第235話 集結

アリオスさんに協力を求めてから数日後、騎士団本部の会議室に集まり、作戦会議を始める。


前回僕が抜けてから、各々で情報を集めて魔王の対処法を探るということで会議は一旦締められており、必要な情報を集め、まとめた状態から会議は再開される。


会議には前回のメンバーに加えて、第8を除いた各騎士団の団長、アリオスさん、魔法学院の学院長であるマリエールさん、スカルタの冒険者ギルド長であるサラボナさん、占い師のネロ君、カルム商会のマーリンさん、それからグリオンという一見弱そうなひょろっとした60歳くらいの男性が参加することになった。


グリオンさんを鑑定をした結果、レイハルトさんと同じくらいのレベルをしている強者だった。

見た目がひょろっとしているのは、魔法主体で戦うからだろう。


サラボナさんとネロ君、マーリンさんには僕が声を掛け、騎士団長はもちろんレイハルトさんが、マリエールさんとグリオンさんはアリオスさんが声を掛けたことで集まっている。


「会議を始める前に本人がすごく緊張しているようなので、僕の方から紹介させてください。この子はネロ君です。スカルタで占い師をしており、的中率は100パーセントです。実力は僕が保証します。それから、グリオンさん以外とはお会いしたことはありますが、一応自己紹介を。先日まで第1騎士団の団長をしていたクオンといいます」


「アリオスの代わりが見つかったという噂は耳にしておる。こんな若造とは思わなんだが、わしのことを知っているとはなかなかじゃな」

グリオンさんが口を開く。

これだけ強い人なのに、あまり世間に知られていない人なのかな。


「名前と、見た目からは想像出来ないほどに力を秘めていることを知ってるだけです」


「この方は私が幼い頃の師になる。今は隠居されているが、以前は冒険者としてその名を知らぬ者はいない程に活躍されていた。しかし、グリオンという名を知る者は少なく、偽名であるルーカスのほうが馴染み深いだろう」

アリオスさんがグリオンさんの紹介をする。


「失礼ですが、ルーカスというと、魔物の研究をされている、あのルーカス殿でしょうか?」

サラボナさんが確認する。

いつもの冒険者を相手にする口調ではない。


「わしが変人ルーカス本人じゃ」

自分で変人だと言うのは、変人の皮を被っているか、それとも自身を客観的に見ることの出来る人か。

…………変人の枠からも飛び抜けるくらいの変わった人という可能性もあるか。


「記憶が間違っていなければ、帝国に研究室を構えていたはず。王国の問題に巻き込んでいいのですか?」

サラボナさんが連れてきたアリオスさんに尋ねる。


「アリオスから知らせを受けて来ることにはなったが、王国を助けにきたわけではないから問題あるまい。わしは魔王の素材を採りにきただけじゃ。全てとは言わずとも、貢献するわしの取り分もあって然るべきじゃろ?」


「ルーカスの名は当然私の耳にも入っている。手を貸して頂けるなら、当然見返りは用意する」

この場のトップとしてレイハルトさんが答える。


「グリオンさんは何が変わっているんですか?」

僕は小声でサラボナさんに聞く。


「魔物を研究する為に魔物を狩り、魔物を買う為の資金を集める為に魔物を狩る。その為だけに冒険者を続けていれば、周りから変人と呼ばれるのは当然ね」

研究マニアってことか。



話の流れとして各自自己紹介をした後、本題に入る。


「まず、皆に集まってもらっている間に作戦をいくつかまとめておいた。その中で可能性の高いものとしてクオン元団長が提案した呪詛返しを用いた案がリスクを考慮しても最良だと思われる。それを念頭に、まずは資料に目を通してもらいたい」

レイハルトさん進行のもと会議が進められる。

言わなければならないことがあるが、全員が資料に目を通し終えるまでは待つことにする。


「どれも確実性に欠けるが、確かにその案がもっとも可能性の高いように思える。俺はこの小僧のことをよく知らないわけだが、勝算はどの程度に考えている?」

第2騎士団の団長ゴルバロさんがレイハルトさんに確認する。

各騎士団長とは顔合わせをした程度でほとんど関わりはないが、ゴルバロさんは以前顔合わせした時もこんなに不機嫌そうな顔だっただろうか……?

騎士団長の座を途中で投げ出した僕のことをよく思っていないのかもしれないな。


「士気を上げる為にも5割と言いたいところですが、良くて4割……いえ、3割あれば良いところでしょう」

レイハルトさんが答える。

3割で最良。つまり、他の案は3割に満たないとレイハルトさんが考えているということだ。


「通常の任務であれば低すぎるが、相手が魔王となれば悪くない」


「皆さんに言わなければならないことがあります。その案は失敗します。そう占いに出ました」

会議の前にネロ君には呪詛返しを使った場合のことを占ってもらっている。

自分が元々出した案である以上とても言いにくいが、失敗するとわかっている作戦を議題とした会議は時間の無駄だ。


「先程その子の占いの的中率が100パーセントと言っていたが、占いとは進む道に迷った時に選択を後押しする程度のもの。自身に当てはまるものを都合よく信じているだけではないのか?」

