第247話 無効空間

石像となった神の呪いを解く当日、先日レイハルトさんが建てた家には委員長も来ていた。


今日の為に検証にも手伝ってもらったし、死んだら死んだで、それはそれで構わないので拒みはしないことにした。


「それじゃあやりますね」

台の上に置いた石像のふくらはぎの辺りを先を尖らせた鉄パイプで力任せに突く。

当然のように弾かれるが、貫通の付与魔法を使用したことで傷はついた。


先に作戦の説明は3人にしてあるので、僕の奇行とも思える行動は止められることなく、足に鉄パイプが突き刺さるまで続ける。


鉄パイプが足に刺さったところで、鉄パイプの先にホースを取り付け、ホースの先はもう一つの部屋まで引っ張り、バケツの中に取り付けた吸引の魔導具に繋げ、一応バケツは神から見えないように隠しておく。


「聞いてはいたけど、実際に見ると酷いものね。こんなこと私には思いつかないし、思いついても実行に移せないわ」

委員長に皮肉を言われる。


「ありがとう。褒め言葉として受け取っておくよ。アリオスさん、装備の調子はどうでしたか?」

皮肉には皮肉で返しておき、アリオスさんに前もって渡しておいた装備の使い心地を確認する。


「刀身が長すぎるが、重すぎず扱いやすい。ただ、あの暗黒砲というのはよくない。火力は申し分ないが、範囲が広すぎる」


「空に放ったのは見てましたよ。あのウエポンスキルは神に対して効果が高いので、神がこちらに敵対する形でその部屋から出たら迷わず放って下さい。躊躇する余裕は多分ありませんよ」


「必要であれば迷いはしない。安心してくれて構わない」


「わかりました。それでは呪いを解きますので気を引き締めてください…………クリアルーム!」

3人から目で返事をもらってから、神の石像がある部屋を指定して空間魔法を発動する。


『クリアルーム』のスキルは全てを無効化する空間を作るスキルだ。

この空間ではバフ、デバフを無効化するだけでなく、状態異常や魔法まで無効化される。


つまり、強力な魔法を扱うボス相手にも純粋な肉弾戦を強要する魔法使い最強のスキルだ。


もちろん良いことばかりのスキルではなく、発動した魔法使い自身は動けなくなるということと、クリアルーム外から魔法を放ってもクリアルーム内に入った瞬間に霧散し、パーティ内の魔法使いが無能となるという弱点もある。

運営側が魔法主体で戦うボスの物理ステータスもこれを踏まえて設定しているので、バランス崩壊するほど難易度が下がったりもしないが、一部のボス戦では必須とも言われていた魔法だ。


呪いが無効化された魔王の姿をした石像は、姿を変えて動き出す。

見た目は神というより女神という印象だ。


スキルを発動してすぐに鉄パイプは神によって引き抜かれた。


チラッとバケツを見ると、多くはないけど血が溜まっていた。

……もう少し欲しいな。


「無事お目覚めになられたこと嬉しく思います。まず、そちらの鉄の棒は見つけた時には刺さっていたのです。私達に神様と敵対する意思はありません。誤解されませんようにお願いします」

