第253話 式典

各地に散らされていた国王の手下である不浄の大地の構成員があらかた捕縛されたタイミングで、フランちゃんが次の王となったことを祝う式典が行われる。


式典には豪華な食事が並び、他国からの来賓も多く、皆着飾っていることから華やかではあるが、準備された城のパーティ会場は異様な空気に包まれていた。


この式典が行われる前に、フランちゃんの戴冠式が行われており、その前には前国王を含めた貴族達の公開処刑が行われたからだ。


次期王であるフランちゃん主導のもと調査が入り処刑することになったことは、フランちゃんの口から民衆に説明しているが、不浄の大地というあまりにも大きな組織のボスの娘が王となるというのは、この国に住む人たちにとって不安でしかないだろう。

フランちゃんがまだ幼いというのも不安を大きくしている要因だ。


それは民衆だけでなく、ここに参加している人たちも同様で、楽しく歓談しているようで、どう接するべきかこまねいている。

特に他国から招待された人にとっては、今後王国とどのように接していくのか見極める場でもある。

決して新たな王を手放しで歓迎する雰囲気ではない。


詳しいことは公にされていないが、魔王を討伐した立役者として僕と委員長も式典には参加している。

この国の未来にこれ以上関わる気はないので、周りの空気なんて気にせずに、僕はフルーティなソースの掛かった薄切りのお肉を頬張る。


用意されている料理はどれも美味しいが、この少し甘いソースの掛かったお肉が一番美味しい。

この肉に限らずまあまあな量を既にストレージに入れて持ち帰る用意をしているが、料理に手をつけている人がほとんどいないので誰も怒りはしないだろう。

このままでは廃棄されるだけだ。


「そんなにパクパク食べている人なんてクオン君くらいよ。周りの目とか気にしないの?」

皿に少しだけ料理を乗せている委員長に言われる。


「通常なら僕の方が普通なんだけどね。祝いの式典に参加して難しい顔をみんながしているから、普通にしている僕がおかしく見えるんだよ。それと、周りの目を気にして行動が変わる人は、ゲームをするために不登校にはならないから」


「それもそうね。あそこに白い服を着た人達が固まっているの見える?」


「もちろん見えるよ」


「あの人たちはセイントレラ国の第二王子とそのお付きの貴族達よ。セイントレラ国は信仰心が強く、教会との繋がりが深いことで有名な国だから、フランちゃんがこれからやっていくことを考えると一番の障害になる可能性が高いわ」

実際には存在しない神を信仰している国か……。


「そうだね。でも、神事として行うわけだから、その説明次第じゃないかな。そこはルージュさんがうまくやるでしょ」


「クオン君って、色々と首をつっこんでいる割には他人事よね」


「実際他人事だからね。僕が関わったことに関しては責任はあると思っているけど、それ以外は僕に被害が飛び火しなければどうなってもいいと思っているよ。僕は自分のことを冷めていると自覚しているけど、委員長も大概だからね。もう少し肩の力を抜いたら?」


「別に無理なんてしてないわよ。一番のピークだったのは、クオン君がみんなを殺した時だから」


「そっか、それなら安心したよ。一つ聞いていい?」


「なに?」


「魔王がなんだ、神がなんだって話になったけど、元々は国王を討伐すれば元の世界に帰れるかもしれないって話だったわけじゃない?これからこの国がどうなるかはわからないけど、今すぐにこの国が豊かになったとフランちゃんが感じることはないと思うんだ。これからどうするか何か考えてる?」


「正直お手上げね。フランちゃんを殺すのは倫理的にも、この世界を守るためにも無理だし、クオン君を殺してスキルを交換するとしても、やりたくないし、クオン君が抵抗するなら勝てる気もしない。石像になってる神様はスキルを交換出来る神様とは違う可能性が高いし、本当の神様に勝てるとも思えない。他に方法が見つからなければ、死んでみるしかないんじゃないかな」


