第248話 神の血

木に叩きつけられ全身に鈍い痛みを感じるが、僕は生きていた。

僕の横には魔王の姿をした石像が転がっており、石像に体当たりされる形で吹き飛んだようだ。


レイハルトさんが倒れたアリオスさんの側に駆け寄っており、アリオスさんの腹は大きく抉れ、上半身と下半身がギリギリ繋がっている。


神特効の防具は意味を成してはくれなかったようだ。

いや、この防具だったから原型を留めてくれているのかもしれない。


アリオスさんが僕と石像の間に入ってくれたからこそ勢いが殺され、僕は肉片とならずに済んだようだ。


「反魂!」

自身の痛みは無視して、アリオスさんの所に行き蘇生魔法を掛ける。


ゴホッ!と血を吐きながらアリオスさんは息を吹き返す。

先程まで血が溜まっているだけだったところに、臓器が現れる。

瀕死であるが、生きる為に必要な最低限のものは返ってきたようだ。


「……今、何をしたんだ?」

レイハルトさんから異質なものを見る目を向けられながら聞かれる。


委員長はホッと胸を撫で下ろしている様子だ。


「後で説明します。今はアリオスさんの傷を塞がないと。ヒール!」

魔力を込められるだけ込めて回復魔法を発動する。


アリオスさんのレベルが高すぎるせいで、一度の発動ではまだ臓器が見えてしまう状態ではあるけど、傷口が塞がりきるまで回復魔法を繰り返す。



「ありがとう。死んだと思ったが、君の治癒魔法のおかげで命拾いした」

まだ完全ではないけど回復したアリオスさんが意識を取り戻し、立ち上がってお礼を言う。

一度死んだことには気付いていないようだ。


「お礼を言うのは僕の方です。アリオスさんが反応して間に入ってくれたおかげで助かりました。ありがとうございます。まだ回復し終わっていないので、座っててください」


「そうさせてもらおう。しかし、やはり怒らせすぎたな。神様と目が合ったが、紛れもない殺意を向けられた。先程とは異なり神様は止まる素振りをすることもなく、結果として私はこの身を盾とするしかなかった。よく即死しなかったと驚いているところだ」

アリオスさんは木にもたれ掛かるように腰を下ろす。


「言いにくいですが、アリオスさんは一度命を落として生き返りました。僕は人を生き返らせることも出来るんです。命を弄ぶつもりはありませんが、勝手なことをしたことを謝ります」


「そうか……。やはり耐えられなかったのだな」

アリオスさんは戻ったばかりのお腹と背中を触りながら呟く。


「この力のヤバさは自覚しているつもりです。何回でも使えますが、使うつもりはありません。誰にも言わないでください。前に僕がいない時に僕の秘密の話をしたことは別に怒ってませんし、状況を考えれば話すべきだとも思います。でも、このことは別です。何があっても口外しないでください」

ゴルバロさんの奥さんの時は僕の特殊な治癒魔法が間に合ったということで誤魔化したけど、今回は誤魔化せるような状態ではないので話すしかない。


「わかった。約束する」

「騎士として誓おう」

アリオスさんとレイハルトさんが答える。


「クオン君ならこのくらい出来ると思ってたわ。ゲームなら死んでも生き返るなんて何も不思議じゃないからね。もちろん話せるようなことでもないし、誰にも言わないわ。そもそも、あの時も話すことと話さないことはちゃんと分けていたからね」

委員長が答える。

実際、アリオスさんに蘇生魔法を掛けた時もそんなに驚いていなかった。


前に神下さんを堕天させた時に反魂のスキルのことは説明してあるし、本当に使えたんだな程度に思っているのだろう。


「さて、神の血はどれたけ集まったかな」

死ぬ危険はなくなったので、後回しにしていた成果を確認しにいくことにする。


バケツには結構な量の血が集まっていた。

瓶に移してストレージに入れ、必要量があることを確認する。


「おかげで欲しい量が集まりました。神の石像は僕が持ってても、呪いを解いたところで殺されるだけなのでお返しします」


「そろそろ何に使うのか教えてもらえないか?死ぬ思い……いや、一度死んで手に入れたものだ。よほどのものだったのだと聞きたいところだ」


「神に会う為には天界に行くべきだと思います。どうやって天界に行くかですが、天界が神の住む世界なら神になれば道が開けるとは思いませんか?」


「何を言っているのかわからない。私にも分かるように言ってくれ」


「神の血を服用することで神になれるはずです。何を言っているのかわからないと思いますが、僕のスキルならそれが可能になると思ってます」

そして、神下さんが天使になったら天界にワープしていたのだから、神になっても天界にはいけるはずだ。


ゲームでは見た目が一時的に変わるだけのネタアイテムだろうと、アイテムの説明欄に『今日から君は神だ!』と書いてあるのだから、神にしてもらわなければ困る。

それが運営の遊び心だとしても、僕にこのスキルを与えたのだから、そこまで再現するべきだ。


「君が神になるのか?」


「はい。僕が神になって、このふざけたゲームを理不尽に終わらせようとしている連中に文句を言ってきます」

手に入った神の血は2回分、だけど2回目のチャンスがもらえる保証はないので一度で決めるしかない。


「確かに他に方法はないのかもしれない。しかし、君が文句を言って神々の考えが変わるものなのか?」


「変わると僕は思ってます。少なくとも神の選定という枠の中の話をするなら、今回の僕がつまらなくなったという理由で世界を作り変えるのは筋が通らない。委員長はどう思う?」

僕のスキルがゲームのようなものだと知っている委員長に、参考までに聞いてみる。


「……そうね。何を言いたいのかわかっているつもりだけど、確かに神の選定にルールのようなものがあるのならそれに抵触しているとも考えられるわ。でも、神の気まぐれで全てが決まっている可能性もあるから、なんとも言えないわね。試す価値があるくらいに構えておいたほうがいいかも」


「試す価値があるなら十分かな。それじゃあ行ってきます」

ストレージから瓶に詰めた神の血を取り出し、唇に瓶のくちを当てたところで手を止める。


「どうかしたのか?」

レイハルトさんに聞かれる。


「いや、血を飲むって考えたら自然と手が止まってました。今度こそ行ってきます」

一思いに瓶を傾けて中身を飲み干す。


……うん、おいしくない。


そんな感想を抱いたところで、全身を灼かれるような激痛のあまり僕の意識は途切れた。

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