体は動かないけど、ゲームと同じく話すことは出来るので、とりあえず嘘を教えておく。


「人の子よ、呪いを解いたことには感謝致します。しかし、そのような戯言を信じるとお思いか?呪いで動けなくされていた間も意識はあったのですよ?」

顔は笑っているのに、空気があまりにもピリピリしており、怒っているのがひしひしと感じられる。


「意識があるとは知りませんでした。訳あって神の血が欲しかったんです。話は変わりますが、天界に行きたいです。人が天界に行く方法を知ってれば教えてください」

わざと傷つけたこともバレているということなのだから、もう取り繕う必要はないだろう。


神は貼り付けていた笑顔をやめ、眉を吊り上げながらこちらに手のひらを向ける。

しかし、手のひらを向けられただけで何も起きない。


神自身が動揺していることから、魔法を使おうとして発動しなかったのだろう。

神相手にもちゃんと空間魔法は効果を発揮しているようだ。


「あ、魔法なら発動しませんよ。こちらに戦う意志はありませんので、落ち着いて話をしませんか?天界に行く方法を知ってますか?」


「神の領域に人の子が入る方法などありません」

怒りは収まらぬままではあるが、神は答える。

やっぱり、枠の中の存在であるこの神は知らないか。


「そうですか、残念です。頂いた血が欲しい量に足りないのでもう少し分けてもらえますか?」

僕が言った瞬間、神が僕の目の前で石像となった。

姿も魔王に戻っているが、ポーズは変わっている。

伸びた腕の先には僕の喉があり、そのまま手を突き刺して殺すつもりだったようだ。


「助かりました。ありがとうございます」

アリオスさんにお礼を言う。


僕達が神に話しかけていた場所はクリアルームの範囲には指定しておらず、指定した空間から神が出れば呪いは戻り石像となる。

解呪したのではなく、一時的に効果を無効化させただけなのでこの結果は予定通りではあるけど、石像に戻ったところで慣性の力が消えるわけではない。

目に追えない速度で石像の腕が僕の喉にぶつかれば死は免れないけど、アリオスさんが反応し剣を振ったことで神はブレーキを掛けたようだ。


アリオスさんが振った剣はお腹を少し切り裂いて止まっている。


「挑発しすぎだ。反応があと少し遅れていたら君は死んでいた」

アリオスさんから叱責を受ける。


「反省しています」


「危ないところだったが、目的のものは手に入ったわけだ。怒らせてしまったが、このお方が神様だということも確定した。君の言うところの作り物だとしても、私達にとって崇めるべき存在であることに変わりはない。石像となってしまった今も意識があるのであれば、行いの正当性を説明して誠意を見せた上で、本当の意味で呪いを解かなければならない」


「残念ですけど、これだと血が足りません。必要量溜まるまで繰り返します」

体から切り離された血液まで呪いで石に戻るということがなかったのは良かったが、神の血を瓶に移し替えてストレージに入れ量を確認するが、表示が個数には変わっておらず、やはり足りていなかったようだ。


「まだやるのか?」


「少なくとも、さっきの量の5倍は必要です。既にバレているので、次は遠慮せずにやります。なので、あと1回で済むはずです。多分同じことになるので、また守ってください」


「気が進まないが任された」


クリアルームを解除した後、石像に戻った神を元の位置に戻して、また鉄パイプを突き刺す。

バレているのであれば誤魔化す必要もなく、少しずつ抜き取る必要もない。

手持ちの吸引の魔導具の数である10本、石像に鉄パイプを突き刺した。


「一言で言うなら、うわー、って感じね。必要なことだとしても、さすがにこれはかわいそうに思えるわ」

委員長がそこら中を串刺しにされた石像を見て感想を洩らす。


「太い血管が通っている場所を教えてくれたのは委員長だよ」


「だからって、首にまで普通は刺さないわよ」


「委員長が刺せって言ってるのだと思ったよ。はは」

『神殺し』の称号が手に入らないかなと思って刺したとは流石に言えない。

称号自体に意味はないが、神の選定という意味では意味を成しそうな気もするから、手に入るなら手に入れたい。


「そうやって誤魔化す為に人を悪く言うのはクオン君の悪い癖ね。私は怒りはしないけど、人によっては誤解で済まなくなるから気を付けた方がいいわよ」

委員長から真面目な叱責を受けてしまった。


「委員長が悪いとは思ってないよ。ごめんね。気をつけることにするよ」

真面目な顔で注意されてしまうと素直に謝るしかない。ただ、せめて他に誰もいない時にして欲しかった。


「気を取り直して、準備が出来たのでまた呪いを解くことにします。絶対ブチギレてると思うので、さっきよりも注意して、距離も取ることにしましょう。話し合いにはならないと思うので、僕は家の外に出て、発動できるギリギリまで下がります」

全員家から出て、外から神に掛けられた呪いを解く。


呪いを解いた瞬間、神は鉄パイプを引き抜くこともせずこちらにギロリと鬼の形相を向ける。


そして、僕は反応出来ないまま強い衝撃を受けて後方の木に叩きつけられた。

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