ。わかりやすいところで説明するなら、ジョーカーが山札から場に出た時、クオン君はハートのエースを出して勝ちにいった。もしも私がジョーカーを持ってたら、大事なエースを使ったのにジョーカーを取れないかもしれない。それでもエースを使ったってことは、私がジョーカーを持っていないとあの時点でわかったってこと。クオン君がジョーカーを持っていないとわからないことよね?後は、大きめの数字のカードを積極的に取ろうとすることが減ってきたから強いカードはほとんど手札に残ってなさそうだなとか、そういった細かいところを考慮していったのよ」

なんだかすごいことを言われた気がするけど、本当にそれであそこまで特定出来るのだろうか。

出来るのであれば常人の域を完全に超えている。


「本当にそれだけで特定が出来るものなの?今更咎めるつもりはないけど、イカサマしていたって言われた方が納得がいくよ」


「イカサマはしてないわよ。後はクオン君の視線の動きかな。例えばこうやってカードを持っているとして、こっちのカードとこっちのカードで視線が往復してたら、どっちを出すか迷っているってことがわかるわ。キングとクイーンみたいに近い数字で迷うことは稀だと思うから、出されたカードが強いカードなら、迷ってたもう一方は弱いカードなのかなって予想出来たりもしたわ」

次元が違いすぎる。


完全に僕の負けだ。


悔しい。悔しすぎる。


本当にそんなことが可能なのかと思ってしまうけど、そんなことよりも、負けたことが悔しすぎる。


「結果はわかっているけど、一応数えて、どっちが勝ったのか確認しようか。賭けの内容は、委員長の勝ちなら僕が何をしようとしているか話す。もしも僕が勝ってたら委員長が言うことを一つ聞くだったね」


「そうね。やっとクオン君から秘密が聞けるわ」

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