第267話 これからの話

まあまあな金額のする焼肉屋だったこともあり、中学生3人だけというのはやはり怪しかったようで、僕だけ店員に呼ばれてお金を持っていることを確認されはしたけど、入店することは出来た。


支払いが出来るか確認されただけで、それ以外は特におかしな対応はない。



「それで、ニュースになってる行方不明事件の話をしたいんだよね?」

注文したものが届いたところで委員長に話を振る。


「やっぱり今流れてるニュースのやつも、あの世界に関係あるの?」

委員長に話を振ったつもりだったけど、先に立花さんが口を開く。

立花さんは色々と経緯を知らないから仕方ない。


「色々と話せないこともあるから簡単な説明にはなるけど、あの世界は崩壊する危機に陥っていて、存続する為には他の世界から住人を拉致し続けるしかなかったんだ。他の世界というのは日本の可能性が高い。だから、これからも定期的に同じようなニュースが流れることになるよ。まあ、他の理由で行方不明になるかもしれないし、全部が全部あの世界に拉致られるわけではないと思うけどね」

ざっくりとした説明をする。


「補足するなら、その事実を見つけてきて、定期的に召喚の魔術を行うようにさせたのが斉藤君ってことなのね。人の命を天秤に掛けるものではないのかもしれないけど、定期的にこの世界の人が連れて行かれて大変な目に遭っても、それであの世界の人全員が助かるならと、私も反対しなかったわ」


「そういうわけで、特に今更何かをするということはないと思うんだけど……委員長は何を話したいの?」

最初の質問に戻す。


「2つ聞きたいことがあって、1つは答えというより斉藤君と立花さんの考えが聞きたいってことなんだけど、とりあえず、斉藤君って今でも向こうの世界に行けるの?」

委員長は前置きをしてから質問する。


「行けるよ。まあ、今までみたいに頻繁に行く予定はないけどね。実は、フランちゃんが王都に戻った時にあの露天風呂付きの家の契約は切ったんだけど、偽名を使って今度は土地ごと買っておいたんだ。だから、のんびり温泉に浸かる為に行くくらいかな。避暑地に別荘を建てたみたいな、そんな感じ」


「やっぱり斉藤君のスキルだとそうなるのね。当然だけど、私はもう向こうの世界には行けないわ」


「えっと……なんの話をしているの?」

置いてけぼりになっている立花さんが尋ねる。


「僕と委員長は死なずに帰ってきたから、あの世界で使えたスキルがそのまま今も使えるんだ。こうやって魔法も使えるってこと。神様から悪用しないように言われているし、目立ちたくないから表立って使うことはないと思うけどね」

手のひらの上に炎を浮かべて説明する。


「……そっか。委員長は死なずに帰ってきたんだ」

立花さんがボソッと呟く。


「斉藤君が今でもあの世界に行けるなら聞きたいことが別であるんだけど、その前にもう一つの話ね。狩谷君が殺した人と、犯罪を犯して処刑された人を除いて、ほとんどの人は斉藤君の手によって帰還したわけじゃない?今日の朝に呼ばれた人達や、これから呼ばれて行く人は私達みたいに帰ってこれると思う?」


「僕は相当特殊みたいだからね。自分で特殊だとあまり言いたくはないけど、普通は死ねば帰れると知ることが、まず困難。何かしらで情報を得たとして、僕みたいに行き来出来なければ確証を得ることはさらに困難だと思う。そして、なんとか確証を得たとしても、人を殺すことが出来るのかどうかはまた別問題。普通に考えて無理なんじゃないかな。狩谷君みたいな人が出てこれば全員帰れるかもしれないってくらいかな。まあ、神下さんも特殊だったし、変わったスキルと思想を持っている人がいることを願うしかないんじゃない?」

救済措置として、例えば3年経ったら全員強制的に死ぬみたい術式が組み込まれていなければ、相当帰還は難しいだろう。


「……やっぱりそうよね。立花さんはどう思う?」


「……私も難しいと思う。少なくとも、私が斉藤君と同じ力を持ってたとしても、同じことは出来なかったよ」


「私にも無理よ。私達に当てはめるなら半分くらい帰還出来れば御の字ってところかな。話を戻すけど、斉藤君はまだ向こうの世界に行けるわけだし、新しく召喚された人を死なせはしないの?」


「しないよ」


「それは、召喚の目的を邪魔しない為ってこと?」

立花さんがいるから委員長はぼかして話をする。

確かに、僕が召喚された人を見つけ次第殺していけば、神となるに相応しいかどうか観測されるチャンスを失うことになりかねない。


「いや、面倒なだけだよ。委員長もこの後ゲームを始めるなら気付くことになるけど、あの手この手でゲームを続けさせようと運営は策を講じてくるんだ。主には新しいイベントだね。毎回同じイベントだとプレイヤーが飽きてくるから、以前のと似ていたとしても目新しい雰囲気は出してくれる。僕達プレイヤーはそんな運営の手のひらの上で踊っているわけだけど、実際楽しいから辞めずに続けるわけだ」


「……なんの話?」


「わかりにくかったかな。委員長はRPGゲームはやったことある?魔王を倒して世界を救ったりするやつ?」


「昔に何回かだけ」


「クリアした後、もう一度初めからやろうと思う?もちろん何度やっても面白い名作はあるけど、やったー、クリアしたー!よし、データを消して初めからやろう。とはならないよね?」


「そうね。クリアした後、私はもうやらないからって、妹にソフトをあげた気がするわ」


「もう何が言いたいのかわかったと思うけど、クラスメイトを殺して元の世界に帰すってゲームはクリアしたから、もう一度やる気はないってこと。クラスメイトから知らない人に変わってるし、尚更やる気は起きないね」

付け加えるなら、ここからの殺人に関しては許される保証がない。

大丈夫だとは思っているけど、わざわざリスクを負う必要もないだろう。


「斉藤君ならそう言うわよね。聞いただけでやってって言うつもりではないから勘違いしないでね」


「別に勘違いはしないよ。そもそも、委員長に言われたからってやらないし。委員長は何かをやるつもりなの?」


「やれることが見つかればやるかもしれないけど、干渉するのは難しいと思うし、実際やれることはないかな」


「何か始める時は一応声を掛けて。手伝うかはその時の僕じゃないとわからないけど、心が惹かれたら手伝うから」


「それじゃあ、その時には斉藤君が手伝ってくれるように魅力的な提案をするようにするわ。それにしても、やっぱりこっちの世界のお肉は美味しいわね。あっちの世界も慣れたらそんなに不便ではなかったけど……」

やっと委員長が肉に手を付けて感想を言う。


ずっと僕が焼いて僕が食べるという空気の読めないことをしていたわけだけど、委員長も食べ始めたということは真面目な話は終わったようだ。


「委員長はいつから学校に行くの?警察との対応は終わった?」


「昨日警察の人が家を訪ねてきたけど、知らぬ存ぜぬですぐに終わったわ。だから、普通に明後日の月曜日に登校するわよ」


「全然休まないんだ。真面目だね」


「斉藤君も明後日から登校する?良かったら一緒にクラスに入ろうか?」


「そこまで子供じゃないから、そんな気遣いは不要だよ」

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