第254話 討伐祭

フランちゃんの戴冠を祝う式典は異様な空気のまま終わりを迎え、数日後、まだ王国内中が不安を募らせる中、召喚の儀式の準備が進められる。


準備することは2つ。

一つは神事として行うための会場や来賓への案内、それから当日の警備体制など、場を整えること。


もう一つは召喚を行うための捧げ物の用意だ。


召喚の術式には莫大な魔力を必要としており、フランちゃん個人が保有している魔力では全く足りていない。


僕達を召喚した際には、元国王が盗賊などの処刑される者を秘密裏に集めて魔力の糧にしたそうだ。

本当に処刑されるべき人達だったのかも怪しいが、それ以前に、処刑される人だったとしても儀式の贄とするのは流石にどうかと思う。


なので、召喚の儀式を行う神事とセットで討伐祭を開催することとなった。


討伐祭とはつまり、国主導で魔物をたくさん狩ろうの会である。


討伐祭の参加者は冒険者が大部分を占める為、討伐祭は冒険者ギルドと協力して行われ、期間中、魔物の買取額が通常の1.2倍となる。

ただし、緊急を有する場合を除き、魔力として扱いやすい魔石と心臓を国が買い取る場合に限る。


5体討伐したら6体分として買取してもらえるというのはだいぶ大きい。


上乗せ分は当然国が負担することになるわけだが、これを機に冒険者が拠点を移したり、商人が祭りの期間中だけでも集まれば税収は増す為、国にとって負担が増えるばかりではない。



討伐祭初日、冒険者ギルドは今までに見たことのない賑わいをみせていた。

普段でも儲けの大きいおいしい依頼というのはあるが、今日からはさらに実入りがよくなる。


依頼書の取り合いとなる場面ではあるが、冒険者達は依頼書が貼り出されているボードに一列に乱れることなく並んでいる。

ボードから複数枚取るという横着をする者もおらず、剥がした依頼書を受付に持っていく際中に強奪されることもない。

もちろん、受付嬢が座るカウンターに並ぶ列も乱れていない。


騎士が壁際に並んでいれば当然の結果だ。


当然、冒険者ギルドに人がごった返すことを想定するのは容易いことであり、ルージュさんが考えないわけはない。


冒険者になりたくて冒険者をやっている人ももちろんいるが、騎士になりたかったが騎士にはなれず、騎士になる為に鍛えた身体と能力を活かすために冒険者の道を選んだ者はとても多い。

当然の結果として、騎士よりも強い冒険者は限られた一部だけであり、国の機関という免罪符まで持っている騎士が見ている前で暴れる者なんているわけがない。



「メアリーちゃんの為に恩賞をもらってくるぜ」


「ありがとうございます。でも、恩賞はロイドさんの為に与えられるものなので受け取れませんよ。くれぐれも無理はしないでくださいね」

看板受付嬢のメアリーさんが鼻の下を伸ばした冒険者からのアピールを躱しつつ、フォローも忘れていない対応をしている姿が見える。

心配するようにそっと手を握っており、かなりあざとく見えてしまうのだけれど、メアリーさんの虜となっている男性冒険者は多いようだ。


ロイドという冒険者が言っていたとおり、討伐祭の期間中に討伐した魔物に対して国が評価をして、色々と恩賞を用意している。


恩賞の一部は先に発表されており、その中には貴族として治める土地を任せるというものや、女王陛下直々に騎士団へ推薦してもらえるという変わったものまであるが、何を狩ってこればどの恩賞が与えられるかが明記されていないのがポイントである。


つまり、恩賞と言いつつ、いい人材がいれば引き入れようとしているだけであり、どれだけの魔物を狩ってこようが、ルージュさんのお眼鏡にかなわなければ貴族や騎士になれることはない。

怪しまれないようにお金は貰えるだろうが、それだけだ。


「メアリーさん、この依頼を受けます」

やっと僕の番が回ってきたので、メアリーさんに剥がした依頼書を渡す。

僕がメアリーさんの列に並んだのは僕もメアリーさんの虜になったからではなく、順番が回ってくるのが一番早いからだ。


1番人気の受付嬢だということあって、列は1番長いわけだけど、メアリーさんは仕事が早い。

そして、冒険者達の戯言を流すのが上手い。

結果として冒険者1人に対応する時間が短くなる。


それをわかっている人もメアリーさんのところに並ぶからさらに列は長くなるわけだけど、それでも変わらずこのスピードだというのは、1番人気というのは顔だけでなれるものではないということだろう。


