第232話 魔物

日が完全に沈み、寝静まった城内へと幻影のスキルで騎士になり侵入する。


僕が与えられた役目は至って単純で、国王を魅了して罪を自白させ、関係者をまとめて罪人とすること。


その為にやることは2つ。

一つは、国王に隠れて近付くこと。

もう一つは外に控えている騎士達が城内に入ってきてもおかしくないように騒ぎを起こすこと。


委員長は適当に魔法でも放って、国王の命を狙う刺客が現れたようにでもしてくれればいいと言っていたけど、外にいる騎士が指示なく入るにはかなり大きな騒ぎを起こしたほうが自然だ。


どうやって騒ぎを起こすか色々と考えてはいたけど、城内に既に一部ではあっても騎士達が配置されているので、不確定要素が高い選択も取ることが出来る。


城内を巡回して警備しているフリをしながら中庭まで移動する。

夜だということもあり、都合よく中庭には誰もいない。


まずは行動を開始する合図をする。


「魔物だ!!城内に魔物が侵入している!!」

魔導具を使い、城の外まで聞こえる声で魔物が城の中にいると叫ぶ。

もちろん、声は変えてある。


この魔導具は各騎士団に複数個常備されており、城内を警備していた騎士が持っていても何も不思議ではない。

危険をいち早く伝える為に持ってない方がおかしいまである。


合図を出したところで、ストレージから瓶を取り出してばら撒く。


ばら撒いた瓶は地面にぶつかり割れる。

そして、中庭には大量のスライムと10体のヘルハウンドが現れた。


ばら撒いた瓶はもちろんダンジョンで手に入る魔素で、スライムは魔素★から、ヘルハウンドは魔素★★★から出現する。


城の中に騎士が配置されていないなら、テイムされているわけでもないヘルハウンドを放つのは抵抗しかないが、ヘルハウンドが放たれることを知っている騎士が配置されていれば、死人がでることはないだろう。


「中庭だ!!中庭に来てくれ!」


ヘルハウンドを倒さないように戦いつつ、中庭に人が入ってくるのを待つ。


作戦を知っている騎士が入ってくるか、それとも元々城の警備をしている兵が入ってくるかで次の対応が変わる。


騎士には人命を最優先に動くように伝えられているはずなので、どちらが先に入ってきてもおかしくはない。


待ったという程の時間は経たずに中庭の扉が開き、城内に配置されていた第一騎士団の騎士が入ってくる。


「後はお願いします」

第一騎士団の団員の力はある程度把握しているので、この人が魔物を逃さずに対処できる数を考えて、魔素★★の瓶を3本割ってから、中庭を出る。


魔素★★から現れるワイバーンが空を飛んで逃げてしまうと面倒なことになるので、魔素★★だけは騎士が来てから使うことにした。


魔素★と魔素★★★を撒きながら城内を移動して、国王の部屋に向かう。


「ヘルハウンドは足りなかったな……」

途中で魔素★★★がなくなったことで、スライムばかりが城の中を闊歩する状況になったが、戦えない人にはスライムでも命を奪われるかも知れないほどに危険な魔物であることには変わらないので良しとしよう。


最初は間違いなくヘルハウンドとワイバーンがいたわけだから、城内を混乱させるには十分だ。


「国王陛下はご無事でしょうか?」

国王の部屋を守るように近衛兵が5人で扉を塞いでいたので、とりあえず声を掛ける。


「陛下の身は私達がお守り致しますゆえ、心配ご無用です」

本来であれば仲間のはずの騎士も通す気がない。

近衛兵として間違ってない対応だとは思うけど、異常事態にも関わらずこうもキッパリと拒絶されると、国王が魔王を復活させようとしていると知った上で、敵を通さないようにしていると思えてしまうな。

国王が無事かどうか答えるくらいはしてもいいだろう。


まあ、どっちだろうと僕のやることは変わらないけど……。


「それは失礼」

近衛兵達に背を向けて角を曲がる。

アラームが鳴るかもと思ったけど、流石にそんなことはなかった。


「ストップ!」

角を曲がり近衛兵達から見えなくなったところで、空間魔法を発動して近衛兵達がいる辺りの時間を止める。


動きの止まった近衛兵達の横を素通りして国王の部屋に入る。


「……予想通り誰もいないか」

委員長が予想した通り、部屋には誰もいなかった。

侵入者を迎撃する為に暗殺者でも潜んでいるんじゃないかと僕は思ったけど、疑心暗鬼になっているであろう国王が、自身の部屋に暗殺者を忍ばせるというリスクは取らないという委員長の読みが当たった。


近衛兵が5人もこの部屋を守っていた以上、国王はこの部屋にいることになっているはずなので、国王は隠し通路を使ったはずだ。


委員長からは、フランちゃんが拐われた時点で隠し通路も隠し部屋もバレているから、隠し部屋ではなくそのまま外に逃げる可能性の方が高いと聞いている。


本棚をズラして隠し通路へと慎重に入る。

可能性が高いだけであって、騒ぎが収まればすぐに戻れるように近くで待機している可能性が消えたわけではない。


隠し部屋の扉を開けて、中に誰もいないことを確認する。

あの時と変わらず物が何もないので、中には誰もいないとすぐに判断出来る。


やはり、通路を進み外に向かったようだ。



「こんなところにいるなんて、探しましたよ。国王陛下に、そちらは宰相様ですね」

しばらく通路を進んだところで、引き返してきていた国王と宰相を見つけた。


通路の出口はアルマロスさんが直々に塞ぐことになっているので、地上への扉が開かずに外に出られなかったのだろう。

フランちゃんを誘拐したあの日から、出口には常に兵が見張りをしていたらしいが、騎士団長であるアルマロスさん率いる騎士達を止められるわけはない。


外に出られない以上引き返すことにしたのだろうが、所々に横穴があるだけで一本道なので、僕と鉢合わせするのは当然だ。


「貴様……何者だ?アルマロスの差し金か?」

国王に険しい顔で問いかけられる。

国王はアルマロスさんを疑っていたようだが、残念ながら不正解だ。


「お初にお目にかかります。宰相様とは2度目ですね。第1騎士団元団長クオンといいます」

幻影をわざと解いて姿を晒してから自己紹介をする。

宰相とは騎士団長に就任した時に顔合わせをしているが、覚えられているだろうか?


「余を馬鹿にしているのか?」

丁寧な挨拶が国王にはお気に召さなかったようだ。


「馬鹿になんてしていません。これから陛下に起きることを考えると哀れだなと思うだけです。痛い目にあいたいなら抵抗してください。いたぶるつもりはないので、抵抗しなければ地獄を見るだけで済みます」


「哀れなのはあなたです。こちらには最強の護衛がいる。暗くてかつての部下の顔が見えていなかったようですね」

宰相が笑みを浮かべながら口を開き、国王がニヤニヤと笑みを見せながらレイハルトさんの後ろに隠れる。


ランタンの灯りしかない暗闇だとしても、国王と宰相が見えて、銀色の鎧を着たレイハルトさんが見えていないわけがない。


本当に哀れだな……。

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