第210話 敵対

ヨツバに酷い死なせ方をしたことを悔やみながら遺跡を出る。


どうやって殺したところで元の世界に帰すためなんだから何も感じないと思っていたけど、ヨツバとは長い間行動を共にしすぎたみたいだ。


殺すにしても、もっと苦痛なく殺すことは出来たはず。

鈴原さんの時と同じだ。

強くなってなんでも出来るようになった気がしていただけで、僕自身は何も成長していない。


今思うと、ヨツバは死ぬかもしれないと察していたのかもしれないな。

だからあの時あんなことを言ったのかも。


元々遺跡にはヨツバを殺すために来たのではなく、ヨツバの血を手に入れるのが目的だったのに、その場の判断で動いた結果がこれだ。

昨日はちゃんとヨツバを殺そうか脳裏をよぎりつつも冷静な判断で止まれたのに、今日はそのまま能動的に動いてしまったのは、徹夜によって頭がちゃんと働いていなかったからかもしれない。


言い訳のようなことを考え、ネロ君の占いを信じきらなかった自分を責めつつも、終わったことだと自分に言い聞かせて、今度こそ冷静な判断が出来るよう自室に帰って寝ることにする。



ずっと目を瞑っていたけど、ヨツバが僕に助けを求める声が頭から離れず、ほとんど眠れないまま日が暮れる。


ログインした後王都に転移して、まずは冒険者ギルドにて依頼が達成したことと、仲間が命を落としたことを報告する。


ヨツバは遺跡ではなく、帰る途中に滞在していた王都近くの街道で夜営中に死んだことにして、ギルドマスターにその時の状況を僕の都合のいいように説明してから冒険者ギルドを後にする。


その後、神下さんのところへ行く。


「ヨツバは殺したよ。後はイロハと委員長だけ」

神下さんにヨツバが死んだことを伝える。


「ごめんね。私ずっとクオン君に頼りっきりで、助けるどころか邪魔しかしてなくて」


「気にしなくていいよ。神下さんには神下さんの都合があったわけだし、元々僕は神下さんの手を借りるつもりはなかったんだから」


「うん……。すごく顔色が悪いけど大丈夫?」

鏡は見てないけど、悪いのだろう。


「大丈夫。ちょっと寝れてないだけだから。これからヨツバの姿でイロハに会いに行くつもりなんだけど、正直に言ってバレると思う?」


「残念だけど、もしかしたらバレないかもしれないってくらいかな。私がわかる範囲で四葉ちゃんのクセとか仕草を教えたけど、私が気付いてない所で色葉ちゃんは違和感を感じると思うし、教えたところもやっぱり若干違うと思う。少しの間だけならバレないかもしれないけど、数分もしたらバレると思うよ。色葉ちゃんもクオン君が姿を変えられるのは知ってるわけだから」


「やっぱりそうだよね。正攻法でいくのは諦めるよ。あとこれ」

ストレージから大銀貨5枚を取り出して神下さんに渡す。


「これはなんのお金?」


「訳あって、神下さんをここに住まわせておくことが出来なくなったんだ。夜のうちに宿屋に送るから木箱に入って。扉越しにお金のやり取りをして、食事は扉の前に置いておいてもらえば生活は出来ると思うから」


