第211話 終演

部屋から出て行ったイロハを見失わないように気を付けながら後を追う。


もうエンディングは近いので、殺すところを誰かに見られてもそこまで問題はない。

だけど、出来れば誰にも見られたくはない。


イロハがどこに逃げるかでどうするか決める。

やらせてはいけないのは委員長と合流すること。

それだけはなんとしても阻止しないといけない。

委員長にイロハが言いくるめられたら、さっきの演技が無駄になる。


イロハの走っていく方向を見て、僕はホッとする。


イロハは神下さんのところに向かっているようだ。

僕が敵だということを神下さんに伝えるつもりなんだろうけど、神下さんはもう騎士団の宿舎にはいない。



騎士団の宿舎に向かえば向かうほど人通りは少なくなる。

剣がぶつかり合う音が鳴り響き、魔法が飛び交うエリアの周辺に店を構えようなんてもの好きはいないからだ。


さらに今は夜。

歩いているのは飲みに行った帰りの騎士くらいなので、待っているだけで必然的にイロハは1人になる。


「あれ、イロハ。こんな時間にどうしたの?」

周りからの目がなくなったところでイロハに声をかける。


「ク、クオン君こそこんな時間にどうしたの?」

イロハは明らかに動揺している。

目が泳いでいるのは動揺によるものか、それとも逃げ道を探しているのか。


「遺跡から戻ってきたんだけど、ヨツバと別れた後に用があったのを思い出してね。宿に行ったけど誰もいなかったから探してたんだ。ヨツバがどこにいるか知らない?」


「し、知らないよ」


「先に帰ったはずなんだけど会ってないの?」


「会ってないよ」


「そっか。それでイロハはこんな時間にこんなところでどうしたの?」


「えるちゃんに会いに行ってたんだよ。宿に戻ってる途中」


「なんでそんな嘘をつくの?」


「嘘なんてついてないよ」


「神下さんなら今は騎士団の宿舎にはいないはずなんだけど。騎士団にずっとお世話になるわけにいかなくなったから、さっき僕が宿屋に移動させたからね」


「クオン君こそなんでそんな嘘を言うの?」

僕は本当のことを言っているけど、イロハとしては僕が嘘を言っていると言うしか逃げ道はない。

時間的におかしいから帰り道と言ったんだろうけど、自分で自分の首を絞めている。


「別に嘘なんて言ってないよ。なんなら今から宿舎に一緒に行く?もしかしたら神下さんが引っ越したのを知らずにヨツバが遊びに行ってるかなって思って、見にいくところだったから」

2人で移動するのもタイミングを図るのに悪くないし、断るならさらに詰め寄る理由になるだけだ。


「や、やめとくよ」


「そっか。ねえ、本当はヨツバに会ったでしょ?さっきから様子がおかしいよ」


「あ、ああ会ってないってさっき言ったよ」

ずっとイロハの声が震えていたけど、それがピークになってきている。

今にも後退りしそうだ。


「その様子だとヨツバに僕の秘密を聞いたんだね。知らないようならイロハは殺さなくてもいいかなって思ってたけど、残念だよ」

これで殺すという宣言にもなるし、十分敵対しているとも断言出来る。


「いや……誰か助けて!」

恐怖のあまり尻餅をついたイロハが大声を上げる。


「無駄だよ。助けを呼んでも誰もこないよ。だってこの空間だけ音を遮っているんだから。じゃないとこんな危険な会話をペラペラと話せるわけないでしょ?」


「な、なんで?なんでこんなことするの?四葉ちゃんにあんな酷いことして」


「やっぱりヨツバに会ってたね。危ない、危ない。危うく気付かずに逃すところだったよ。それでなんでこんなことをするのかだっけ?イロハに言っても理解してくれないかな。この世界を堪能するには僕が異世界人だと知るクラスメイトは邪魔なんだよ。それに、僕達異世界人のせいでこの世界に混乱が起きるのはよくないと思わない?何故かヨツバが勘違いして僕に懐いてきたから一緒にいただけで、勘違いだったと気付かれたなら排除しないといけない。簡単な話でしょ?」


「……クオン君はおかしいよ」


「僕が周りと違うことくらい自分で理解しているよ。だからって、周りに合わせて自分を押し殺して生きるのは窮屈で何も面白くない。長話している間に誰か来ても面倒だからさっさと死んでもらうよ」


