第246話 下準備
委員長と話した後、冒険者ギルド本部に行きサラボナさんに魔王の素材を預ける。
僕がルージュさん、委員長と話している間にグリオンさんはアリオスさんと話をして帝国に戻ったそうだ。
魔王を買えるだけの大金を用意してくるらしい。
とりあえず装備作りは魔王の解体が済んでからになるので、まずはブーケルにファストトラベルしてフランちゃんに会いに行く。
「任せきりにしてしまってすみません。そろそろフランちゃんには王族として王都に戻ってもらおうかと思います」
食事の準備をしていたエドガードさんに話をする。
「なかなか居心地がよかったですが、ここともお別れとなりますね」
「また正式に移動日が決まったら知らせます。フランちゃんはどこにいますか?」
「書斎で本を読んでいるはずだ。姫様なりに王家のことを受け止めようとしているのかもしれない」
「受け止めるにはまだフランちゃんは幼過ぎると思いますけど、誰かが代わってあげられるわけでもないので仕方ないのかもしれないですね。少し話してきます」
「久しぶり。元気にしてた?」
書斎に行き、真剣な顔で国が隠れて行ってきた悪行と向き合うフランちゃんに声を掛ける。
「お兄さん、おかえりなさい」
「うん、ただいま。フランちゃんには辛い話かもしれないけど、作戦は上手くいって国王と国王と繋がっていた王子、王女達も牢屋に入ってもらってるよ」
「うん」
フランちゃんは小さく返事をする。
「ルージュさんから聞いていると思うけど、フランちゃんが国の為に、魔王と繋がっていた国王を捕縛する命令を騎士団に出したことになっているよ。後はフランちゃんに表に立ってもらって国王を処刑するだけなんだけど、大丈夫かな?」
自身を監禁していたとはいえ、父親と兄弟達の処刑だ。
処刑した上でフランちゃんが王座に座るのが一番混乱が少なく済むという考えではあるけど、辛い役割を背負わせることには違いない。
「大丈夫です。覚悟はしました」
「それじゃあ移動日が決まったら知らせに来るから王都に来てね」
「わかりました」
「それで、女王になるフランちゃんに個人的な話があって、国王が復活させようとしていた魔王を僕が倒したんだ。魔王の素材の一部を金貨1万枚で買い取ってほしいんだけどどうかな?ルージュさんには話はしてあって、フランちゃんの許可が出れば買い取ってくれるってことになってるんだけど」
「ルージュさんが買い取ると言っているのであれば買い取ります。今の私よりもルージュさんの方が正しい判断をしてくださるはずですから」
「ありがとう。それじゃあ宝物庫からもらっておくね。あと、ミスリルと金と銀を国から買いたいんだけど、魔王の買い取りが安すぎるから貰っていいってルージュさんから言われているんだ。これももらっていっていいかな?」
「はい、大丈夫です。悪しき王を打倒し魔王を討伐した褒章としてお譲りします」
「ありがとう。用件はこれだけだから帰ろうと思うけど、何か困ってることはない?わがままを言ってもいいんだよ」
わがままを言えるのも今だけだ。
正式に王となった後は人の目を気にする必要があり、甘えたい時に甘えることも難しくなる。
「……お姉ちゃんのご飯が食べたい」
「委員長が作った料理は持ってないけど、美味しいご飯は持ってるからそれを分けてあげる。委員長が作ったご飯は、フランちゃんが王都に着いたら作ってもらえるように頼んでおくね」
ヨツバが作った弁当をフランちゃんに譲る。
エドガードさんが作った料理が不味いというわけではなく、日本食が食べたいというわけでもないのはわかるけど、委員長をここに連れてくるのは無理なので我慢してもらうしかない。
しかし、短い間で随分と懐かれたものだな。
エドガードさんにフランちゃんの食事は要らないことを伝えてから王都に戻り、空間魔法のスキルレベルを最大にまで上げてから委員長と合流して、委員長を被験体として検証を行う。
よくこんな検証に付き合ったなと思いながらも、予想通りの結果を得られた翌日、サラボナさんから解体された魔王の素材を受け取り、神に対抗する為の装備を作る。
昨日の検証結果から必要ない可能性が高くなったが、念の為だ。
神に対してという限られた条件下ではあるけど、作ろうとしているのはアップデート前の準最強装備だ。魔王の素材はゲーム内であろうと簡単には手に入らず、何度もゲーム内で作って練習するということはできなかったけど、クロノスさんが誰でも簡単に作れると謳って動画を上げていたので、それをみて覚えた。
誰でも簡単というのは語弊が大いに含まれていたけど、失敗しやすいポイントの補足が入っており、参考にはなった。
完璧には程遠いが、及第点の装備が完成したところで、レイハルトさんのところに行き、こちらの準備が整ったことを伝える。
作戦の実行は3日後となり、場所は王都から離れた森の中となった。
森はしばらくの間、騎士権限で立ち入り禁止となる。
神と対面する場を整える為にレイハルトさんと森に入る。
「小さな倉庫のようなものでいいので建物を作って、中は2部屋に分けて下さい」
巨木の下に着いたところで、レイハルトさんに土魔法を使うように頼む。
場所に関してはこの巨木が目印となるというだけで、王都から離れていて近くに人が住んでいないという他に、特に理由はなさそうだ。
「こんな感じでいいか?」
レイハルトさんがパッと外観倉庫のような家を建てる。
「部屋を分ける仕切りはこんなにいらないです。ここから空間が別れていると分かればいいくらいに出っ張ってれば大丈夫です」
「こんなものか?」
レイハルトさんが部屋を分ける壁の端だけを残して消す。
「これで大丈夫です。当日、ここから先には入らないようにして下さい。こっちの部屋から石像の神に話をします。これは神がこちらに敵意を向けた場合に身を守る為です。先日、委員長に協力してもらって検証した結果だと、この部屋から話す分には殺される心配はないと思います。詳しく説明すると────」
レイハルトさんに当日のことを説明しておく。
「君の力については今更驚きはしないが、そんなことをすれば神の怒りを買うのではないのか?」
レイハルトさんは僕の作戦に苦言を呈する。
「レイハルトさんはいきなり知らない人に血を抜かせて欲しいと言われたら素直に差し出しますか?」
「言われたままに差し出すことはないな。話くらいは聞くかもしれないくらいか」
「そういうことです。話を聞いてくれるかもわからないですし、チャンスは一度だけかもしれないので、こうするのが最善なんです。それじゃあ後は当日のお楽しみにして帰りましょうか」
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