「ずっと騎士団にお世話になるわけにはいかないから仕方ないね」


「その姿の神下さんは騎士団にとって爆弾を抱えているようなものだから、今まで助けてくれただけ感謝しないとね」

もちろんレイハルトさんから何か言われたわけではない。

神下さんをこのままここに居座らせると騎士団に迷惑が掛かるので、場所を変えるだけだ。



僕は幻影で適当に姿を変えて、神下さんの入った木箱を背負いながら宿屋に入る。


「夜遅くに悪い。部屋は空いているか?」

口調を変えて店主に部屋が空いているか確認する。


「空いているが、その箱はなんだ?」

当然怪しい箱を持っていれば中身を聞かれる。


「妹が入っているんだ。以前全身に大火傷をしたときの傷跡が消えなくてな。誰にも姿を見られたくないって言うから、外を歩く時はいつも俺がこうして運んでいるんだ」


「本当か?何か危ないものでも持ち込もうとしてないか?」


「える、なんでもいいからしゃべってくれ。中にお前がいることを証明したい」

木箱に向かって僕はしゃべる。


「え、えっと、いつも迷惑かけてごめんなさい」

木箱の中から神下さんの謝る声が聞こえる。


「疑って悪かったな。2人部屋でいいか?」


「ああ。助かる。すまないが、食事は部屋の前に置いておいてもらえるだろうか?俺は出掛けていることが多く、妹は食堂に行くことが出来ない」


「わかった。早く元気になるといいな」


「ありがとう。これは前払いだ」

嘘の設定に心配してくれた店主に悪いなと思いながらお礼を言い、前払いで2泊分払っておく。



「それじゃあ、これからはこの部屋で生活してね」

部屋に入って、カーテンを閉めて外から中が見えないようにしてから木箱から神下さんを出す。


「迷惑ばかり掛けてごめんね。色葉ちゃんのことはこれから行くみたいだから手伝えることはもうないかもしれないけど、委員長の時は何か手伝えるようにするから」


「気にしなくていいよ。それじゃあ行ってくるよ」



「あー、あー。よし、問題ないな」

イロハが泊まっている宿屋の前で魔導具の動作確認をして、頬をパンパンと叩いて気持ちを切り替えてから幻影で姿を変える。


「色葉ちゃん!」

イロハが泊まっている部屋まで走って行き、ドアをドンドンと強く叩きながら叫ぶ。


宿屋中に声が聞こえているだろうが、それも狙いの内だ。

周りがなんだなんだと出てこれば、それだけリアルさが増す。


「そんなに慌ててどうしたの?え!?大丈夫!?」

話しながらドアを開けたイロハがヨツバの姿をした僕をを見て驚く。


「大丈夫。致命傷は避けたから。そんなことよりも今すぐに逃げて!」

部屋に入りドアを閉めて、まずは防音のスキルで会話が外に聞こえないようにする。

僕が幻影でつくったヨツバは血だらけだ。

いつものヨツバだとイロハに違和感を感じさせて僕だとバレるなら、イロハが見たことのないヨツバを演じればいいだけだ。


「そんなことって、早く手当てしないと」

イロハが以前僕が渡した杖を持ってきて、回復を試みる。


回復しないというのもおかしいので、少し傷を塞がるように幻影を調整する。


「ありがとう。でも、私のことはいいから色葉ちゃんは逃げて!」


「逃げるって何から?どこに逃げればいいの?」


「クオンから……。私が間違ってた。死んだら帰れるなんてことなかった。クオンはこの世界の異物である私達を排除してただけで、私達じゃなくてこの世界の為にやってただけ。クオンはずっと死んだら帰れるなんてことはないって言ってたのに、私が勝手に勘違いして、そのせいで助けられる人まで死なせちゃった」

焦る演技をしながら、早口でまくしたてる。


「四葉ちゃん落ち着いて。何があったかわからないけど、逃げるなら一緒に逃げよ」

イロハが僕の肩を揺らしながら言う。


「だめ。色葉ちゃんは1人で逃げて」


「なんで!?」


「2人一緒じゃクオンからは逃げられない。私が気を引いているうちに色葉ちゃんは逃げて!」


「やだよ」

イロハがボロボロと涙を溢す。

うまく騙せているという証拠ではあるけど、罪悪感がすごい。

こんなことなら出会った頃にヨツバもイロハも殺しておけばよかったと思いながらも、始めたからにはやり遂げなければならない。


「クオンの弱点ならわかってる。なんとかして接近戦に持ち込めばまた逃げることくらい出来るはずだから、ちゃんと後で合流しよ。色葉ちゃんがいたら逃げることも出来ないから行って」


「絶対だよ?」


「うん。約束する」

イロハは部屋を出て走っていった。


ヨツバと違い、イロハはヨツバが僕を信用していたから僕を敵と認識しなかったたけだ。

その前提が崩れた今、イロハの中で僕は親友を殺そうとしている敵でしかない。

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