「いや、やめて!」


「ウォーターボール!」

イロハに水球を当てて気絶させた後、首を絞めて窒息させて、動かなくなったところでストレージに仕舞う。


「よし、とりあえず後は神下さんだけだな。神下さんは放っておけば死ぬだろうから、その間にヨツバとイロハに謝りに行くか」



「悠くん、いる?立花さんが来たわよ」

翌日、ヨツバに謝りに行くにも、見つかったという情報が出てこないと行けないなと思いながらパソコンをカタカタしていると、ヨツバが来たと母さんに呼ばれる。


「上がってもらって」

入室の許可を出し、ヨツバが僕の部屋に入ってくる。


「クオンの部屋ってこんな感じなんだね」

ヨツバが僕の部屋をぐるっと見て感想を言う。


「色々言いたいことはあると思うけど、先に言わせて。ごめん。後悔はしてる」

僕は先に謝る。


「なんでクオンが謝るの?詳しいことまではわからないけど、私を帰す為に死なせたってことだよね?」


「結果的にはそうなんだけど、あんなに苦しませて死なせる必要はなかったから、もう少しやり方はあったなって」


「クオンは納得してないみたいだけど、私は感謝しかしてないよ。こうして帰ってこれたこともだし、向こうでたくさん助けてもらったことも感謝してる。昨日の夜に警察の人に話を聞いて、その後自分でも調べたから大体状況は理解しているつもりだけど、一応聞いてもいい?」


「もちろんだよ。ほとんどはヨツバが言っていた通りなんだけど、付け加えるなら向こうの世界での行いはこっちの世界にも似た形で反映されるってこと。神は善行ポイントとか悪行ポイントって説明してたけど、以前ヨツバの自殺を止めたのはそういう理由ね。自殺って善か悪かで答えるなら悪だと僕は思ったから。あとは、僕だけはクラスメイトに限って殺しても罪には問われないってことと、敵対して殺すと宣言しないといけないってことだね。だからヨツバを僕が殺すことは出来ずに、敵対する相手を僕から魔物に代わってもらったんだよ。グレーな気もしたけど、なんとなくあの神のことは分かってきたから大丈夫だろうと」


「そうだったんだ。それなら尚更ガーゴイルに食べられたのは仕方ないよ。それからね、ここに来る前に色葉ちゃんの家に行ったら色葉ちゃんも帰ってきてたんだけど、すごく睨まれたんだ。理由を話してくれなかったんだけど何か知らない?」


「イロハのことは僕のせいだね。さっき言い忘れたけど、向こうの世界のことを話せるのは僕とだけだから。今みたいにクラスメイトになんで殺したのか弁明しないとヘイトを買いすぎるから特別措置ね。だからどうしても話したいことがあれば、僕を介してもらうか、あの神に現状を変えてもらうしかないね」


「向こうでの楽しかった思い出を話せないのはなんだか寂しいね。まだえるちゃんは帰ってきてないみたいだけど、クオンのことだから何か考えてあるんだよね?」


「神下さんは1週間もしたら帰ってくるはずだよ。遅くても1ヶ月は掛からないと思う。神下さんを凶悪な寄生型の魔物として冒険者ギルドのマスターに報告しておいたからね」

元々は王都にダンジョンで手に入れた魔素を使って魔物を放ち、その犯人として神下さんを処刑させるつもりだったけど、ヨツバを殺したのは黒い羽を生やした少女だったということにして、作戦を変更した。

ヨツバを殺した後、王都の方に飛んでいったという話もして、神下さんの姿をした幻影を宿の近くで幾度か目撃させておいた。


犯人にするためにわざわざ魔素入りの瓶を神下さんに渡していたけど、絶対安全だとは言えない王都に魔物を放つという作戦よりは、この方がいいだろうという判断だ。


「それって大丈夫なの?」


「神下さんはヨツバ以上に知りすぎているからね。僕が関与し過ぎないところで、いつの間にか死んでもらうのが1番確実だと思うんだ。寄生される恐れがあるから、躊躇せず一撃で仕留めた方が良いと思うって言っておいたから、多分苦しまずに死ねるはずだよ」


「クオンがそこまで考えているなら安心して帰ってくるのを待ってればいいかな」


「失敗したとしても違う方法も考えてあるから安心してていいよ。イロハへの弁明をしたいから、悪いけどイロハをここに呼んでもらえるかな?」


ヨツバにイロハを呼んでもらい、あの時のヨツバは僕だったと説明して誤解を解き、イロハにも同じような説明をして解散する。



3日後、ヨツバが神下さんを連れて僕の家に来た。


別に神下さんに説明することはないし、帰ってきたってことだけならメールでもしてくれればいいのに……。

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