第212話 色恋
「今日はどうしたの?」
ヨツバと神下さんを部屋に上げて用を聞く。
「あの、えっと、えるちゃんが帰ってきたことをクオンに知らせようと思って。ほら、クオンと違って私はえるちゃんと連絡先交換してるから」
「連絡先なら僕も少し前にヨツバと交換したんだから、メールでもしてくれればよかったのに。神下さんとは話せなくされてたのかもしれないけど、神下さんは全部知ってるから僕が弁明する必要はないよ」
「えるちゃんとは向こうでの話が出来るよ」
僕と同じ制約を負ってもらうと言っていたけど、戻ってきてからも同じだったということか。
しかし、それなら尚更僕のところに連れてくる必要がないことは分かりそうだけどな。
「そうなんだ」
「えっとね、クオン君に伝えといた方がいいことがあって、私はそれを言いに来たの。メールだとデータが残ったりするでしょ?警察に犯人として疑われているって前に言ってたから」
なぜかモジモジしているヨツバに気を使ったのか、神下さんが話を進める。
「確かに直接の方がいいかもしれない。それで、何を伝えに来たの?」
「どうすればいいのかはわからないけど、死ぬ以外にもいくつかこっちの世界に帰る方法はあるみたいなの。それでね、私だけかもしれないけど、死ぬ以外の方法だと天使のまま帰ることになる可能性が高いって神様が言ってた」
「つまり、他の方法で帰ってこればこっちの世界でも魔法が使えるかもしれないってことだね」
「うん。あと、少し前に委員長に聞かれたからこれは委員長も知ってることなんだけど、王様が住んでるお城の隠し部屋。王様の部屋の本棚の裏に外に出るための隠し通路があるんだけど、隠し通路の中にさらに部屋が隠してあるの。中にたくさん本があったよ。なんの本かはわからないけど」
「その隠し部屋のことならもう知ってるよ。中までは入ってないけどね。神下さんはなんで隠し部屋のことを知ってるの?」
「クオン君達を見つけるまでは、私を殺せる人の情報を探す為に色んなところに行ってたから。お城の中もその時に歩いてて、たまたま王様が入っていくのを見かけたの。ちょうど神様に呼ばれちゃったから少し覗いただけだけどね」
情報を集めるのに城に行くのは当然か。
「そうなんだ。今度出口の方から侵入するつもりだから、委員長も知ってるなら誘ってみるよ」
「気を付けてね。伝えたかったのはこれだけ」
「わざわざありがとう。参考になったよ」
神下さんの話は終わったけど、ヨツバも何か言いに来たんじゃないのか?
「あと帰ってきてないのって委員長だけだよね。委員長のことは考えてあるの?」
ヨツバに聞かれる。
イロハが前に委員長とヨツバはずっと同じクラスだって言ってたから、結構仲が良くて心配してたってことかな。
「委員長は一度死んで他の肉体で生まれ変わることに嫌悪感を感じているみたいだから、どうしようか迷ってるところ。委員長の中で気持ちの整理がつくようなら行動に移そうかなって思ってるよ」
「委員長が帰ってきたら向こうの世界に行かなくてもよくなるよね?その後クオンはどうするの?」
「別に今も昔も行かないといけないってことはないよ」
「クオンは優しいから、クラスのみんなを見捨てるって判断は出来ないよ」
「うーん、そうかな?結構見捨てた気がするけど」
「クオンはあの世界をゲームのように楽しんでいたけど、ちゃんと現実として考えてたよ。だから危ない橋を渡らないって選択をしただけで、見捨てたわけじゃないよ」
「結果的に委員長以外は帰ってきているから、そうだったのかもね。それで、なんで今そんなことを聞くの?」
「委員長が帰ってきたらクオンは向こうの世界に行かないといけないってことはなくなるよね。クオンも案内は見てると思うけど、学校には行かないの?」
「行かないよ。通わずに家で自習でもいいって案内も来てるし、行く必要はないね。ヨツバは行くの?」
「私は少し休んでから行くつもりだけど……クオンが学校に来ないなら、せっかくクオンと仲良くなれたのに会うことがなくなるね」
「…………このゲーム貸してあげるよ。ハードも。遊び終わったら次のを貸すから返しに来て」
