第206話 お悩み相談
「ありがとう。参考になったよ。もう一つなんだけど、ネロ君に委員長が占ってもらった時に、誰かが命を失えば帰れるって言ってたでしょ?僕を殺せばスキルを交換できるから、そのことを言ってるんだと思ってたんだけど、本当にそうかなって。委員長はどう思う?」
一つ目の相談ごとに対してお礼を言ったあと、二つ目の相談に入る。
「私は別の可能性もあると思っているわよ」
「僕も最近になっておかしいなって思ってね。委員長が誰かの命を奪うという選択肢自体がちょっとね。現実味がなさすぎるなって。そもそも、僕が勝手に勘違いしただけで、ネロ君は殺せとは言ってなかった。つまり、誰かが死んだらそれに起因してみんな帰れるんじゃないかなって思うんだけど、どうかな?」
「その可能性は高いかもしれないわね」
「それが誰かだけど、僕達を召喚した人だと思うんだよね。会うのが難しい高貴な存在ってやつ」
「私がクオン君を殺すというのを抜きにすれば、1番可能性が高そうね。もう一度ネロ君に占ってもらえばいいんじゃない?一瞬で移動出来るんでしょ?」
委員長にはファストトラベルのことは話してないはずだ。
ヨツバは委員長にも話したということかな。
「ネロ君に占ってもらうつもりはないよ」
「何か聞けない理由でもあるの?」
「なんでもかんでもネロ君頼りにしてたらつまらないと気付いたからね」
「……立花さんの言っていたことが少しわかったわ」
「なんて言ってたの?」
「クオン君にとってこの世界はゲームで、私達はキャラクターだって」
「ヨツバは僕のことをよくわかってるみたいだね」
「少しは否定して欲しかったわ。それで、その高貴な存在が誰か私に聞いているのよね?」
「少し違うよ。会うのが難しい高貴な存在って、王族くらいだと思うんだよね。正直、騎士団長の肩書きを使えば並の貴族には簡単に会えるから」
「そうかもしれないわね。それで、そこまでわかっているなら私に何を聞きたいの?」
「試しに王族の誰かを殺してみたらマズイかな……ってね」
「本気で言ってるの?」
「半分くらいかな。まずは城に潜入しようかと思っているよ。リスクと天秤にかけた時に、それでもやるだけの価値はあると思うか聞きたかったんだ」
「そんなことしなくても死ねば帰れるじゃない。わざわざそんなことしなくてもいいんじゃない?」
「いや、死んだら帰れるなんて知らないから、帰る方法を探しているんだよ」
サラッと言ってきたな。流れで死んだら帰れることを否定し忘れて、その方が面白そうだからと答えそうになったよ。
危ない、危ない。
実際のところは、面白そうだという以外にも気になることがあるのだけれど……。
「真剣に答えるなら悪くはないと思うわよ。王族を手に掛けるのはどうかと思うけど、禁書庫にも召喚に関する書物は無かったわ。あの神が私達を連れてきていないのであれば、どこか他のところに召喚や転移について記されたものがあると考えた方が自然ね。隠れて探す術があるならリスクを犯してでもやる価値はあると思うわ」
「それで、例えば国王を殺せば帰れるとわかったら委員長は国王を手に掛けるの?」
「……相手次第ね。言いたくはないけど、死んだ方がいいような相手ならそれも候補に入れるわ」
委員長が国王を殺したとしたら、それは罪として反映されるのだろうか?
