第251話 神の世界②
議会は賛成多数にて、問題は先送りになることで閉じられた。
議会を終えた後、一部を除き議会での話は他言してはいけないと言われる。
その中には世界の役割についても含まれており、既に話してしまっている委員長、アリオスさん、レイハルトさん、それからレイハルトさんを通して話を聞いているルージュさんに口止めしないといけない。
また、地球の役割についても同様だ。
とりあえず、最悪の未来は避けられたと考えていいだろう。
「ここが貴殿の部屋だ。貴殿の神殿が出来るまで好きに使え」
議会を終え、最高神から注意を受けた後、僕は世界を作り変えることに賛成派の中心にいたゲルレイという神に連行されていた。
ゲルレイ様は採決を延期することに、意外にも賛成してくれ、何故か僕を気に入ってくれたようだ。
「ありがとうございます」
神の血の効果が切れるまでここを出ることは出来なそうなので、ありがたく部屋を使わせてもらう。
しかし、まだ神になる気はないので、神殿なんていらない。
「いいところに連れて行ってやる」
ゲルレイ様にまた腕を掴まれて、今度は噴水のある中庭に連れてこられる。
噴水と言っても、噴き出している水は赤色をしている。
そして、噴水の中に放り投げられた。
「なにをするんですか!?……ひっく」
なんだか頭がぽーっとしてきた。
「神酒の味はどうだ?美味いだろう?」
ゲルレイ様がどこかからコップを取り出して、噴水の水を飲んでいる。
「……たしかにおいしいですが、まだ飲める歳じゃないれす」
噴水から這い出ながら答える。
酒がこんなに美味しいなら、おっさん達が酒に溺れるのも納得だな。
「ここにそんなルールなんてないから安心しろ。それに、この酒は体に残らない優れものだ。数分もすれば酔いは完全に覚める」
「……そうですね。もう酔いは覚めてきました」
ゲルレイ様の言う通り、既に頭は冴えてきている。
「バッカスの名は知ってるか?」
「聞いたことある気がします」
バッカスというゲームのキャラがいたのは知っているけど、そのキャラのことを言っているのではなく、そのキャラのモチーフとなっている、神か地域なんかのことを言っているのだろう。
「バッカスは酒の神だ。それは他の酒がまずくなるって程の代物だが、俺の力で無限と噴き出している」
「それはつまり、僕は今後お酒を飲んでも美味しく思うことが出来くなったということですか?」
「他の酒を飲めば飲むほど、この酒のことが頭をチラつくな。まあ、いつでも遠慮せずに飲みに来い」
なるほど。ゲルレイ様の行動によって、大人になってからの楽しみが1つ消されたわけか。
「それじゃあ、少し頂いていってもいいですか?」
「好きにしろ。枯れなければいくらでも増やせる」
「ありがとうございます。ゲルレイ様の力というのはどういったものなんですか?」
空の樽を3つ取り出して神酒を汲みつつ聞く。
「増殖させることだ。無から何かを生み出すことは出来ないが、既にあるものを増やすことは出来る」
増殖か……。そういえば、僕が召喚された後にアイテム増殖バグが見つかって修正が掛かったみたいだけど、僕のスキルの基準はどこなんだろうか。
「それは便利ですね」
「貴殿ほどではないがな。赤ばかりではなく、他の酒も持っていくといい。こっちだ」
ゲルレイ様の神殿の中にはいくつも噴水があり、そのどれもが水ではなく、バッカスという神が造った酒だった。
樽をゲルレイ様に増殖してもらって、それぞれ汲んでストレージに仕舞う。
「もらっておいてあれですが、お酒ばかりですね」
「俺は他にやることなんてほとんどないからな。管理する世界が問題なく役割を果たしている連中は、たまに神託を下ろすくらいで、毎日酒に溺れるか、寝てるか、神なんてそんなものだ。下手に干渉すれば悪化するリスクもあるからな。忙しいのは、最高神様と貴殿が訪れたような役割を全う出来ていない世界を管理している神くらいだ」
なんだか聞きたくなかったな。
「そういうものなんですね」
