第231話 相手サイド
国王視点
「魔王様の姿をした石像が見つかったそうだな」
宰相を余の部屋に呼び話を振る。
「ザングに配置していた賊の拠点の地下に隠されているのをザングの衛兵が見つけました。領主の娘を人質にする計画が半端に失敗し、行方知れずとなった娘を見つける過程で見つけたようです」
「あそこには手掛かりはないという話ではなかったか?捜索のために建物を買い取り、外れだったからそのまま拠点として使っていたと記憶しているが……?」
先代の教主達が残した資料から場所の見当を付けたが、見つからなかったからそのまま拠点として使わせていたはずだ。
「不浄の大地という名ばかりが大きくなり、志を同じとしない無能が大半を占めているのが原因だったと思われます」
「所詮は使い捨ての駒……いや、魔王様復活の折には魔王様の力の糧となってもらう贄だ。そんな者達を計画に組み込んだのが間違いだったという話か。石像の他に保管されていた資料はどうなっている?」
「既に回収済みです。しかし、全てではありませんがザングの衛兵隊に見られています」
「……内容は?」
「殆どは帳簿などの記録になります。石像のことは書かれておらず、王国が建国された本当の理由も書かれていません」
魔王様復活の準備を進める為に王国があるなど、誰も思うまい。
「そうだとしても見たものは処分したいが、あそこにはアリオスが居たな。あやつを敵に回すのは避けねばならぬ。騎士団に石像の破壊の命を出せ。破壊出来れば良し、出来ずとも余が魔王様を排除しようとしたという記録は残る」
本物の魔王様は王城の地下深くで眠っておられる。
魔王と神の戦いの結末は先代から伝え聞いており、魔王様が封印される寸前に神に呪いを掛けたことも知っている。
「承知しました」
しばらく経ち、レイハルトから第13騎士団が石像を破壊したと吉報が入る。
憎き神は滅び、これで魔王様が復活後に再び封印されることはない。
功績を称えて第10騎士団へと昇格させてやる。
神が滅びはしたが、魔王様を復活させるにはまだ時間が掛かる。
召喚の魔術が上手くいっておれば、異世界人の力を起爆剤として一気に復活が早まっただろうに……。
多くの贄を捧げたにも関わらず失敗したフランには怒りが込み上げるが、あの魔術に適性のある者は稀だ。
怒りのまま殺すわけにはいかなかった。
怒りを少しでも収める為にフランは死んだことにして隠し部屋に閉じ込めてある。
「大変です!」
ある日、フランに食事を与えにいった宰相が慌てて余の部屋へと戻ってくる。
ここまで切迫とした宰相は見たことがなく、すぐに只事ではないことが起きたのだと理解する。
「何があった?」
宰相を落ち着かせる為にも、冷静を装って問う。
「フラン様が消えました。フラン様だけでなく、あの部屋にあった物が全てなくなっています」
「……どういうことだ!あそこには見られたら国が滅ぶほどの秘密が書かれた書物が保管してあったはずだ」
あまりのことに一瞬思考が飛んだが、すぐに宰相に詰め寄る。
本当に見られたらマズいものには暗号を用いているが、決して解けないものではない。
解読に半年はかかるだろうが、時間稼ぎにしかならぬ。
「内側からドアを開けた形跡はありませんでした。何者かが侵入して持ち去った可能性が高いです」
「くそ!!裏切り者がいるはずだ!探し出せ!」
机に拳を叩きつけながら宰相に命じる。
「直ちに」
「何か起きたと気取られるわけにはいかない。余は普段通りの生活を送る。確実に信用が出来る者に余の警護をさせろ」
「承知しました」
内心はらわたが煮えくり返る思いだが、変わらぬ日常を演じていると、宰相から報告が入る。
「……裏切り者は見つかりませんでした」
「そんなバカはことがあるか!貴様は隠し通路の中に更に隠されたあの部屋を何の情報もなく見つける者がいると、そう言いたいのか!」
隠し通路の存在自体、知る者は少ない。
隠し部屋となれば数える程だ。
「フラン様が外部の者に助けを求めた可能性が考えられます。フラン様は魔法に関して類稀なる才能をお持ちです。形跡はありませんでしたが、お一人で逃げられた可能性もゼロではありません」
「こんなことならあのガキを殺しておくべきだった。ガキを探して殺せ!関わった者全てだ」
「承知しました」
表立って探すことが出来ず、フランが見つからぬまま、いつ秘密が広まるかわからない日々を過ごしていると、また慌てた様子の宰相が余の部屋を訪ねてくる。
「何があった?」
悪い報せだろうが、覚悟を決めて聞くしかない。
「ディグルが捕まり、衛兵により処刑されました」
「ディグルは余のことも知っていたな?」
「はい。しかし、衛兵への聴取ではわざと近隣の賊の情報を話し、本当に話さなければならないことは口を割ってはいません。ディグルの手下共は真実を何も知らない者達です」
「それなら構わない。奴は魔王様に対する崇高な心を忘れ、ただの賊になりつつあった。今更いなくなったところで、余の秘密を漏らしていないのであれば何も支障はない。むしろ消えてくれた方がいい」
「ディグルにやらせていた龍脈の件はどうしますか?」
「あれは召喚の魔術を発動する為のエネルギーだ。フランがいなくなった以上保留で問題ない。地脈の流れが度々変わるのは異常だ。他の者に気付かれない為にもそうするしかあるまい」
龍脈からエネルギーを大量に吸い出せば、地脈の流れも変わる可能性が高い。
実際、龍脈のエネルギーを使い召喚の魔術を発動した際には、沸き続けていた温泉が止まった。
「痕跡だけ消すように指示を出しておきます」
「任せた」
「第10騎士団の動きが気になります。的確に拠点を見つけ潰していたのにも関わらず、急に成果が得られなくなっています。結果だけ見れば都合がいいのですが、タイミングを考えると、真実に気付き身を潜めた可能性があります」
フランが見つからぬまま時間だけが過ぎていたある日、宰相が悪い報せをまた持ってくる。
「フランを助けたのがアルマロスだという可能性は無いのか?」
「ゼロではありません。しかし、監査の名目でフラン様を探した結果、何かを隠す素振りもなかったことから可能性は低いかと。アルマロス殿が助けた可能性があるとすれば、既に別の誰かに引き渡し、痕跡は消していると思われます」
騎士程度であればこちらの戦力でなんとでもなるが、団長クラスは別だ。
相手になる者は限られてくる。
「……レイハルトを呼べ。第1騎士団に余の警護をさせる」
もしアルマロスが反旗を翻した場合、騎士の相手は騎士にさせる。
騎士は国の戦力ではあるが、魔王様復活を企む余の戦力ではない。
「素直に従いますでしょうか?アリオス殿が団長の時から変わらず、第1騎士団は自らの信念に背くことは例え王の命でも断ります。無理に従わせようものなら即座にこちらに剣を向けるでしょう」
「心配は不要だ。これを使いレイハルトを服従させる。余の言うことは聞かずとも団長の言うことなら団員も聞くだろう。騎士とはそういうものだ」
宰相に紫の石が埋められた腕輪を見せる。
「洗脳の魔導具ですか。レイハルト殿の心が壊れるかもしれませんが、仕方ありませんな」
「しばらくの間城の警護をやらせるだけだ。余のことを知らなければそこまで拒絶はしないだろう。それに、壊れたら壊れた時だ」
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