第209話 1人目
「ふあぁぁ!」
ヨツバを村の入り口で待っている間、大きなあくびがでる。
朝まで神下さんとヨツバになりきる演技の特訓を続けた結果、正直眠い。
引きこもってゲームをしている時は徹夜なんて日常茶飯事で、1日や2日寝なくても問題なくゲームを続けることが出来た。
これだけ眠いのは体を動かしているからかな。
ヨツバと合流した後、昨日ガーゴイル3体に苦戦したという実績があるので、あれは僕が油断してヨツバが襲われるまで気付かなかったということにして、慎重に進もうということでゆっくりペースで遺跡を探索する。
「何か考え事?」
遺跡に入り、少し進んだところでヨツバに聞かれる。
「あー、ごめん。今日は順調だから、油断してたにしても昨日苦戦したのはなんでだったんだろう?って考えてただけだよ。もしかしたら強い個体だったりしたのかなって。集中するよ」
本当はなんで魔物にヨツバを殺させた場合に僕が満足しないのか考えていた。
ネロ君の占いを聞くまで、僕と敵対するのが難しいヨツバは、事故に見せかけて魔物に始末させるつもりだった。
こういった遺跡や洞窟の奥深くで、ヨツバが昨日のような怪我をしたタイミングで助けなかったり、天井を崩して分断すれば、魔物が目的を達成してくれるだろうと。
僕が満足しないだけで望みは叶うと言っていたから、魔物に殺させるという行為自体がNGで、神とのルールに抵触するということはないはずだ。
だからこそ何に僕が満足出来ないのかがわからない。
絶好のタイミングではあるのだから、ネロ君の占いを無視してヨツバにはここでリタイアしてもらうのも悪くないのではないかと本気で悩む。
望みが叶うということは、ヨツバが死んで元の世界に帰り、神にも敵対されない。
これは間違っていないはずだ。
つまり、満足しないというのはその結果を得られるまでの過程の話、又はヨツバが死んだ後の話だ。
死んだ後で考えるなら、僕がヨツバを殺したとこの世界の人にバレるということくらいしか考え付かない。
委員長にバレたところで今更なので、今後の動きに影響はないだろうから。
ただ、事故に装うつもりでいるので、ヨツバが僕と行動中に死んだとバレたとしても、そこまで悪いようになる気はしない。
ネロ君の占いは正確すぎるので、妥協出来るレベルなのに、完璧ではないから満足しないという結果が出たのではないのかな……。
「少し休憩しよっか。疲れちゃった」
集中すると言ってからもぐるぐると思考を巡らせていた僕に気を使ってくれたのであろうヨツバの提案で、少し休むことにする。
「クオンは私や色葉ちゃん、それから桜井君と一緒に旅をして楽しくなかった?」
睡魔が限界を超えて襲ってくるので少し仮眠でも取ろうかと思っていたけど、ヨツバに聞かれてこれまでのことを考える。
「僕は結構ヨツバの前でもはしゃいでいたと思うよ。なんで急にそんなことを聞くの?」
「私はクオンと一緒だったから楽しかった。辛いこともあったけど、楽しい思い出の方が多いよ。クオンは違ったのかなって。クオンは1人でもこの世界を満喫してそうだけど、私と一緒で楽しくはなかった?」
「1人で旅してるよりは楽しかったと思うよ」
ここで嘘を言う必要はなにもないので、素直に答える。
楽しいことを共有出来る時点で、1人よりも2人、2人よりも3人のほうが旅は楽しいのは当然だ。
しかも、ヨツバは僕の性格を理解してくれていたので、出会った頃を除いて変な気を使う必要はなかった。
「よかった。少しだけだったけど、クオンと離れている間辛かったから、またこうして一緒に依頼を受けれて嬉しい」
こういうことを平然と言うから、堀田君のような犠牲者が出るのだろう。
「よし!十分休んだし先に進もうか」
恥ずかしい話が膨らみ過ぎる前に僕は立ち上がる。
昨日ガーゴイル3体に襲われた所からさらにしばらく奥へと進むと、10体程のガーゴイルが群れているのを見つける。
「どうする?」
ヨツバが戦うかどうかの判断を仰ぐ。
「油断しなければ大丈夫じゃないかな」
昨日ヨツバが怪我をしたのは、僕が戦わなかったからなので、僕もちゃんと戦えば問題なく討伐出来るはずだ。
「わかった。前衛は任せて」
「お願いね。ファイアーボール!」
ヨツバがガーゴイルに向かって走っていくのを僕は援護する。
「きゃあ!」
そして、戦いが始まったのを確認してから石を射出して天井を崩す。
ヨツバの悲鳴が聞こえるが、僕は何も答えない。
なぜなら、僕は瓦礫に埋もれたことにしたからだ。
実際に埋もれているのは幻影で作った僕で、本物の僕は柱の影に隠れている。
「クオン!?大丈夫!?返事して」
僕を心配するヨツバの声が聞こえるけど、僕は無視する。
「痛っ、邪魔!クオンが……」
瓦礫をどかそうとするヨツバをガーゴイルが襲う。
「やめ……、ごほっ」
3体でも苦戦していたガーゴイルの群れと対峙しているのに、僕を助けようと背中を向けていれば無防備なところに攻撃を食らうのは当然で、背中を大きく爪で切り裂かれて、内臓まで爪が届いていたのか口から血を吐く。
「いや……クオン!起きて!クオン!」
ガーゴイルが手負いのヨツバを見逃してくれるわけはなく、守りに徹しながら僕の目を覚まそうと声を上げるヨツバに少しずつ傷が増えていく。
「助けて……クオン……」
「ファイアーボール!」
そのままジリ貧になり、ヨツバが動かなくなったのを確認してから僕は姿を現し、ヨツバの死体を囲んでいるガーゴイルに火球を当てて掃討する。
全身をガーゴイルに喰われてボロボロになったヨツバを見て僕はガシガシと強く頭を掻く。
「満足しないってこういうことか……」
思ったことをそのまま口に出しながら、ヨツバの死体をストレージに回収した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます