第207話 仲直り

「こちらが約束の魔道具になります」

数日後、冒険者ギルドにデイルさんからの伝言が来ていたので、カルム商会の魔法都市支部へと向かい、デイルさんから変声の魔導具の入った箱を受け取る。


「ありがとうございます。お代は本当に宜しかったんですか?」

払うつもりでいたのに、タダでいいと伝言をもらっているので確認する。


「はい。頂戴した杖の方が支部長にとって価値があるようですので、お代は不要でいいとのことです」


「わかりました。ありがたくいただきます」

タダより高い物はないというけど、貰えるものは遠慮せずに貰おう。

何か後から言われたら、代金を投げつけてやればいいだけの話だ。


「こちらに取り扱い方法を書いておきました。いくつかサンプルは同梱してありますので、まずはお試しください」

デイルさんから取り扱い説明書を受け取る。


「ありがとうございます」


「ご用件は以上になりますが、支部長より伝言を預かっています。悪いようにするつもりはない。遠慮せずに不可思議な物を持ってこい。とのことです」


「早々ないと思いますけど、見つけたら持ってきますね」


「よろしくお願いします」


誰にも見られないように魔法都市の外に出た後、魔道具を試しに使い、必要な物を得る為に王都にファストトラベルで移動する。


コンコン。

「クオンだけど、入っていいかな?」


「えっと……どうぞ」

なんだか気まずそうな返事が返ってくる。


「ヨツバとイロハも来てたんだね」

神下さんの部屋を訪ねると、ヨツバとイロハがいた。


神下さんは僕がヨツバに敵だと言い、神下さん含め3人を殺すと言ったことも知っているから、部屋にあげるのが気まずかったのだろう。


「え、えっと……何の用?」

神下さんがおどおどしながら聞く。


「様子を見に来ただけだよ。僕がいても気まずいだけだと思うから帰るね。また時間をおいて来るから、何か困っていることや不便なことがないか考えておいて」

ヨツバとイロハがいたら目的は達成出来ない。

なので出直すことにする。


「待って。クオンの秘密を勝手に話したのは謝る。ごめんなさい。もう勝手に話したりしないから仲直りしてほしい」

ヨツバに言われる。ヨツバの目はうるうるとしており、今にも泣きそうだ。


「…………すぐに返事は出来ないから、返事はまた今度しにさせて」

僕はヨツバを嫌いにはなっていないし、秘密を話したこと自体も実際のところ何も思っていない。

委員長にはヨツバが話さなくても大体のことはバレていたし、元々疑わられていたからイロハを殺すのが少し面倒になったなくらいだ。

敵対しないといけないから敵だと言って別れることにしただけにすぎない。


だから泣きそうになる程気にしているのであれば許してもいいのだけれど、そうするとヨツバとイロハをどうやって殺すかという過程を考え直さないといけない。


どちらの方が都合がいいのかすぐに判断は出来ないので、とりあえず答えは先延ばしにする。


「わかった……」


ヨツバが小声で返事したのを聞いてから部屋を出て、夜まで時間を潰してから再度神下さんのところを訪ねる。


「私に何か用があるんだよね。なんだったの?」


「神下さんの血が欲しいんだ。採らせてもらってもいいかな?」

変声の魔導具には対象の魔力パターンを分析できるものが必要だと説明書に書かれていた。

魔力パターンというのはDNAみたいなもののようだ。


血液が魔力パターンを分析するのに最適だそうなので、神下さんの血を貰いにきた。


神下さんの血は今のところ必要ではないが、全てが思い通りに進むわけではないので、応用が利くように持っておきたい。

神下さんには以前に魔素の入った瓶も渡しているので、それと組み合わせればやれる幅は広がる。


「何に使うのか聞いてもいい?」


「どこから話が漏れるかわからないから秘密だよ。神下さんが話す気がなくても口を割らされるかもしれないからね。ただ、最終的に何をする為なのかはわかるでしょ?」


