第213話 潜入準備

最後の1人となった委員長に会いに行く。


委員長は騎士団を既に辞めており、今は宿屋に部屋を借りている。

騎士団を辞めた今、まだ委員長がこの世界にいるということは、ネロ君が占った未来は変わったということだ。

変わったのではなく、死ぬにしても、他の方法で帰るにしても、騎士を辞めることが帰ることに繋がるということかもしれないけど。


「久しぶり。元気にしてた?」

とりあえず軽い挨拶からはいる。


「元気といえば元気ね。クオン君は立花さん達のことは知ってるよね?」


「知ってるよ。ヨツバは僕の目の前で魔物に殺されてしまったからね。神下さんは魔物として討伐されたみたいで、イロハは宿に戻ってないみたいだね」


「みたいって、どれもクオン君がやったんでしょ?」


「この問答に何か意味はあるの?僕はヨツバを助けようとしたけど本当に間に合わなかった。神下さんを冒険者から隠しきれなかった。そう言ってもどうせ委員長は信じないでしょ?」


「そうね。クオン君が何か決定的な証拠でも提示してくれない限りは私の中の答えは変わらないわ。クオン君が冒険者ギルドに神下さんの情報を売ったこともわかっているけど、それを言ったところで適当にはぐらかされるだけだろうし」

ギルド長には口止めしておいたはずだけど、何処かから情報を得たようだ。

もしかしたらカマをかけただけかもしれないけど。


「それならこれ以上話しても無駄だね。やってないことを証明するのは、やったことを証明するよりも難しいから。今日は違う話をしに来たから、話を変えてもいいかな?」


「いいわよ。どれだけ言ったところでクオン君が隠していることを言うつもりはないことは以前のことで理解したから」


「それはよかったよ。委員長は騎士団を辞めて手が空いたでしょ?何か帰還方法は見つかった?」


「それはクオン君が知ってるんじゃないの?」


「僕が知ってるのは、前に話した通り、国王辺りの人を死なせれば帰れるんじゃないかなってくらいだよ。それ以外に何か委員長なら見つけてないかなって聞いてるんだけど。ネロ君も騎士を辞めればって言ってたでしょ?あ、一応言っておくけど僕は委員長を殺すことはしないから」

僕は委員長は殺さないことにした。

今にも帰してあげないと委員長の心が病む、みたいなことにならない限りは、体が入れ替わることに嫌悪感を感じている委員長を殺すつもりはない。


「そうなんだ。それじゃあ夜道を歩いても大丈夫ね」


「僕以外の人が委員長を襲うかもしれないけどね。それで、何か新しい情報はない?」


「……神下さんから王城に隠し部屋があることは聞いたわよ。新しい情報っていうよりは、前に話していたことに対して有益な情報ってことになると思うけど」

委員長が少し考えてから答える。


「神下さんがそんな情報を持ってたなら、わざわざ危険を犯す必要はなかったね。その隠し部屋に行こうと思ってるんだよ。委員長も一緒に行かない?」


「クオン君も知ってたのね。神下さんに聞いたわけじゃないみたいだけど、どこから情報を手に入れたの?」


「城に潜入してだよ。委員長には僕のマップについては説明してあったっけ?」


「前に石像のことを相談された時に、ざっくりとはね」


「ああ、そうだったね。近くを歩けば見えてない空間もマップに登録されるから、姿を変えて城の中をぐるっと一周歩いてきたんだ。多分僕が見つけた怪しい空間と、委員長が神下さんに聞いた隠し部屋は同じだと思うよ。見つかったら処刑されるかもしれないけど、行く価値はあると思うんだ。他に何かやることがないなら行かない?」


「処刑されても元の世界に帰るだけだろうから、邪魔じゃないなら一緒に行こうかな。でも、なんで1人で行かないの?」


「隠し部屋に何が隠されてるかはわからないけど、調べごとなら委員長の方が適任だと禁書庫に篭っていた時から思っていたからね。隠し部屋の中身を全てストレージに入れて持ち出してもいいんだけど、流石にそれは大事になりすぎる気がするから。それから、死んだらそれで終わりだから、見つかっても諦めて死ぬことを選ばないでね」


「手当たり次第に読み漁っていたクオン君よりは調べるのが上手いかもしれないけど、当てにされすぎるのは困るわね。それと、私はほとんど戦えないから、諦めるつもりがなくてもクオン君に守ってもらわないと死ぬわよ」