普通に考えれば重罪だろうけど、帰還のためのルートと考えると、あの神的には悪行ポイントとしてカウントしない気もする。
そもそも、国王ではなく拉致監禁犯と考えた場合、逃げる為に犯人を殺したとして、それは罪には問われないだろう。正当防衛というやつだ。
これは、僕が国王を殺したとしても同じ扱いになるはずだ。
「力を手に入れる為に呼んだみたいだから、碌な人間でないことは確定しているけどね」
「それは、相手のことをよく知らないとわからないわ。やむを得ない事情でもあるかも知れないじゃない」
「やむを得ない理由があったとしても多くの人の人生を無茶苦茶にしたんだから、仕方ないでは済まないと思うけどね。まあ、委員長の考えが聞けてよかったよ。それじゃあ」
「ちょっと待って。前もクオン君は自分の聞きたいことだけ聞いて帰ろうとしたわよね。クオン君の相談には乗ったんだから、今度は私の相談に乗ってもらえるかな?」
「別にいつでも相談には乗るよ」
「クオンくん自身が立花さんに言及したみたいだから隠さずに話すけど、立花さんからクオン君が鈴原さんを殺したことは聞いたわ。話が進まないから、とりあえずクオンくんが殺人鬼なことはそろそろ認めてもらえるかな?」
ヨツバに言及したのはイロハに話した件だったけど、もしかしたらヨツバは委員長にしか話してなくて、イロハは委員長から聞いた可能性もあるのか……?
これはハッキリさせとかないと後々まずいことになるかもな。
「そうだね……。まあ、そろそろ認めてもいいかな。僕がクラスメイトの半分くらいは殺したよ」
クラスメイトを殺していることを話したらいけないわけではないので、ヨツバが話した以上、これ以上隠す必要はないと判断して認めることにする。
「死んだら元の世界に帰れるのよね?」
「それは知らない。ヨツバも勘違いしているみたいだけど、そんなことを僕は知らないよ。僕の知らないところで帰っているのかも知れないけどね」
当然、こちらは否定する。
「これは認めないのね。それならなんでクラスメイトを殺したの?」
「それは前に話したよね?あの時は狩谷君が殺すのを見て見ぬ振りをしたと言ったけど、理由は変わらないよ」
「そんな理由ではないと思うのだけれど、堂々巡りになりそうだから、死んだら帰れるという仮定の話として答えてくれるかな?」
「絵空事の話でも相談には乗るよ」
「立花さんが死んで元の世界に帰る時に、別の体に魂を移し替えて生き返るみたいな話をしていたの。それって本当に自分といえるのかな」
委員長は知りすぎてしまったが為に、魂を移し替えられて元の世界に戻ることに嫌悪感を感じているということかな。
「そもそも、死んだ時に魂を移し替えられていたとして、それを当人は認識しているのかな?移し替えられたということを知らなければ、それは同じ肉体のまま転移しているのと変わらないと思うな。まあ、仮に委員長が死んで元の世界で生き返ったとしたら、肉体が移し替えられていなくても自分ではないと思うかもね」
「そうよね……」
「でも、それを自分じゃないとしてしまうと、臓器の提供を受けたりした人も別人になったということになってしまわないかな?一部なのか、それとも丸々全部なのかの違いしかないと思うけどね」
「言いたいことはわかるのよ。言っていることが間違っているとは思わないけど、結局は気持ちの問題ってことよね」
委員長が死んで元の世界に帰るという選択肢に不快感を感じているのであれば、殺さずに別の方法で帰ってもらった方がいいかもな。
王族が死ねば帰れるという別の選択肢もありそうだし、騎士団の仕事とクラスメイトを保護するという役目から解放された委員長が本気になって探せば、すぐに帰還方法は見つかるような気もする。
「そうだね。ただ、実際は死んでも肉体を移されて生き返るなんてことはないから、考えるだけ無駄だよ。他には何か話はある?」
「クオン君はこれからどうするの?騎士団長を辞めたのよね?」
「特に変わらないかな。特に団長として何かやってたわけじゃないからね。訓練に顔を出さなくなるくらいだよ。何かあったら冒険者ギルドに伝言を頼んで。定期的に冒険者ギルドには行くようにするつもりだから」
「私はどうしようかな。お金はある程度貯まったけど、やることが一気になくなるわね」
「委員長もこの世界を観光して回ったら?せっかくの異世界なんだから、楽しまないともったいないよ。それじゃあ、今後こそ僕は帰るね」
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