「わかった。好きに持っていって」


「ありがとう。それじゃあ少し痛いと思うけど我慢してね」

僕は神下さんの腕をナイフで切って布に血を吸い込ませ、十分な量を採取したところでヒールで傷を治す。


「昼間の件、四葉ちゃんのことね。どうするの?」


「このまま仲違いしているほうが早く殺せると思うけど、神下さんはどうした方がいいと思う?」


「私は仲直りしてほしいって思うよ。クオン君は目的のために別れただけってわかるからいいけど、四葉ちゃんは辛そうだから。でも、どっちが正解かはわからない」


「それじゃあ和解することにしようかな。ヨツバ達は前と同じ宿に泊まってる?」


「同じ宿だよ。でもいいの?」


「どっちでも目的は達成出来ると思っているからね。それに、こっちはこっちでメリットもあるから」

神下さんにはこう言ったけど、声を変えるのに対象の血が必要なことを考えると、こっちの選択肢の方が早く目的を達成できるかもしれない。


用は済んだので部屋を出て、ヨツバとイロハが泊まっている宿の部屋へと向かう。


「クオンだけど、昼間の件で話をしにきたよ」


「うん。入って」

浮かない顔をしたヨツバに中に入れてもらう。


「昼間のことに返事する前にイロハに聞きたいんだけど、僕の秘密を聞いたわけだよね。ヨツバが勘違いしているだけで死んだら元の世界に帰れるなんてことはないのに、僕の都合だけでクラスメイトをたくさん殺したわけだけど、イロハは僕とヨツバの関係が以前に戻っていいのかな?」


「私は四葉ちゃんを信じてるから」


「そっか。それならヨツバが僕の秘密を話したことは忘れてもいいよ。今回だけね」


「ありがとう」

ヨツバの目から涙が溢れる。

安心したのだろうけど、これからやることを考えると流石に心が痛むな。


「知ってるかもしれないけど、僕は騎士団を辞めて冒険者に戻ったよ。オアシスも完成したからもうすぐお金は下ろせるようになると思うけど、僕は前みたいに依頼を受けながらまだ行ってない所に行くつもり。2人はどうする?」


「えるちゃんは?」

ヨツバが答える前にイロハに聞かれる。


「神下さん次第かな。また木箱に入ったままになるだろうし、窮屈な旅でもいいなら僕は一緒でも構わないよ。神下さんのことが気になるなら当分は王都を拠点に活動しようか」


「色葉ちゃん、いいかな?」


「いいよ。私はあまり戦力にならないから宿にいることが多くなると思うけどね」


「ありがとう」

ヨツバがイロハに礼を言う。


「決まりだね。僕は明日から依頼を受けるけどヨツバはどうする?」


「準備しておくね」


「わかった。それじゃあ前と同じで朝にギルドに集合ね」



翌朝、冒険者ギルドでヨツバと合流する。


「一緒に依頼を受けるのは久しぶりだね。ヨツバが来る前にどれがいいか選んでたんだけど、これなんてどうかな?」

剥がしておいた依頼書をヨツバに見せる。


「ガーゴイル?私は戦ったことないけど、Cランクの依頼ならクオンと一緒だし大丈夫かな」


「少し怪我するかもしれないけど、ヒールで治せるからそこまで危険はないよ」


「少し遠いね」


「ガーゴイルが住処にしている遺跡までは片道1日くらいかな。遺跡の中も少し探索したいから、帰ってくるのは早くて4日後かな。何か予定を入れてた?」


「大丈夫」


「それじゃあこの依頼を受注してくるね」


依頼を受けた後、遺跡の近くの村まで馬車で移動する。

予定通り、着いたのは日が暮れてからだった。


「宿屋は……あれかな。はい、お金。受注した時に確認したら凍結が解除されてたから余分に下ろしておいたよ」


「ありがとう」


「僕は家で寝るから、朝に村の入り口に集合ね」


「うん」


僕は宿で部屋は取らず、ヨツバだけ宿屋に泊まらせる。


さて、準備は大体整ったな。

順調に事が進めば、決行は明日にするか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る