第249話 神の世界
「ようこそ。神々の世界へ」
目を覚ますと、目の前にいつもの神様がいた。
「……お久しぶりです、神様」
挨拶をしてから、背中がむずむずしたので掻こうと手を伸ばすと、フワッとしたものに手が当たった。
「そんな羽を生やした神なんてほとんどいないよ」
背中なのでよく見えないけど、白い羽が生えているのはわかる。
クロノスさんの動画で見たあの羽が生えているのだろう。
飛ぶことも出来ない飾りの羽。
「神様にも付いていませんね。これがわかりやすい神のイメージってことなんでしょうね」
目の前の少年姿の神様の見た目は普通の人と変わらない。
羽が生えている神もいるようだけど、僕の今の姿は神として間違っているみたいだ。
「まずはおめでとうと言っておこうかな。ここまで来たのは君が初めてだよ」
神様がパチパチと気持ちの込もってなさそうな拍手をする。
「……ありがとうございます。僕が初めてと言いましたが、神下さんも来ていたんじゃないんですか?それとも自分の意思でという意味でしたか?」
「彼女はここには来ていないよ。ここは神が住む世界であり、天使が立ち入ることは許されていない」
「そうでしたか。早速で申し訳ありませんが、世界を作り変える件について話をする時間をもらえますか?」
神の血の効果はゲーム内だと3日であり十分に時間はあるが、有限であることには変わりないので本題に入れないか確認する。
「ついてきて」
神様が歩きだしたので、ついていく。
無言のまま少し歩き、ドーム状の飾り気のない建物の中に入る。
ここで話を聞いてくれるのかなと思ったけど、中に入ると100人近いひとがステージのような台を囲むように座っており、神様が入った瞬間、ビシッと全員立ち上がる。
「楽にしていいよ。
神様が許しを出し、立ち上がったひとたちが一斉に座る。
「ここで話をするんですか?」
「僕の一存で決めることではないからね。みんな君の話を聞く為にここに集まっている。向こうにいるのが世界を作り変えることに反対派、こっちが賛成派。この辺りは中立だね。訴えたい方に向かって話をするといいよ。最後に決を取るから、反対多数なら今回の改変はなかったことになる」
現状、反対派よりも賛成派の方が若干多いようだ。
僕はステージまで歩き、中立派の神様達の方を見る。
中立としている神が反対派に回れば十分に数で上回ることが出来る。
ならば、中立としている神に訴えかけるのが一番効果が高い。
元々反対派の神は何も言わなくとも反対してくれるだろうし、賛成派の神を説得するのは中立の神の考えを変えるよりも難しい。
だからこそ、中立となっている神を相手にするのは逃げだ。
僕は賛成派の方に体の向きを変えて話を始める。
「………………クオンと言います。今回、神様達が世界を作り変えるという判断をしたと聞き、何ふざけたこと言ってるんだ?と思いここまで足を運びました」
あまりの威圧感に言葉が出なくなるが、なんとか言葉を発する。
「僕があの世界のせいでつまらなくなったと判断したそうですね。それに関しては別に否定しませんよ。僕はあの世界をゲームのような世界だと思っていただけで、初めからゲームだとは思っていない。世界が崩壊するかもしれないと聞けば、つまらない方法もとりますよ。それが普通の考えであり、それでも自己の楽しみを優先する方が狂ってる。つまり、ここに座ってるお前らが狂ってるんだ」
これだけ言っても怒鳴り散らかす神はいない。
ここがそういう場だということだろう。
「言いたいことはそれだけか?それで私達の考えが変わるとでも思っているのか?」
一番前に座っていた男の神が口を開く。
「今のは僕の感情をぶつけただけで、本題はここからです。今回世界を作り変える理由は僕がつまらなくなったからではなく、僕がつまらなくなったことを機にあの世界が神の選定という役割を成していないと判断したから。ここに座っている方々もそれは認識しているということですね?」
「貴殿に関わるところではそうだな」
先程の神が代表して答える。
あの神が賛成派の中心のようだ。
