第234話 呪い
ザイルさんとヘンリーさんの治療をした後、治療所に他に大怪我をしている人がいないか確認してから、第1騎士団の団長室へと向かう。
「お待たせしました」
団長室には既にレイハルトさん、アルマロスさん、ルージュさん、委員長が揃っていた。
立場的には委員長が、能力的には僕がこの場に相応しくない。
「2人の怪我は良くなりそうか?」
レイハルトさんにザイルさんとヘンリーさんのことを聞かれる。
「大丈夫です。騎士としてまだまだ働くことが出来ます」
「感謝する。これからのことだが、既に各騎士団長に情報を伝達し、不浄の大地及び、邪教徒の掃討に向かわせている。第8騎士団団長をはじめ、騎士団の中にも内通者がいたことは残念だが、魔王の件を除き概ね計画通りに進んでいる」
「残念ではありますが、ひとまず作戦が無事に進んでいることに安心してます。魔王に関してどうするのかですが、僕に一つ案があります。ただ、成功するかの保証はなく、事態が悪化する可能性もあります」
「とりあえず結論から聞かせてもらえますか?」
ルージュさんに結論を急かされる。
「魔王を石化して無力化した後に、掘り起こして破壊します。まずこれは呪いによって魔王の姿で石にされた神です」
ストレージから神の像を取り出す。
「続きを」
もう少し驚かれると思ったのに、ルージュさんに冷静に返される。
他にも呪いを術者に返せる人がいるのだろうか。
リアクションを期待した自分が少し恥ずかしい。
「呪詛返しという魔法があります。これは対象に掛けられた呪いを、掛けた本人に返すという魔法です。魔王が神に呪いを掛けて石としたのは国王も口にしたことです。呪詛返しが成功すれば魔王に石化する呪いを返せるかもしれません」
「悪くない話に聞こえますが、事態が悪化する可能性について教えてください」
「ルージュさんであれば既にその答えに辿り着いているかもしれませんが、呪いを返すということはこの像の呪いが解けるということです。国王が僕達を騙そうと嘘を言った可能性を僕は無いと言えますが、国王が誤った事実を信じている可能性はあります」
「その場合、本来助けるべき神を石化し、魔王を復活させるという最悪の未来が訪れるわけだ。他にもあるだろう?」
僕が長い時間を掛けて辿り着いた可能性に、ルージュさんは一瞬で辿り着く。
国で1番の騎士団の頭脳とはこういうことかと改めて思い知る。
天才と思っていた委員長と比べても頭一つ抜けている気がする。
「神が味方とは限りません。魔王と神が敵対しているのが合っていたとしても、敵の敵が味方とは限りませんから。それと、神の呪いは解けたが魔王は石化しなかった場合、神と魔王の争いに巻き込まれます。その上でこの方法をとるか決めてください」
「世界の命運を決める決断だ。今この場で決めるのは早計だろう。やるべきは情報の収集と分析。君の言うリスクを負わずとも排除出来れば良し、出来なければリスクを排除、排除出来なくとも軽減させる対策をしなければならない」
レイハルトさんが方針を決める。
「僕の話した策を実行する場合、アリオスさんを呼んでください。この像の呪いを解く際には呼ぶという約束をしています」
当初の予定とは異なるが、アリオスさんとはこの約束をすることを条件に神の像をもらうことを許してもらっている。
「団長にはお辛いかもしれませんが、どの選択をするとしてもアリオス殿に御助力を頼むべきです」
ルージュさんがレイハルトさんに進言する。
「今更プライドがどうだと言うつもりはない。アリオス殿に協力を要請する」
「それじゃあ、それは僕がアリオスさんに伝えておきますね。早い方がいいでしょうから、今から行ってきます」
「頼んだ。私達は魔王の力がどの程度か測る方法がないか話し合いを続ける」
ザングへファストトラベルで移動して詰所に向かうと、予想通りアリオスさんはいた。
今日作戦を実行することは伝えていたので、結果の報告を待っているとは思った。
「来ると思っていた。こうしてここに来たということは、作戦は上手くいったということでいいのかな?」
「作戦自体は大きな問題はなく終わりました。ただ、想定外の問題が発生しています」
「……大分深刻な問題が発生しているのだね」
「はい。邪教徒が信仰する魔王が存在しました。王城の地下深くに眠っており、王国は魔王が力を取り戻す為に建国されていました」
「洒落にならない話だな。間違い無いのか?」
「僕のスキルで国王から聞き出したことです。絶対ということはありませんが、放置出来るような可能性は超えていると思います」
「それは残念だ」
「対処する為にレイハルトさんがアリオスさんに協力を要請しています。それと、あの魔王の姿をした神の像の呪いを魔王に返すという案を僕が出してます。その場合、神の像の呪いが解けますので、約束通りアリオスさんには一声掛けにきました。可能なら王都に来てください」
「レイハルトの頼みだ。もちろん協力させてもらう。準備が出来次第出発する」
「ちなみにですが、魔王の力があの像から感じられる程度だった場合、アリオスさんに倒すことは出来ますか?」
「単純な力勝負では勝ち目はないだろうな。だが、力が強ければ必ず勝てると言うわけでは無い。それに、私は1人で戦うわけでは無い。そうだろう?」
「そうですね。力だけで全てが決まる世界ほどつまらない世界は無いと思います」
しかし、アリオスさんが勝ち目がないと断言したということは、それだけの相手ということか。
「レイハルトが動いているだろうが、私の方でも声を掛けておこう」
魔王に対抗出来る猛者に声を掛けてくれるらしい。
勝ち目が薄い戦いを乗り越える為には、どれだけ味方を集め、どれだけ策を講じなければならないのだろうか。
「お願いします。では、レイハルトさんにはアリオスさんの協力は得られることになったと伝えておきますね」
「頼んだ」
アリオスさんがこの世界の為に、衛兵としての役目の範疇からかけ離れたことをやるのだから、僕もゲームがなんだと言わずにやれることをやらなければならない。
自分でも驚きだけど、そんな気持ちになってしまった僕は、そのままスカルタへと向かった。
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