「まあ、前に言ってたことを考えるとそうなるよね」


「クオンくんはどうするの?」


「とりあえず式典が終わったら帰ってゲームしようかと思っているよ。最近あんまりイン出来ていなかったからね」


「クオンくんはブレないわね。色々と決まるまではルージュさんと一緒にフランちゃんの手助けをしているから、何かあれば教えてほしいわ」

委員長はまた仕事を引き受けて休まないようだ。


「わかったよ」


僕の返事を聞いた後、委員長はルージュさんがいる方へ歩いていった。

これ以上、話し相手として時間潰しには付き合ってくれないようだ。



「クオン殿でよろしいか?」

お腹も膨れてきたので、次は甘いものを食べていると、きれいに整えられた白い髭を生やしたおじさんに声を掛けられる。

名前を呼ばれたが、見たことはない。


「はい、そうです。失礼ですがどなたですか?」


「リンゴル帝国宰相、クリストと申します」


「帝国の宰相様でしたか。失礼しました。また、裕福な生まれではなく畏まった話し方が出来ません。先に謝罪致します」


「楽に話してくれて構わない」


「あ、そうですか。それじゃあ失礼しますね」

許しが出たところで話し方を元に戻すと、宰相は少し不快そうな顔をする。

そんな顔をするなら初めから楽に話していいなんて言わなければいいのに。

無礼講を無礼講と捉えてはいけないなんて面倒な考えに賛同する気はさらさらない。


「それで、なにか僕に用ですか?」


「魔王を倒されたようですな」


「……ルーカスさんから聞きましたか?」


「魔王の研究をする為にお金を工面して欲しいと」


「人の秘密を勝手に話さないように言っておいてもらえますか?これ以上話すなら、お金を用意してもルーカスさんには売らないようにすると。宰相様も他言しないようにお願いします」


「よく言っておくとしよう」


「お願いします。それで、僕が魔王を倒したからなんですか?魔王の素材なら既に女王様に売ったので僕は持ってませんよ」


「いえ、そのような用ではありませんよ。魔王を倒される方がどのような方なのか会って話をしたかっただけです」


「そうですか」


「失礼とは思いましたが、あなたのことを少し調べさせていただきました。冒険者としての記録くらいしか確かなことはわかりませんでしたが、魔王の件を含めて叙爵されてもおかしくはないと考えます。王国に仕える気はないのですか?」


「そもそも、貴族位の打診をされたことはないですね。魔王の件については戴冠前ではありましたが、女王陛下より望む形で恩賞を頂きましたよ」

叙爵されるような功績というとカリュブディスの討伐をしてアクアラス周辺の海を使えるようにしたことくらいだろう。

魔王討伐に関しては国王を幽閉している最中のことなので、タイミングの問題としてそんな話にはならない。


「騎士の頂点にもなられていました。どうして退任してしまわれたのですか?アリオス殿の後任が決まったという話は帝国内でも大きな話題になっていましたが、早々の退任に対して不確かな噂が流れています」


「僕よりも適任がいたので、本来そこに座るべき人に返しただけです。そもそも、団長になったのも騎士団長という立派な椅子が転がっていたからなので、退任することに思うところは特になかったですね。宰相様も皇帝の座が空いていたら座ってみたいとは思いませんか?」


「私は宰相という立場として陛下にお仕えすることこそが天命だと思っています」


「そうですか」

宰相という仕事に誇りを持っているなら同意は得られなくて当然か。

まあ、冗談でもそんなことは言えないだけかもしれないけど。


「コホン、話を戻します。詳しくは存じませんが、クオンさんは今回の反乱に大きな貢献をしたことでこの場に参加しているとお聞きしてます。フラン女王陛下が国の為に力を貸して欲しいと仰ったらお受けするのですか?」


「友人として助けを求められれば手を貸すか考えますが、女王陛下の下に付くつもりはありませんね」


「クオンさんに帝国の貴族となっていただきたいと考えているのですが、フラン女王陛下の下には付けないという理由をお聞きしてもよろしいですか?」


「自由な時間が減るからです。なので、お気持ちはありがたいですが、帝国の貴族になるつもりもありません。女王陛下に友人として頼まれれば、名ばかりの貴族にはなるかもしれませんが、貴族としての責務を果たすつもりがないことは女王陛下もわかっているでしょうから、そんな話を僕にすることはないでしょう」


「それは残念でなりません。皇帝陛下には丁重にお断りされたと伝えておきます」


「僕個人として敵対する意思はありませんので、誤解のないようよろしくお伝えください」


「伝えておきます。最後にもう一点、フラン女王陛下が仰っていた神事について、どういった思惑があるのかご存知でしたら教えていただきたい。先程ご挨拶した際にお聞きしましたが、お付きのルージュ殿にうまく躱されてしまいました」


「僕も詳しいことは知りませんので、お答え出来ることはありません。ただ、国の行事ではなく神事だと言うからには、なにかしらの意味か願いがあってのことなんだと思いますよ」

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