「神の選定がどのような基準で行われるのか知りませんが、僕はこうして神になっている。選定の基準がどうであれ、これは僕が神になるべき存在と選ばれたと言えませんか?言いかえるなら、あの世界は僕を神として選んだ。選定したんです。役割は果たしています」
「こじつけではあるが、理にはかなっている。しかし、貴殿は1つ勘違いしているようだ。神を選定するのは私達神であり、あの世界に住む者ではない。貴殿の言い分を認めるのであれば、それはあの世界に課せられた役割を超越する行いだ。これまでとは違う理由で放置することは出来なくなるな」
「選定は神の役割であり、あの世界は選定するためのフィールドでしかない。そういうことですか?」
「そうなるな」
「それじゃあ僕はあなた達神から選定されずとも神となった逸材というわけだ」
「そのとおりだ。だからこそ多くの神が世界を作り変えることに反対することになった」
なんだこの違和感は。
話が上手くいきすぎている気がする。
「つまり、僕は神も想定していないイレギュラーな存在ということです。バグです。バグの責をあの世界に負わせるのはおかしいとは思いませんか?」
「つまり、此度の世界を作り変えるかどうかの裁定に貴殿の存在を含めるのは間違っていると、そう言いたいのだな?」
僕の存在をこの世界の役割の対象から抜いてもらう。
それが僕の狙いであり、取れる唯一の手段ではあるけど、やっぱりおかしい。
何故賛成派の神が僕をアシストするようなことを言うのだろうか?
本当は賛成派の神も世界も作り変えたいとは思ってないのかな?
「そうです」
「確かに貴殿のような特殊な人材まで裁定の要素とするのは間違っているのかもしれないな。私は貴殿を抜きとして此度の世界を存続させるか決めることに異論はない」
賛成派の他の神も賛同するように頷いている。
うまくいったのか……?
「他に言うことが無いなら、このまま採決をとるということでいいのかな?」
最高神である少年の姿の神に聞かれる。
反対派が賛成派に回るとは思えない。
僕が原因で世界を作り直そうとしているのだから、その要因を排除して考えてくれる神は反対派に回ってくれるだろう。
しかも賛成派の中心らしき神が僕の存在を無視すると言ってくれている。
負ける要素がない。
これで負けるなら、何か仕組まれているとしか思えないほどだ。
「だいじょ………………いや、ちょっと待ってください」
進めそうになるのをグッと堪える。
やっぱりおかしい。
どう考えても上手くいきすぎている。
なにより、最高神の目の奥が笑っていない。
このまま進めたら失望される気がする。
「まだ話は終わっていなかったのかな?」
「最終的な採決ではなく、現状でどのくらい心が動いたのか知りたいです。その上で必要であればさらに話をします。まだ交渉材料はありますが、全て言っていては時間が掛かりますので、とりあえず現状を知りたいという話です。全て話さなくても反対派が多数を占めるなら、それだけ神様達の時間を奪わなくても済むということなので」
本題は言ってしまったので、これ以外に考えていたことなんて、どうやって本題にもっていくかということだけであり、これ以上のことなんて用意してないが、途中経過を知るための言い訳として並べておく。
これで反対派が多数ならそのまま本当の採決をしてもらえればいいし、賛成派が多数なら違和感は感じていたのにスルーするという最悪のシナリオは避けられる。
そういえば、最高神は僕の心が読めるみたいだけど、他の神はどうなんだろう。
心を読めるなら、読めているのに話を聞いてくれているということだろうか。
「そのくらいいいんじゃないかな。でも何度も何度もやり直すのはそれこそ手間だから、一回だけだよ。それじゃあ彼の希望だから、それぞれ気持ちが変わった者は移動するように」
最高神の言葉で神々が席を移していく。
考えたくはなかったが、移動した神のほとんどは反対派だった。
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