第243話 魔王

僕がクローネに魔王討伐を頼んだ夜、王都は大地震に見舞われた……らしい。


こんなにすぐに実行するとは思わず僕は自室に帰って寝ていたので、王都が少しパニックになったことも後から知ったことだ。


クローネが何かしたのか、地震による被害は物的なものだけで、人的被害はないらしい。

死者が出ていないというのは、頼んだ僕として喜ばしいことだ。


「クオンさん、これクローネから手紙です」

魔王の素材を回収する為にネロ君のところに行き、クローネが書いた手紙をネロ君から受け取る。


「ありがとう」

ネロ君にお礼を言い、手紙に書いてあった王都から少し離れた森の中の大きな木の下に行くと、魔王の死体が無造作に捨てられていた。


魔王の体には傷らしきものが見当たらず、クローネが魔王をどうやって殺したのかわからないが、力の差は歴然だったということだろう。

それだけの存在だということだ。


魔王の死体をストレージに仕舞い、騎士団本部の会議室へと移動する。


「来たか。このタイミングで来たということは、昨晩のことついて何か知っていると受け取っていいのか?」

会議室に入ってすぐ、レイハルトさんに聞かれる。


「ここに来た用件は違いますが、昨晩のことは知ってます。魔王は倒しておきましたので、もう魔王に怯える必要はありません」


「確かに認識してからずっとあった魔王のまとわりつくような気配を今は感じられない。しかし、王城の下に眠っていると聞かされるまでは気付くことの出来なかった気配だ。姿を眩ませたという可能性もある。倒したと証明出来るものはあるか?」

アリオスさんが口を開く。


「魔王の死体を持ってます。出しますね」

ストレージから魔王を取り出す。


「確かにあの石像と同じ顔だな。以前のものと比べると微かにはなっているが、角や胸のあたりから、王城の下にあった気配と似たものを感じる」

アリオスさんは魔王の死体を見て冷静に分析する。


そして、冷静ではない人が1人……。

「これが魔王!やはり他の魔物とは違った輝きがある。これこそわしが追い求めてきた答えかもしれぬ」

興奮したグリオンさんが魔王の死体を隅々まで見始める。


「確かに本物のようだ。どうやって倒したんだ?」

興奮するグリオンさんを見て、アリオスさんはこれが本物の魔王だと信じたようだ。


「秘密です」

僕もどうやって倒したかは知らない。


「本当に君が倒したのか?」


「僕が倒しました」


「深くは聞かないでおこう。危機は去ったと今は喜ぶことにする」

アリオスさんは僕が倒していないことに薄々気付いているようだけど、言及しないでくれる。


「今日来た用件ですが、魔王の姿をした神の石像の呪いを解こうと思っているので、アリオスさんに立ち会ってもらおうかと思って声を掛けに来ました。魔王はここにあるので、あの石像が魔王の姿をしただけで神の可能性が極めて高いことはわかってもらえるかと思います」


「私達が信じる神が苦しんでおられるなら助けることに反対する理由はない。元々そのつもりで君は石像を持ち去ったのだから今更止めるつもりもない。ただ、呪いを解きたい理由は聞かせてほしい」


「神様が苦しみ続けるのは耐えられない、と言いたいところですが、神に頼みたいことと、欲しいものがあるんです。それが何かはここではちょっと話せませんので、後でアリオスさんには教えます」

アリオスさんが解呪に立ち会う時点で、どのみち知られることであり、アリオスさんにも協力してもらいたいとも思っている。


だけど、騎士団長が勢揃いしているここで話したくはない。


「了解した。理由によっては止めるがいいな?」


「その時はアリオスさんを説得することにします」


「それなら構わない。場所と時間を教えてほしい」


「場所は暴れることになっても大丈夫なところならどこでもいいです。日にちは5日後くらいを予定してますが、呪いを解く理由についてはすぐにでも大丈夫です」


「なら別室に移動して話を聞かせてもらおうか」


「はい。…………ちょっと何してるんですか!?」

アリオスさんと別室に行く前に魔王の死体を回収しようとしたら、グリオンさんが魔王の口を開いて牙を抜こうとしていた。


「わしの取り分もあると言っていたはずじゃが?」


「それはレイハルトさんが言っただけですよね?それに、僕はグリオンさんが何か魔王討伐に貢献したのを知らないんですけど。そもそも、取り分があるとしても、分けられる前に勝手に持っていこうとするのは違うと思いますけどね」

独占するつもりはなかったけど、こういうことをされると渡す気がなくなる。


「小僧が抜け駆けをした結果じゃろう」

グリオンさんは悪びれる様子もなく言う。


「非を認めるなら良心的な価格で譲ってあげるつもりでしたがやめることにします。それとも魔王を生き返らせましょうか?」


「生き返らせるじゃと?何を言っておるのじゃ」


「僕は魔王の特定の素材が欲しいだけなので、その部位だけ解体したら生き返らせても構わないということです。グリオンさんが倒せば素材が丸ごと手に入りますよね?」

僕のやろうとしていることが上手くいったとしても、神が世界を滅ぼすのを止められる可能性は決して高くないのだから、それまで待てないならここで終わらせてしまったほうがと脳裏をよぎってしまう。


結局はこの世界の人の問題であって、この世界の住人がそれを望むならその選択も悪くないのかもしれない。

神に理不尽に消されるよりは、魔王相手の方が納得もいくだろう。


それに、魔王を暴れさせるという選択をした方がこの世界を作り変えたいと思っている神に面白いと思わせることになるかもしれない。


クローネがまた倒してくれれば王都が消し飛ぶくらいで済むだろうし、長い目で見れば悪い選択ではないだろう。


「待ってほしい。師の非礼は私が謝罪する。だから冷静になれ。今の君からは濁った気配を感じる」

アリオスさんがグリオンさんの代わりに頭を下げる。


「僕は冷静です。グリオンさん、明日までに答えを出してください。魔王と戦うのかどうか」

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