第250話 評議会

現状でどのくらい賛成派の心に僕の演説が届いたのか確認する為に、途中経過として席移動をしてもらうと、重点的に話しかけていた賛成派の神々ではなく、反対派と中立派の神々が賛成を示す席へと移動することになった。


意味がわからない。

何か僕は間違えたのか?


「賛成多数だね。まだ交渉を続けるってことでいいのかな?」

最高神に聞かれるので「はい」と答えはしたが、これ以上何を言えばいいのかわからない。


こんな時に委員長がいれば別の案が出るのだろうか……。

現実から逃れたくなるが、これで決まったわけではないので、頭をフル回転させる。

僕の頭で考えたところで良い案なんてすぐには出ないとわかっているので、委員長ならこういう時にどうするのか考える。


……まずは情報整理だ。


さっき僕が言ったことは、あの世界は僕を神と選定したという話と、僕は枠の中からはみ出た存在だからこの採決に含めるなという話の2点であり、1つ目は否定したので無視していいはずだ。


つまり、僕の存在を無視すると、何故か世界を作り変えることに反対してくれていた神々も賛成することになるということで間違いないだろう。


「まだ交渉材料があるのではなかったのか?」

賛成派のリーダーらしき神に言われる。


「想定していない結果に考えをまとめているんです。少し待ってください」

時間が欲しいと答えた後、思考を続ける。


僕がつまらなくなったから世界を作り変えることになったというのに、なぜその原因を取り除いたら悪化するのか…………つまらなくなって期待を裏切った以上に、僕はあの世界が神の選定という役割をこなしていると、神々が認める貢献をしていたということなのか?


そうなると前提からおかしくなってくる。


「いくつか聞かせてください。席を移動した神様達は、僕が今回の神の選定に含まれないとして移動したということでよろしいですか?」


「そうね。少なくとも私は貴方の話を聞いて考えを変えたわ」

元々反対派の席に座っていて、今は賛成派の席に座っている女性の神が答えてくれる。


「そうですよね。もしかしてですが、元々世界は作り変えられる予定だったけど、僕というイレギュラーな存在が現れたことで、その判断が一時的に覆ったのではないですか?ただ、ギリギリ覆っただけだったので、僕に期待していた神様の一部が僕の評価を下げたことで、また世界は作り変えることになった。違いますか?」


「やっと気付いたか。火に油を注ぐようなことを言っていたから滑稽だったが、少しは貴殿を認めてやるとしよう」

賛成派のリーダーらしき神から答えをもらう。

結果として、賛成派の都合のいいことばかり言っていたのだから、賛成派が賛同してくれるのは当然だったということだな。


しかし、これがわかったところでどうすればいいのかの答えは出ない。

結局のところ、僕が召喚される前から既に問題が発生しているのだから、それより前のことなんてほとんど知らない僕が神々を説得出来るだけの話を出来るわけがなく、結果は変わらない。


僕のせいで世界が作り変えられるわけではないとわかって、重圧から解放されただけだ。


「僕が召喚される前からあの世界は作り変えられる予定だったということですよね?なぜ作り変えないといけないのか、僕は勘違いをしていて一番重要なことを知らないので教えてください」

僕には決定的な情報が足りていない。

問題の根本を知らなければ、対処することなんて出来ない。

説得しにきてこれでは駄目だろうが、わからないのだから恥を捨てて聞くしかない。


「神の選定を受ける条件の1つとして、世界を渡ることがあります。世界を渡ることで魂は強い刺激を受け、神となり得るだけの器を得ます。さて、これを踏まえての質問の答えですが、貴方達が召喚されたのは約100年振りの出来事になります。これは100年もの間、課せられた役割を放棄していたと言えます」

先程の女性の神が答えてくれる。


やっと本質を理解した。

つまり、もっと他の世界から拉致してこい!ってことか。


そして、僕は幾度も世界を行き来したことで、魂に強い刺激を受け続けていると。

自由に世界を渡れる力が珍しく、少しだけ特殊な思考をしていたから、僕は大きな期待をされることになったのだろう。


頻度が少なくとも、想定を超える存在が神となるなら許容してもいいという判断をした神が、まあまあいたということか。


「それなら、世界を作り変えるのではなく、もっと召喚を行うように神託でも下せばいいんじゃないですか?」


「現在、あちらの世界に神の言葉を受け取ることの出来る者は存在していません。存在しない神を信仰する者が大半を占め、本来の神の言葉が聞こえないのです」


「その本来の神というのは、石像になっている神のことではないですよね?」


「もちろん違いますが、あの神とあちらの世界を司る神は間接的にではありますが繋がっています。あの神を崇めているのであれば何も問題はありませんでした」


「教えていただきありがとうございます。理解しました。つまり、もっと頻繁に召喚を行うようになれば何も問題はないとそういうことですね」


「問題は解消されたと考える神は多いでしょう」

やっと道が開けた。

さっきの賛成派の神とは違い、この女性の神が本当の意味で手を貸してくれたおかけだ。


「神の言葉が聞こえないなら、僕が代わりに伝えます。そして、議題の変更を提案します」

最高神の方へ向き、議題の変更を申し出る。


「議題の変更ね。聞くだけ聞こうか」


「世界を作り変えるかどうかの採決を延期するかどうかです。僕はあの世界で召喚の力を持つ王女と関わりがあります。王女は僕の言うことを聞いてくれるでしょう。判断するのは、その王女が死んでいなくなった後も召喚が途切れないことを確認してからでも遅くないと思います。200年後でどうでしょうか?」


「反対する神が多いなら否決されるわけだから、そのくらいいいんじゃないかな。何か意見のあるひとはいるかな?」


最高神からいい答えをもらい、最高神の決断に意見する神はいなかった。


「いないみたいだね。それじゃあ今回の議題は変更するということで、元の議題の採決を先送りにするか決を取ります。賛成、反対、中立、それぞれの席に移動してね」


最高神の合図で神達が立ち上がり移動を始めた。

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