「貴殿もしばらくすればそうなるかもしれんな。今はまだ管轄を任されていないが、楽な世界を任されるといいな。そしたら俺の酒に付き合え」
「あ、言ってませんでしたが、アイテムの効果が切れたら僕はあの世界に戻りますよ。3日後には神ではなくなってます」
今ファストトラベルしたところでここに戻ってくることになりそうなので試してはいないが、マップはちゃんと機能しており、確認した限りだとアクアラスの時のように閉じ込められているという判断はされていない。
人に戻った時点でここからはじき出される気がするけど、そうならなくても僕は帰るつもりだ。
「評議会で神になったと貴殿は言ったが、それは嘘だったのか?」
ゲルレイ様にジッと見つめられる。
表情は変わっておらず、騙すようなことを言ったことを怒っているのかわからない。
「嘘ではないです。こうして神にはなりました。その後人に戻るだけです。戻ってフランちゃんに召喚を定期的に行わせないといけないので、戻りはしますよ」
「はっはっは!貴殿はつまらない存在になったと思っていたが、俺の思い違いだったようだ。ほとんどの神が貴殿が人に戻るなんて思っていないからな。驚く顔が今から楽しみだ」
バシバシと背中をゲルレイ様に叩かれながら、笑われる。
「そうなんですか?僕はあそこで王女に話をすると言ったんですよ。神託が届かないのに、神のままどうやって話をすると思われているんですか?」
「関わりのあった人物に意思を飛ばす方法はある。容易なことではないが、一度神になった者が人に戻ることに比べれば、そうでもない」
「それじゃあアイテムの効果が切れるまで他の人には言わないようにしますので、神様達がどんな反応をするのか楽しみにしておいてください」
「そうさせてもらおう。しかし、貴殿がすぐにここを去るなら、こんな酒ばかり教えるわけにはいかないな。面白いことをしている連中がいるから紹介してやる。神の世界を観光する人間なんて貴殿が初めてじゃないか」
「ありがとうございます」
ゲルレイ様に神の世界を案内してもらうことになった。
神の世界は、様々な世界の文化が混ざっており、3日という短い時間では到底回りきれないほどに広い。
各々が自身を象徴する神殿を建てており、神の中でも上位らしいゲルレイ様に案内してもらっていることもあって、神殿に入る度に歓待を受けることになった。
ゲルレイ様に案内してもらったからかもしれないけど、案内してもらった神殿のほとんどで賭け事が行われており、自身の力を掛け金として提示して、負ければ勝った者の為に力を行使しなければならないようだ。
そもそも、お金を賭けたところで、ここに使うところはないらしい。
最初にあの少年姿の最高神が言っていたような、自身の管理する世界の住人を賭けの対象にするなんてことは御法度のようだけど、僕達の中から何人が神として選ばれるのか、そんな当人には傍迷惑なことまで賭けの内容になっていた。
それだけ神様達は暇を持て余し、娯楽に飢えているようだ。
やり過ぎない程度で僕も賭けに参加して、ゲルレイ様に増殖の力を使ってもらった。
面倒見の良いゲルレイ様は賭けの結果に関係なく頼めば力を行使してくれるようだけど、頼みにくいことを頼むという口実としても賭け事は必要のようだ。
「そろそろアイテムの効果が切れる頃だと思います。ゲルレイ様、短い間でしたが良くして頂きありがとうございました」
神の血を飲んでからもうすぐ72時間経つところで、ゲルレイ様にお世話になったお礼を言う。
「またここを訪れる時には俺のところに顔を出せ。評議会では特別扱いすることは出来ないが、それ以外では力になってやる」
評議会ではどの神も責任を持って参加しており、仲が良い神の頼みだからと優遇することはないそうだ。
その為、派閥というものも存在していない。
「ありがとうございます。その折には力をお借りします」
しばらくして、また激痛により僕は意識を失った。
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