僕は立ち上がりヨツバにゲーム初心者でも楽しめるソフトとハードを渡す。
「遊びに来てもいいってこと?」
「見ての通りゲームとパソコンくらいしかないけど、それでいいならいつでも来ていいよ。僕はゲームをやる時間を削りたくなくて学校に行ってなかっただけで、誰とも会いたくないわけではないから」
「ありがとう。ゲームの進め方とかわからなかったらメールするね」
「向こうの世界に行ってる時はメールが来ても気付けなくて返事は遅くなるから、いつまでも返事がなくても怒らないでね」
「そんなことで怒らないわよ」
「天界のことで神下さんに聞きたいことがあるんだ。悪いんだけど、ヨツバは少し席を外してもらえる?」
「すぐ終わりそうなら外で待ってるけど……?」
「すぐに終わるよ。外じゃなくてもヨツバがよければ居間でテレビでも見てて」
「……気まずくなる気がするから外で待ってるね」
ヨツバが部屋から出ていく。
「天界の何が聞きたいの?四葉ちゃんがいたらまずいこと?」
「本当は天界のことを聞きたいんじゃなくて、ヨツバのことなんだけど、僕の勘違いじゃないなら僕に好意を持ってると思うんだ」
「気付いてないなら流石に鈍感すぎるよ」
勘違い野郎じゃなかったみたいだ。よかった。
「それで、僕はヨツバにそういう気持ちはないわけだからヨツバの恋が実ることはないと思うんだよ。それどころか、自分で言うのもなんだけど、僕は優良物件じゃないどころか事故物件だからね。周りからおかしな目で見られるだけだし、親友として止めなくていいのかなって」
「四葉ちゃんの気持ちに応える気は全くないの?今後も?」
「未来のことはわからないけど、今のところはないかな」
「クオン君は四葉ちゃんでは相手として不満?」
「僕にはもったいないと思うよ。ただ、誰かと付き合う暇があるなら僕はゲームしたいなって」
男としてというか、人としてどうかしていることを言っている自覚はあるけど、これが本心なのだから仕方ない。
まともな思考をしていたなら学校にもちゃんと行っていただろう。
「じゃあなんで家に来ていいなんて無責任なことを言ったの?」
神下さんは少し怒っているように見える。
「僕はヨツバが居てもゲームしてるだろうけど、それでいいならって意味だよ。ゲームとパソコンしか無いって言ったでしょ?僕の本質が変わらないだろうことはヨツバもわかってるだろうし、向こうの世界で一緒にいた時とは違って僕はコントローラーを握ってるだけだからね。幻滅されるとわかってるからああ言っただけだよ」
「四葉ちゃんがそれで幻滅しなかったらどうするの?」
「別にどうもしないよ。僕の気持ちが動かなければずっと平行線のまま時間が過ぎていくだけだよ。ヨツバが告白すれば僕は断るだろうから、それで終わるかもしれないけどね」
「クオン君の気持ちが四葉ちゃんに向けば平行線じゃなくなるわけだよね?」
「まあ……、そうなるね。その可能性が低いから今こうして話しているわけだけど」
「クオン君はなんで四葉ちゃん本人じゃなくてそれを私に言うの?」
「ヨツバから告白されたわけではないからね。ヨツバは夢から覚めてないようなものだから、間違って告白なんてして傷つく前に神下さんに目を覚させてほしかっただけだよ」
「それはズルいと思うな。まあ、クオン君の話を聞く限りだと、私は四葉ちゃんを止める必要はないかなって思うから、四葉ちゃんの恋を応援することにするよ」
何か応援してもいいと思えるようなことを言っただろうか……?
「……ヨツバが家に来たら一緒にゲームをするくらいはするよ」
「私は四葉ちゃんとクオンくんは上手くいくと思うよ。それじゃあ四葉ちゃんを待たせてるから帰るね」
神下さんは帰っていった。
なんにしても今は委員長だな。
ヨツバのことは全部終わってからでいいか。
ピロリン!と携帯が鳴ったので画面を開くと『明日遊びに行ってもいい?』とヨツバから早速メールが届いていた。
「どうしようか、うーん。明日はいないからまた別の日にして、でいいかな。送信っと」
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