「それじゃあ委員長も行くってことで準備するね」


「何か買いに行くなら付き合うわよ。特にやることもなくて暇だから」


「服とかも買わないといけないし、その方が助かるかな」


「服を買うの?」


「見つかった時の為に変装は必要だよね。身バレしたらその場を乗り切ってもいつか捕まるし、自由に動けなくなる」


「クオン君の幻影ってスキルは私には使えないの?」


「使えないことはないけど、難しすぎるんだよ。幻を体の上に被しているわけだから、全く同じ動きをしないと体が幻からはみ出るんだ。自分に使う分にはスキルがほとんど勝手にやってくれるからそこまで気にしなくてもいいけど、前に試しにヨツバに被せてみた時は無理だったよ。簡単そうに見えて、自分より小さい相手を装う時は帽子を被って着込んでいるようにする工夫が必要だったり、結構面倒なスキルなんだよ」


「そうなのね」


「それじゃあ暇しているみたいだし買いに行こうか」


委員長と買い物に出掛ける。


「とりあえず服から買おうか。変装の為だから、いつもは着ないようなやつを選んで。時間はあるから、今回変装に使わない服も選んでいいよ。僕も適当に選んでるから」

服飾屋の前で話してから店の中に入る。


「……結構高いね」

委員長が値段を見てボソッと漏らした。

委員長が見ていた服は銀貨2枚と銅貨5枚と書かれている。


「古着じゃないし、このくらいじゃないかな。王都だから他の街よりは高めだとは思うけど」

日本だと1000円くらいで売ってそうなシャツでも、大量生産出来ないから高くなるのは仕方ない。

だからこそ古着を買うのがこの世界では主流で、多少ほつれたくらいでは買い替えない。


「そんなに余裕はないから、古着を扱っている店に行かない?」


「委員長は騎士団で結構なポジションにいたのに、お金に余裕がないの?」


「贅沢するほどのお金は無いわよ。私の給金のほとんどはみんなを探すのと、集まった人の生活費として引かれていたから。だから、無くなる前に何か仕事を見つけないといけない」

騎士団だからといって資金が潤沢なわけではないから、委員長の友人だからとタダ飯を食わせているわけにもいかなかったのか。

集まったクラスメイトが委員長に甘えて、自分の分だけでも稼がなかったのが原因だな。


「委員長は損な性格をしているね。一時的に保護したとしても、その後掛かった費用は本人から回収すればいいのに。お金は僕が払うから気にせずに選んでいいよ」

損を被ってまで保護していたクラスメイトを僕が殺したのだから、なんだか悪い気がする。


「それは悪いわ」


「普通に生活していれば使いきれない程に持ってるから遠慮しなくていいよ。使う予定もないし」


「……ネロ君に占いのお金を払っている時にも思ったけど、第1騎士団の団長はそんなにお金が貰えるの?」


「騎士団長の給料は確かに多かったけど、僕がお金をたくさん持ってるのは、サラボナさんに水の魔石っていうアイテムを金貨1000枚で売ったからだよ。オアシスを作るって話の前にね」


「…………それなら遠慮せずに買ってもらおうかな」

委員長は複雑そうな顔をして答えた後、服を選びに行った。



好きなだけ持ってきてもらってよかったのだけれど、変装用の衣服とは別に上下それぞれ2着選んで委員長が戻ってくる。


「それ、男物じゃない?」

変装用の服とズボンを見て一応確認する。


「男の子に変装するのが1番私から遠いと思わない?」


「いや、まぁ…………委員長が選んだならそれでいいか」

委員長くらいであれば、女だとわからなくなるのだろう。


「普段着の服はそれだけでいいの?買う服は僕に見せなくてもいいから好きに選んで。あと、あそこにメイク道具も売ってるみたいだから必要な物を選んでおいて。僕にはよくわからなかったから」


もうしばらく自分の服を見繕いながら待ち、委員長が買うものを増やしたのかどうか確認はせずに支払いを済ませる。


その後、ロープ・ハシゴ・ランタン・革製のブーツ・ピッケルを買って、買い出しを終わりにする。


「忍び込むなら昼よりも夜の方がいい気がするから、日が落ちる前に宿屋の前に集合ね。仮眠をとっておいて」


「わかったわ」

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