「はい、お受けしました。気を付けてくださいね」

先程の熱烈なアピールをしていた冒険者に対しての対応と大きく異なるが、これでいい。

どうでもいい話で時間を取られる必要はない。


「ありがとうございます」

社交辞令だとしても心配されたことにお礼を言って列を離れる。


元々の言い出しっぺとして討伐祭に参加しているわけだけど、やるからには何かしらの記録は残したいものだ。



「くそ、なんで今日に限ってこんなに人が多いんだよ!」

ギルドから出ようとしたところで、ちょうど入ってきたローブ姿の男が不満を漏らす。


「どけ!俺はメアリーに会いにきたんだ」

騎士もいるので不満を漏らしつつも大人しくなるだろうと思っていたけど、ローブの男は列を無視してメアリーさんの方へずかずかと歩いていく。


「ってえな。何し……」

肩を掴まれ列を抜かされた冒険者がローブの男に文句を言おうとして途中でやめる。

顔を見て言うのをやめたようだし、面白そうだな。


「あのローブを着た人って誰かわかりますか?」

動こうとした騎士達に視線を送ってから、近くにいた冒険者に話しかける。


「あいつはモーガン。元Bランクだが、実力はSランクでもおかしくないと言われていた」

モーガンを鑑定すると、魔法スキルを多数取得しており、レベルはなんと116と僕よりも高かった。


「なんで元なんですか?」


「メアリーちゃんに付き纏っていたことでギルドへの立ち入りを一時的に禁止されたんだ。それを破ったからギルド証を剥奪された」

ストーカーか。どこの世界にもいるんだな。


「なるほどね。教えてくれてありがとう」

お礼を言ってから、「メアリーをだせ!」と騒いでいるモーガンのところに行き肩を掴む。


「なんだてめぇ。殺されてぇのか!?」


「せっかくの祭りをお前みたいなクズのせいで台無しにされるわけにはいかなくてね。暴れたいなら僕と勝負をしないかな?これでも顔は広くてね。もし僕の提案する勝負に勝てたらメアリーさんと話せるようにギルド長に掛け合ってあげるよ。僕が勝負内容を提案するのは有利だから、2つやってどちらか勝てたらそっちの勝ちでいいよ」


「てめぇと話している暇はねぇんだよ!メアリーを出しやがれ!」


「子供に負けるのが怖いんですか?そんなだからメアリーさんに相手にされないんじゃないのかな」

相手にしてくれず、ギルド長の部屋に向かって叫ぶので、もう一度肩を掴み挑発する。


「なんだとてめぇ。もう一度言ってみろ!」

モーガンに胸ぐらを掴まれる。


「僕に勝てたらあなたみたいな付き纏いクソ野郎でもメアリーさんと話が出来るようにしてあげるから、勝てる自信がなくて怖気付いているわけじゃないなら勝負しようよ。ギルド長!聞こえているでしょ?待ってても騎士は動かないし、立会人になってくれないかな?」

胸ぐらを掴まれたままもう一度挑発して、騎士が対応するだろうと静観を選んだギルド長に騎士は動かないと教え、立会人を頼む。


ギルド長が立会人なら勝負を受けるモーガンも、勝負に勝てばメアリーさんと話せるとわかるだろう。


「騒がしいぞ貴様ら!何のために騎士が並ぶことを許したと思っているんだ!」

ギルド長がこちらを睨みながら怒鳴る。


「静かにさせようって言ってるんですよ。立会人やってくれますよね?それで、この人が勝ったらメアリーさんと話をさせてあげてください。ちゃんと護衛は付けるので」


「……わかった。ただし、護衛はトップにやらせろ。それなら許す」


「わかりました。そうなれば頼んでおきます」

レイハルトさんが護衛をするかどうかの決定権は僕にはないけど了承しておこう。


「嘘じゃねぇだろうな?俺がこいつをぶちのめせばメアリーに会わせるんだな?」

モーガンはギルド長から言質を取ろうとする。


「あ、直接戦いはしませんよ。そんな野蛮なことはあなた以外誰も望んでいない。方法は僕が提案すると言ったはずです。一つは魔法勝負、もう一つは討伐祭に因んで、期間中にどれだけ指定の魔物を倒せるかどうかにしましょう。もし僕が負けたらギルド長はメアリーさんとこの人を会わせる。あなたが負けたら衛兵のお世話になる。このまま詰所に連れていかれるよりはいいでしょう?周りが見えていないみたいですが、あなた、騎士に囲まれてますよ?」

モーガンに騎士の存在を教え、答えを待つ。


「は………………くそ!お前に勝負で勝てばこいつらも引くんだな?」

モーガンはぐるりと周りを見て動きを止める。

本当に見えていなかったんだな。

恋は人を盲目にするというが、ここまでか。


「騎士に命令する権限は僕にありませんが、今までの話は騎士の方達も聞いていますので、誇りある騎士様達が介入したりはしないでしょう」


「いいだろう。魔法士の俺に魔法勝負とは馬鹿なやつだが受けてやる。約束は守れよ」

モーガンは僕ではなくギルド長に言った。

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