第255話 魔法勝負

「何を考えているのか知らないが、殺し合いは禁止だ。それ以外なら立会人となる。勝負方法を提示しろ」

ギルドの訓練場へと野次馬も一緒に移動し、ギルド長から勝負内容の提示を求められる。


「あそこに何をしても壊れないと有名なカルム商会製の魔導具の的がありますよね?あそこに魔法を放って競うというのでどうですか?制限時間内にどれだけの魔法を当てれるか、どれだけの威力の魔法を放てるか、どっちがいいか選んでいいですよ」


「どこまでもふざけた野郎だな」


「どっちを選んだところで僕が勝つことには変わりないからね。正直な話、二つ目の勝負が本命であって、一つ目はお互いの力量を確認しようってだけだから。別に両方でもいいけど、どうするの?」


「数で勝負だ!二つ目なんてなく、それで終わりだ」


「それじゃあ10秒間でどれだけ魔法をあの的に当てられるか、カウントは公平にギルド長お願いします。ルールは近接しての攻撃はヒットとして数えないが、魔力を使っての攻撃はなんでもオッケーとしましょうか。もちろん妨害は無しで、協力者も認めません」

妨害ありならクリアルームの使える僕が負けることはなくなるからね。


「いいだろう。後で喚いてもメアリーに会わせてもらうからな」


「僕の想定を大きくあなたが超えなければそんなことにはならないので大丈夫ですよ。それじゃあお先にどうぞ」


先にモーガンにやらせて、僕はモーガンの挑戦を見守る。


「俺が石を上に投げるから、それが地面に付いたところから開始とする。この砂時計の砂が落ち切った後に放たれた魔法は無効とし、砂が落ち切った後でも、既に発動された魔法であればカウントする。いいな?」

ギルド長が建物内から砂時計を持ってきてモーガンに見せながら説明する。


「さっさとしてくれ」


モーガンの返事を聞いて、ギルド長が石を上に投げる。


「おらおら───」

モーガンが威力のほとんどない火球を的に向かって放ち続ける。

威力を無くしている代わりに、その数は数えきれないほどに多い。

カウントするギルド長は大変だなと他人事のように思う。


「そこまで。……結果は38発だ」

ギルド長が職員とも話してから結果を伝える。

職員にも数えさせて、大きな差がないことを確認したのだろう。


しかし38か。もっと放っていたように見えたけど、的に全て当たっていたわけではないから、思ったより少ないな。

それでもさすが実力はSランクと言われるだけの結果であることは、野次馬達の反応を見れば分かる。


「次は僕ですね。合図をお願いします」


ギルド長が石を上に投げ、地面に石が落ちる。


「ファイアーボール!ウォーターボール!」

20個ずつの火球と水球がほぼ同時に展開され、的に向かって飛んでいく。

ゲームの時と同様に発動した魔法には命中補正が掛かっているようで、止まっている的に外れることはなく、全て狙い通りに着弾する。


さらに幻影でつくった火球と水球もそれぞれ30個飛ばしているので、幻影だと気付かない人には合計100個もの魔法弾が正確に的に当たったように見えるだろう。


幻影に関してはモーガンが気付くのか知りたかっただけで、例え指摘されたとしても本物の魔法だけでもモーガンの記録以上に当たっているので、勝ち負けの結果は変わらない。


「これ以上は必要ないですね。制限時間前ですが、僕の勝ちということでいいですか?」

手を止めてギルド長に確認する。


「問題ない。…………見えづらかったが、結果は40くらいだ。あれだけ精密に制御していてモーガンの記録より下とも思えない。この勝負はクオンの勝ちとする」

ギルド長が僕の勝ちを宣言する。


「俺を馬鹿にするのもいい加減にしろよ。何が結果は40だ!俺に気を使っているつもりかもしれないが、そんな気を使われる方が迷惑だ。今のはどう見ても倍の80はあった。しかも多属性の同時発動。大差をつけてお前は負けたんだと正直に言えばいいだろうが!」

魔法学院の学院長ですら気付かなかった幻影を見破ったギルド長は流石としか言いようがないが、モーガンは気付けなかったようだ。


「俺は公平にジャッジしただけだ。どちらかを優遇するようなことも言っていない。怒るなら騙すようなやり方をしたクオンに向けて怒れ」


「どこまで気付いたのか分かりませんが、種明かしは無しでお願いします。最初に言いましたが、これは力量を確認してもらいたかっただけです。次の勝負で本気を出して欲しかったから」


「てめぇ何者だ?」


「クオンといいます。ランクはDランクですが、バーゲストやヘルハウンド、カリュブディスを討伐したことはあります。昇格試験を受けていないというだけで、Dランク以上の実力はあると思ってくれて構いませんよ」

モーガンに名乗る。騎士団長でもなくなった僕の肩書きはDランク冒険者のみなので、嘘はついていない。


「実力は見たばかりだ。Dランクだからと下に見るつもりはもうねぇ。さっさと次の勝負内容を言え」


「期間は討伐祭中。ドレイク種の総量で決めましょう。小さいのを何頭も狩ってきてもいいですし、でかいのを一頭狩ってきてもいい。討伐祭のルールの一つにもある魔石と心臓、それぞれが保有する魔力の合計で勝敗を決める。どうですか?元Bランクでも実力はSランクとお噂のあなたならドレイク種を狩ることも可能ですよね?」


「そういうてめぇは狩れるのかよ?」


「カリュブディスも海竜ですよ?既に実績はあります。ルールはドレイク種……もちろん上位のハイドレイク種も含め、ドレイク種の魔石と心臓をどれだけギルドまで持ってくるかだけです。期間はさっき言った通り討伐祭が終わる20日後まで。相手が相手なので、他人の力を借りることも有りとします。ドレイク種を探すにも情報を誰かに聞いた方が早いですからね。僕は戦闘で誰かの手を借りるつもりはありませんが、あなたは好きにしてください。万が一僕もあなたも狩れなかった場合はあなたの勝ちでいいです」


「いいだろう。やってやる」

抽出出来る魔力量が多いドレイク種の討伐依頼書が全然剥がされていなかったからね。これで少しは足しになるだろう。


「待て待て待て。クオンはDランク、モーガンは冒険者でもない。そんな高ランクが相手をする魔物の討伐なんて認められるか」

ギルド長が待ったをかける。


「別に依頼を受けるわけではないので報酬は無しでいいですよ。勝負を見届けて衛兵に引き渡すか、メアリーさんに会わせるかしてくれればいいです。この人も元ではあっても冒険者なら引き際くらい分かるでしょう」


「止まる気はないか。ギルドは一切の責任を取らんがいいな?行方知らずとなっても捜索もしない」


「もちろん。でも、この人が負けて逃げたらちゃんと捜索してくださいね」


「てめぇ一つ聞かせろ」

怖気付いているわけでもなさそうだし何だろうか。


「なんですか?」


「俺が勝てばメアリーのやろうに会えるが、お前が勝ったところで俺が捕まるだけでメリットなんてないだろう。なぜてめぇがこんなリスクを負う?」


「イベントのフラグが立ってたからですかね。ほら、1人で魔物を狩るよりも、誰かと競った方がモチベーションが上がると思わない?こっちの話で悪いけど、色々と片付いちゃって暇なんだよね」

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