ゴルバロさんに疑われる。

ゴルバロさんだけでなく、他の人も信じてはいないようだ。


「ゴルバロ騎士団長の言うこともわかります。なので、まずはネロ君の占いがどれだけ当たるのかご自身で体験していただくのが良いかと思います」


「そこまで言うのであれば見させてもらう。それで、何を占ってくれるのだ?」

ゴルバロさんがネロ君に詰め寄る。


「あまりネロ君を怖がらせないでください。それから何を占うのかは、ゴルバロ騎士団長が答えられたなら信じるに足る事を聞けばいいと思います」

ネロ君が怯えているので、ゴルバロさんには釘をさす。


「では、俺の家族について占ってもらう。騎士として恨まれることもあることから、俺は家族のことはごく限られた者にしか話していない。それに、個人的なことで悪いが、本当に当たるというなら占ってもらいたいことでもある」


「わ、わかりました。占わせてもらいます」

ネロ君がカードをシャッフルしてゴルバロさんの家族のことを占う。


「妻と息子が1人、娘が1人います。……今はそんなに離れていないところにいますが、普段はここからは少し離れたところに住んでいるようです。方角は南西です」

ネロ君がカードをめくりながら、占いの結果を伝えていく。


「……それで?」

ゴルバロさんがそわそわしながら先を促す。

この様子だと、ここまでは合っているようだ。


「近い未来に娘が増えるみたいです。…………」

ネロ君が娘のことを言った後、もう1枚カードをめくり、言葉を詰まらせる。

その表情は暗く、カードを無言のまま捲り続けるごとに、ますます影を落としていく。


「おい!なんでそんな顔をしている!?無事に産まれる。そういうことだろ?」

ゴルバロさんの声が大きくなる。

ゴルバロさんの奥さんは出産を控えており、ゴルバロさんは無事に産まれるのか心配でそわそわとしていたようだ。


当初の目的であった占いを疑う素振りはない。

騎士団長の面影も薄れており、ここにいるのは産まれてくる子を心配するただの父親だ。


「とても言いにくいのですが、娘の代わりに妻が亡くなるみたいです」


「そんな…………」

ゴルバロさんの膝がガクッと折れ、倒れるように椅子に座る。


「気を確かに。これは占いであって、確定した未来ではありません。このまま進むとそうなるというだけです。この最悪の未来を避ける方法も占ってくれているよね?」


「も、もちろんです。道は2つ見えてます。ひとつは身代わりをたてること。これは出産を諦めれば妻の命は助かるということだと思います」

きっと難産となるのだろう。

だから、生まれて来る子か母体かどちらかを選ばないといけないと。

そして、ゴルバロさんの奥さんは生まれて来る子のために自らの命を掛ける選択をするわけか。


「もうひとつは人に頼ること。救う力をもった人物がいるようです。あなたは既に出会っているようですが、その方は力を秘匿しているようです」


「ゴルバロ、この一大事にまで任務を優先する必要はない。お前を今回の任務から外す。未来を変えられたとしても、お前は側で付いていてやるべきだ。すまないが送っていってくれ」

レイハルトさんに言われて、項垂れるゴルバロさんと会議室を出る。


「出産の予定はいつですか?」


「既に過ぎている。いつ生まれてもおかしくない」


「……さっきの占いの人物とは多分僕のことです。僕の特殊な治癒魔法を使えば助けられるのだと思います。案内してください」

レイハルトさんは僕の回復魔法のことを知ってるから、僕に送るように頼んだのだろう。



ゴルバロさんの案内で治癒院へと入る。


「ゴルバロ様、よい時に来られました。クロエ様には既にお話ししたのですが、限界が近付いております。このままではクロエ様の体力が保ちません。これ以上はクロエ様の命にも関わります」

治癒院に入ってすぐに深刻な話をされる。


「お腹の子も助ける道はないのか?」


「奇跡が起こることを信じてこのまま待つ他ありません。現状、胎児を取り出す為にはクロエ様のお腹を開くしかなく、クロエ様は命を落とします」


「どうして母親が死ぬことが確定しているのですか?死なさずに取り出すことは出来ないのですか?」

手術が成功しないリスクがあるのはわかるが、失敗を前提として話しているのが気になってしまった。


「クロエ様が命を落とされた後に子を取り出す為にお腹を開くからです。でなければ無駄に苦しませることになります」

治癒士がゴルバロさんに目で確認してから答える。

麻酔が無いのか、あったとしても耐えられる程に痛みを消してはくれないのだろう。

そして、苦しみを耐えても開いたお腹を元に戻す技術はないと。


「クロエは何と言っている?」


「クロエ様はご自身の命よりも胎児をと仰っています」


「そうか……」


「少し外の空気を吸いましょう」

険しい顔をするゴルバロさんと2人きりで話をする為に、外に連れ出す。


「辛い思いはさせますが、クロエさんには生きたままお腹を開いてもらってください。胎児を取り出すまで耐えてくれれば、開いたお腹は僕が魔法で治すと約束します」


「本気で言っているのか?無駄に苦しませるだけにならないか?」


「秘密にはしてますが、僕が欠損でも治せる魔法が使えるのはレイハルトさんも知っていることです。今になってもネロ君の占いを信じないと言うなら奇跡を信じてもいいですが、信じるなら2人共を助ける方法は誰かを頼ることです」


「頼む。クロエと生まれて来る子を救って欲しい」

藁にもすがる思いでゴルバロさんは答える。



ゴルバロさんの頼みにより、クロエさんが生きたまま胎児を取り出す手術が開始された。

魔法で眠らせてはいたど、それもその場凌ぎにしかならず、カーテンで仕切られた個室からは悲鳴というには生ぬるいほどの声が響く。



「おぎゃあ」

耳を塞ぎたくなる声が続いた後、しばらくして赤子の泣く声が聞こえる。

しかし、クロエさんの声はもう聞こえない。

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