第205話 チャーム

「今までお世話になりました」

マーリンさんに魔導具を作って貰えることになり、騎士団長でいる必要もこれで本当になくなったので、少し遅くなったけど、レイハルトさんに騎士団長の座を譲る。


「世話になった。これは餞別だ」

レイハルトさんから短剣を受け取る。

アリオスさんから貰ったロングソードと同じ意味合いを持つ短剣だ。


「ありがとうございます」


「これだけの期間でやめたのだから悪い噂が流れるだろうが、それを見せれば私が君のことを評価していると相手にわからせることが出来るはずだ。遠慮せず使ってくれで構わない」


「僕は周りからどう思われようと気にしませんが、その気持ちが嬉しいです」


「これからどうするんだ?」


「冒険者に戻ります。なので、何かあれば冒険者ギルドに伝言を残してください」


「承知した」


「お手数掛けますが、神下さんだけもうしばらくお願いします。どこかのタイミングで引き取りに来ますので」


「任せてくれて構わない。ずっと部屋にいるから、私達がやることは特にないけどね」


エドガードさんなど、仲の良かった人にも軽く挨拶をしてから、第1騎士団を去る。



「久しぶり。どうするかは決めた?」

そのまま第10騎士団の寮に向かった僕は、委員長を見つけたので話しかける。


「久しぶりね。立花さん達と仲違いしたみたいね。落ち込んでたわよ」


「人の秘密を話してしまう人とは一緒にいられないのは仕方のないことだよ。それで、さっきの答えは?僕はちょうどさっき退任してきたところだよ」


「今やっている任務が片付いたら辞めることにしたわ。なかなか口を割らないから、時間が掛かりそうだけどね」


「委員長でも口を割らせることが出来ないなんて、邪教徒は本当に強情だね。まあ僕がやるから、最後の任務はもうすぐ終わるよ」

第10騎士団に来たのは、拠点を壊滅させて賊の幹部を捕まえたが、一言も話さず、何も口にしようとせず、死のうとするから手を貸してほしいとアルマロスさんに頼まれたからだ。


「すごい自信ね。元々クオンくんが賊の拠点を吐かせたのよね。尋問にも長けていたなんて驚きだわ」


「僕は皆に愛されているからね。アルマロスさんのところに向かう途中だったんだけど、ちょうどいいから賊のところに案内してくれる?」


「急に何言ってるの?」


「見てればわかるよ」


委員長に第10騎士団保有の地下牢へと案内される。

そこには、動けないようにガチガチに拘束され、口にも布を噛まされた男4人と女1人が椅子に座らされていた。


「この5人が捕らえた賊の幹部?」


「そうよ。本当はもう2人いたのだけれど、尋問している途中に舌を噛み切って自殺してしまったわ」


「とりあえず1人ずつ話を聞いていこうか。『チャーム』!」

幻惑魔法である魅了のスキルを男に掛けると、男の目がトロンとなり、険しかった表情に変化が起きる。

掛かったな。


「その女は誰だ!!」

男の口から布を取ると、委員長に殺気を飛ばしながら叫んだ。


「え……、なに?」

委員長は急な出来事に困惑している。


「この人に無理矢理ここに連れてこられたんだ。あなたが何か隠しているから、話させる為に殺すと言われた。隠していることがあるなら話して。僕はまだ死にたくないよ」

男に嘘の設定を教える。


「クオン君、急にどうしたの?」

委員長が困惑したまま聞いてくるが、今は無視だ。


「わかった。なんでも話すから、俺の男に手を出すな」

やっぱりヒールと同じくらいチャームもチートだな。

初対面の相手に対して、気持ち悪いくらいの好意を向けるなんてどうかしている。


「大事な秘密より僕を選んでくれて嬉しいよ。なんでも話してくれるって」

ちゃんと洗脳出来ているので、委員長に聞き取りは任せる。


「え、えーと、本拠地がどこにあるか教えてくれる?」

委員長が困惑しながらも、男に質問をする。


「本拠地の場所は知らないが、他の拠点の場所ならいくつか知っている。話すから、あいつに手を出すなよ!」


「「んーー!んーー!」」

その様子を見て、他の拘束された者達が止めろと言わんばかりに布を噛まされたまま声を上げるが、それで男が我に返ることは無い。


委員長が男の前に地図を置き、言われた場所に印を付けていく。


他にも、他の拠点との連絡方法や、違法な取引をしていた相手の情報などを、男はペラペラと話した。


「全部話した。約束通りあいつを解放してくれ」

男が委員長に嘆願する。


「これを咥えて。よし、秘密を話したお前はもう用済みだ」


ゴツっ!……ゴツっ!


僕は男の口に布を噛ませた後、男を2度殴る。


僕の掛けた魅了は検証の結果、強い衝撃を受けると解けるとわかった。

ゲームでも、攻撃を食らうことで魅了の状態異常は確率で解除される仕様だった。

モンスターを魅了して同士討ちさせても、戦っている途中に魅了は解けた。


なので、話を聞き終わって用がなくなった男の魅了が解けるまで殴れば、いつまでも気持ち悪い視線を向けられなくて済む。


魅了が解けた男の顔が真っ青になる。

魅了されている間の記憶は残っており、自分がペラペラと秘密を話してしまったことに対して絶望しているようだ。


「他の情報があるかもしれないから、残りの4人にも一応話を聞こうか」


同じ方法で残りの4人からも情報を引き出し、尋問を終える。


「お疲れ様。その情報はアルマロスさんに伝えておいてね」


「まずはお礼を言うわ。ありがとう。それで、さっきのは何か説明してくれるのよね?見ていたから何が起きたのかは理解しているつもりではいるけど」


「少し前に新しく取得したスキルだよ。わかっていると思うけど、簡単に言うと惚れさせるスキルだね。いやー、恋は盲目というのは本当みたいだ。恐怖さえ覚えるよ」


「私はそんなことを平気な顔して言っているクオン君に恐怖を覚えるわね」


「これで委員長は騎士団を辞めるということでいいのかな?」


「そうね。今の情報を得た上で次の作戦をロゼさんに立ててもらって、それを聞いてから辞めることにするわ」


「委員長に2つ相談に乗ってもらいたいんだけどいいかな?」


「クオン君が相談なんて珍しいわね」


「流石に独断でやるには事が大きすぎるからね。知恵を貸してほしい」

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