第208話 探索目的

翌朝、村の入り口でヨツバと合流して遺跡へと向かう。


「ガーゴイルは遺跡の最深部近くの宝物庫の辺りにたくさんいるらしいよ。宝物庫には何もないから変な期待はしないようにね」


「気をつけるね」


「あと、冒険者が何度も出入りしているからもう無いとは思うけど、トラップがあるかもしれないからそれも注意ね」


「わかった」


気を付けないといけないことを共有してから遺跡の奥へと進んでいく。


「あれがガーゴイルだね。頭部にある宝石みたいな石を納品するのが依頼内容だから、頭は破壊しないように気を付けて」

大きな羽で飛んでいる悪魔のような顔をした石像がガーゴイルだ。

その頭部には怪しく光る石が嵌め込まれており、魔導具の材料になるらしい。


まだ遺跡に入ったばかりだということもあり、相手は1体だ。


この依頼に決めた理由の1つがガーゴイルの討伐依頼ではなく、ガーゴイルの頭部の納品依頼だということ。

僕が倒したらいけないということはないけど、僕が倒したら頭部ではなく他の何かに変換されてしまうから、僕の倒した分は依頼としてはカウントされない。


だから基本的にヨツバが戦い、僕は援護する形になる。


「問題なさそうだね」

ヨツバがガーゴイルの首を切り落としたのを確認して、僕はストレージに仕舞いながら言う。


「硬いし、思ってたよりも動きが速いね」


「それでも対応出来てたね。腕が鈍ってなくて安心したよ。気を付けながら奥に進もうか」


周りに気を付けながら移動を再開する。


奥に進むにつれてガーゴイル以外の魔物の凶悪さも増していき、ガーゴイルの数も増えていく。



ガシャン!

「痛っ!」

ガーゴイル3体と出会した時、僕が待っていたことが起きる。

ヨツバがガーゴイルの猛攻に対処しきれず、鋭い爪で肩から肘辺りまでを裂かれて、生命線である剣を落とした。


思っていたよりヨツバが強く、僕が戦っているフリをしてガーゴイルから隠れていたらやっとヨツバがピンチになった。


「…………ストーンバレット」

このまま放置すればヨツバはガーゴイルに殺されるかもしれないと一瞬脳裏をよぎったが、同時に以前にネロ君が魔物を使うことに僕は満足しないと言っていたことも思い出す。

元々考えていた方法ではないので、あの占いに意味はないのかもしれないけど、僕はガーゴイルに石つぶてを当ててヨツバを助ける。


今は当初の目的が達成出来ればそれで良しとする。


「大丈夫?さっき自分にヒール掛けちゃったからすぐに治せないんだ。とりあえずこれで押さえといて」

ヨツバのところに駆け寄り、タオルを3枚ストレージから取り出して渡す。


「ありがとう」

ヨツバがタオルを傷口を押さえるように肩に当てる。


「ヒール!遅くなってごめんね」

少し待ってからヨツバの傷を治す。


「ううん。対処しきれなかった私が悪いから」

本当に悪いのは苦戦しているヨツバを戦っているフリをして眺めていた僕だけど、当然そんなことは言わない。


「疲れが溜まってきたのかもしれないし今日は引き返そうか。遺跡の最深部に行かないといけないわけでもないから戻っても今日の成果がなくなるわけでもないし。血も止まってるだろうしタオルはもらうね」

ヨツバから受け取ったタオルをストレージに仕舞ってから来た道を引き返す。


「ごめんなさい。さっきクオンは助けてくれないんじゃないかなって少し思っちゃった」

村に戻ってきたところでヨツバに急に謝られる。


「そんなことはしないよ。ヨツバを魔物に殺させたいならこんな面倒なことはせずに、両手足を縛って魔物の前に放置しておけばいい話でしょ?」


「そうだよね」


「それじゃあまだ依頼達成となる数は集まってないから明日も朝に村の入り口に集合ね」


ヨツバと別れた後、自室に戻るフリをして王都に転移する。


今度はちゃんとイロハが来ていないのを確認した後、神下さんのところに行く。


コンコン!

「えるちゃん。私」


「あれ、四葉ちゃん。クオン君と遺跡に行ったんじゃなかったの?」

恐る恐るドアを開けた神下さんが狙い通り僕をヨツバと勘違いする。


「トラブルがあって引き返してきたの」


「……そうなんだ。違ったらごめんね。もしかしてクオン君?」

うーん、ばれてしまった。

幻影でヨツバの姿になって、さっき手に入れた血を使って声もヨツバそっくりになってるはずなのに。


「バレちゃったね」

バレてしまったので魔導具の使用をやめて、幻影も解く。


「やっぱりクオン君だったね。なんでこんな悪ふざけみたいなことをしたの?」


「神下さんに僕の練習を手伝ってもらおうと思ってね。まずは神下さんが僕だと気付くのか知りたかったんだ」


「手伝うのはいいけど、何をしたらいいの?」


「少し前に神下さんにも血液を採取させてもらったけど、ヨツバの血液も手に入れてきたんだ。これは声を変える魔導具なんだけど、ここにヨツバの血が染み込んだタオルの切れ端を入れて発動させると……ほら、僕の声がヨツバそっくりになった」


「すごいけど、なんだか気持ち悪い」


「まあ、男の僕の口から女の子の声がしたら気持ち悪いと思うのは当然かもしれないけど、これですぐには僕だとはわからないでしょ?」

僕は幻影のスキルで見た目もヨツバそっくりになる。


「うん」


「それでもさっき神下さんには僕がヨツバではないと気付かれたわけだよね?僕だと気付いたのは、ヨツバじゃないならっていう消去法だとは思うけど、ヨツバじゃないって気付かれたくないんだ。イロハにね。だから、親友の神下さんから見てもヨツバにしか見えないように手伝って欲しいんだよ。さっきは何か違和感があったんでしょ?」


「何が違ったか説明しにくいけど、なんだかふとした仕草っていうのかな。違和感があったよ。でも、色葉ちゃんにバレないようにするには大変な気がするね」


「簡単ではないことは理解してるよ。だから神下さんに修正を付き合ってもらおうと思ってるんだよ。これはイロハと敵対して殺すために必要なことだからとことん付き合ってね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る