第244話 解呪作戦

「石像の話は明日にしましょう。グリオンさんの選択次第では呪いを解く必要もなくなるかもしれませんので」


「いや、今からで構わない。師がなんと言おうと魔王を生き返らせる選択はとらせない」

一度会議室を出ようとしたところで、アリオスさんに止められる。


「わかりました。では行きましょうか」

今度こそ魔王をストレージに仕舞う。


「私も聞かせてもらっていいか?」

今度はレイハルトさんに止められる。


「レイハルトさんならいいですよ。色々と信用してます。ただ、聞くのなら僕の都合を最優先に動いてもらいますがいいですか?もちろん拒否してもらってもいいですが、聞いてから邪魔をするのはやめてください」


「約束する」



「それじゃあ説明します」

3人で別の会議室に移動して話を始める。


「先に言っておきますが、かなり酷な話をします。聞いたらもう後戻りは出来なくなりますがよろしいですか?」


「構わない」

「話してくれ」

2人から答えを聞いた後、まずはこの世界の秘密を話すことにする。


「これから話すことは全て僕の推測になります。まず、この世界は一度滅びて作り直されています。もしかしたら一度や二度ではないかもしれません。魔王も、呪いを解こうとしている石像の神も、過去に神と魔王が争ったという歴史を作るためだけに作られた偶像のようなものだと考えます。何も行動を起こさなければ魔王は永遠に目を覚まさなかったかもしれません」

一度話を区切り、アリオスさんとレイハルトさんを見る。


「……気になるところしかないが、まずは最後まで話を聞こう」


「ネロ君の占いで5年後のことが占えなくなったのは、魔王が目覚めるからではなく、神がこの世界をリセットするからです。今言った神とは、この石になっている神ではなく、世界を本当の意味で司る神です」

神と話したことを他の人に話すことは出来ない。それがルールではあったけど、こうして話すことが出来たということは、やはりあの神が姿を現さずに伝言という形をとったのは、こうして他の人に伝える道を残してくれる為だったんだな。


「この世界を作り変えようとしている神と交渉する為には、まず会わないことには始まりません。石となっている神がもしかしたら会わせる術を持っているかもしれないので、確認する為にも呪いを解く必要があります」


「さっき言っていた頼みというのはそのことか」


「そうです。それから欲しいものは神の血です。血を貰う時に神が怒って暴れるかもしれません。そこでアリオスさんにお願いがあります。神に対抗出来るように装備を揃えますので、その時は代わりに戦ってもらえませんか?」


「それは必ず必要なものなのか?」


「必要です」


「返事をする前にわからないところを聞かせてもらおう。この世界が滅んでいると言う根拠はあるのか?」


「滅ぶ前のことを知っていると思われるひとに会いました。そのひとは僕に他の作り物とは違うと言いました。これを、僕以外の人が作り物と言っていると受け取りました。一度滅んだ時に、神の都合のいいように作り直されたのだと」


「魔王を倒したのもその人物なのか?」


「僕が倒したということになってます」


「君が装備を揃えたとして、神に対抗出来るのか?」


「それはわかりません。神を相手にするのに最良の装備を作りますが、結果を知る術はもうありませんから。一応装備について説明すると、神からの攻撃を軽減する防具と、神に対して追加で固定ダメージを与える剣です」

対神専用装備だ。

この装備を作るのに必要な素材としても魔王は必要だと。


「そうまでして手に入れる血を何に使うんだ?」


「神と交渉するために必要なアイテムです」


「君の話を信じるならば進むしかないのだろうな。わかった。私は協力しよう」

アリオスさんから協力を得ることに成功する。


「ありがとうございます。装備に関しては作るのに魔王の素材が必要なので、2人分揃えるのは難しいです。その場に立ち会うだけになると思いますが、レイハルトさんはどうしますか?」


「もちろん同席させてもらう」


「わかりました。それじゃあ、場所の準備だけお願いしてもいいですか?神が暴れることになっても被害が少なそうなところがいいです」


「その未来は見たくはないが、最悪を想定して探しておこう」


「お願いします。僕含め、半端な戦力は余計な犠牲を出すだけなので、他の人に話をしてもいいですが、連れてくるのであればそのつもりでお願いします」


「話すつもりはないからその心配は不要だ。とても話せるような内容ではないからな」


「わかりました。それでは僕は装備の準備をしてきますので、完成次第知らせに来ます」


「魔王の素材は全て使って残りはしないのか?」

アリオスさんに聞かれる。グリオンさんに分けてほしいということだろうか。


「全部は使いませんよ。必要のない部分もあります」


「不要なところだけでも師に分けてもらえないか?私個人として師に恩があるというのもあるが、師が大人しく引き下がるとは思えない。ないと信じたいが、君を殺してでも奪おうとするかもしれない」


「本気で言ってますか?」


「魔王という研究材料は君が手放さない限り師が得ることはない。そうなった時に師がどう動くか検討がつかない」

だからといって、あの態度の人に分けてやるのは癪だ。


「わかりました。それなら売ることにします。僕が必要なのは角、牙、心臓に血液、それから皮です。魔石があればそれも持っておきますが、残りは売っても問題はありません。グリオンさんはどのくらいお金は持っているんですか?」


「稼いではいるはずだが、浪費も激しいからな。あって金貨500枚くらいだろう」

思っていたよりも大分持ってないな。

僕の方が持っているくらいだ。


「では、残りを全てまとめて金貨1万枚で国に売ることにします。確か城の宝物庫にあったドラゴンの角で金貨500枚くらいの価値だったと思うので格安だと思いますがどうでしょうか?グリオンさんにいくらで売るかは次期国王に任せます。国王が処刑されれば国は荒れると思いますので、利益はその時の資金にでもしてください」

国所有になれば僕を襲っても魔王は手に入らなくなるし、グリオンさんが買い取るためのお金は、グリオンさんに国から出て行かれては困る帝国が建て替えて払うことになるだろう。

そうすれば、帝国から王国はお金を得ることになり、国を立て直すタイミングで帝国がちょっかいを掛けようとしたとしても、お金で傭兵を雇うなりして戦力の差を少しでも埋めることが出来るだろう。


「金額に関しては確かに破格の安さと言っていいだろう。師が資金を用意できなければ諦めてもらうしかないが、師以外にも未知の素材というだけで欲しがるものはいるだろうから、国が損を被ることもない。しかし、まだ次期国王が誰になるのか決まっていないのではないか?」

アリオスさんが答え、レイハルトさんに次の王について確認する。


「正式には決まっていないことではあるが、フラン様に王の座に座っていただくことになっている。まだ国を導くには幼すぎるが、他の王族とは違い魔王を崇拝しておらず、類稀なる魔法の才もお持ちです。なにより、国の為に自らの命を差し出すことが出来る程に国を愛しています」


「フラン様は亡くなられたはずだが生きていたのか?」


「隠し部屋に監禁されているところをクオンが保護しました。今はエドガード、ケルト、ルイスの3人に警護させてます」


「当時はなぜ心優しいフラン様が処刑されなければと悲しんだが、生きていてくれたこと嬉しく思う」


「フラン様が王となる可能性は低かったことから、王としての振る舞いを覚えていただき、実際にフラン様のお考えで国を動かすまでには長い時間が掛かります。騎士団として全力でサポートする予定ではいますが、相談役としてルージュをフラン様の側近とする予定で動いています。私の知る限り、ルージュ以上の適任はいません」

なるほど。そこまで考えていたから、あの時ルージュさんを寄越したのか。

フランちゃんを次の王にするのは聞いていたけど、そこまで話がまとまってきているとは知らなかった。


「ルージュであれば姫様の教育が終わるまで良い方向に国を動かしてくれるだろう。しかし、騎士と姫様の相談役、どちらも両立することは無理だろう。ルージュは納得しているのか?」


「これも国の為。騎士団を抜けても騎士としての心まで捨てるわけではない。と答えをもらっています」

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