第203話 デイル

「この前の返事を聞かせてもらえるかな?」

魔法都市に行く前に孤児院に立ち寄った僕は、ネロ君に先日渡した騎士団への推薦状について答えを聞くことにする。


「……まだ考えてて、もう少し時間をください」

ネロ君にとって孤児院は大事なところだとは思うけど、クローネ探しを優先すると思ったんだけどな……。


「クローネを探すなら、騎士団所属になったほうがいいと思うけど……?」


「気のせいかもしれないんだけど、少し前にクローネが近くにいた気がするんだ。騎士団の力を借りる為に王都に行くより、ここにいた方がクローネに会えるんじゃないかなって……」

神下さんと一緒にクローネと思われる先輩の天使がネロ君の近くに来ていたのを、ネロ君は感じ取っていたようだ。


クローネを探すのを第一に考えた結果、ここを離れるのに抵抗があるということか……。


「騎士は必ず王都に行かないといけないことはないよ」


「そうなの?」


「普通は訓練もあるから王都に行くのだけれど、国を守るために各地に配置された騎士もいるよ。そもそも、ネロ君は騎士団に所属するだけで騎士になるわけじゃないからね。訓練に参加する必要もないから、どこにいても問題はないよ。まあ、占いを期待しての入団だから、いつでもすぐに占ってもらえるように王都に来てくれた方がいいけどね」


「そうなんだ……。院長先生とも相談して決めるよ」


「強制はしないからよく考えて決めて。それから、騎士団所属にならなくても騎士が占いを頼みに来ることはあると思うから、その時は占ってあげてね」


僕個人としては、ネロ君が騎士団に入ろうが入るまいがどちらでも構わないので、クロウトから孤児院を救ったんだから言うことを聞け!なんて恩着せがましいことは言わない。


「それはもちろんです。騎士の方々には孤児院を守ってくれたこと感謝してます」


「よろしくね」


「今日は何も占わなくていいんですか?」

帰ろうとする僕にネロ君が尋ねる。


「占ってもらわないといけないことはないから今日は大丈夫だよ」

ネロ君にはこれまで色々と占ってもらったけど、これからは極力占いは頼まないようにしようと心に決めた。

ヨツバ達を殺す方法を色々と先に聞いてしまったことで、元々考えていた案で殺すことをやめてしまった。

結果としては止めて正解だったかもしれないけど、攻略本片手にゲームをしているような感覚になったからだ。


ネロ君は回数制限を設定し忘れた消費アイテムのようなものだ。頼りきりではゲームバランスが崩壊してしまう。


「必要な時は遠慮せずに言ってください」


「ありがとう。ああ、ネロ君に渡すものがあったのを忘れていたよ。もうすぐこの街にオアシスが出来るから、それの入場券。貸し切りになっている時以外ならいつでも入れるからね。孤児院の関係者なら誰でも使えて、他の人が盗んでも使えない安全仕様だよ」

サラボナさんに前もって話をして作ってもらっておいたカードをネロ君に渡す。


ネロ君の近くに来ることがあれば話しかけ、プレゼントをする。


神下さんの先輩の天使をどうにかして捕まえた後、以前の記憶を取り戻すのにネロ君には協力してもらわなければならない。

その時のために信頼関係を築いて、好感度を稼いでおく必要がある。


「ありがとう。水が自由に使えるようになるってことだよね?みんな喜ぶと思う」


「それじゃあ、またね」


手を振って孤児院を出た僕は、スカルタでやることも終えたので、魔法都市へとファストトラベルで移動する。


マーリンさんに作ってもらいたいものがあるけど、簡単には会えないようなので、まずはデイルさんに会うのを目標とするほうがいいだろうか。

もしかしたら、店に置いてあるのを見たことがないだけで、僕が作ってもらいたいと思っている魔導具が既にあるかもしれないし。


まずは魔導具を扱うカルム商会の系列店へと向かい、店主に話をしてみることにする。


「魔物を閉じ込めておけるような結界を張る魔導具と声を変える魔導具が欲しいのですけれど、そういった物は置いてありますか?」

デイルさんに会いたいではなく、まずは探している魔導具があるかどうか聞く。


「魔物用の檻でしたら倉庫の方に置いてあります。声を変えるといった魔導具は置いておりません」


「檻ではなく、結界を張る装置を探しています。そのような魔法を使う方がいますよね?それを魔導具で代用出来ないかと……」


「私の知る限りでは、そのようなものは見たことがありませんね」


「これらの魔導具は誰が作られているのですか?ここに置いてある魔道具はどれも素晴らしいので、その方であれば僕の欲しい魔導具も作れるのではないかと思うのですけれど……」


「作っているのは、支部長のマーリン様ですが、私が頼んでも会える方ではありません。どうしても必要なものだということであれば、副支部長のデイルさんに会われるのがよいかと思います」


「そのデイルさんという方にはどこに行けば会えますか?」


「支部に行けば会えるかもしれませんが、商業ギルドに行って会う約束をされるのが一般的です」


「ありがとうございます。行ってみます。それから、この魔道具をください」

オアシスに設置された魔道具の小さい版を購入する。

小さいといっても、抱えれば片手でギリギリ持てるくらいのサイズはある。


「お買い上げありがとうございます。大銀貨3枚と銀貨2枚になります」

やっぱり魔道具は高いなぁと思いながらお金を支払って店を出る。


魔導具はストレージへと仕舞い、カルム商会の魔法都市支部へ向かう。


「第1騎士団団長のクオンといいます。約束はしていませんが、副支部長のデイルさんに会いたいです。任務とは関係ない私用になりますので、お時間が空いているようであれば、お話しする時間をもらえないか聞いてもらえますでしょうか?」

フロントの女性に用件を伝える。


「かしこまりました。あちらに掛けてお待ちください」

確認はしてもらえるようだ。

マーリンさんがどういう人かは知らないけど、デイルさんは出来る商人!!という感じの人だった。

騎士団長の肩書きに釣られてくれれば会えるかもしれない。

無理なら大人しく商業ギルドで約束を取り付けるとしようかな。



「お会いになられるとのことですので、ご案内致します」

会ってくれるようだ。少し手間が省けたな。

フロントの女性に応接室に案内される。


「副支部長は只今他のお客様の対応をしていますので、終わるまでここでお待ちください」


「わかりました。案内ありがとうございました」


しばらく考え事をしながら待っていると、デイルさんが入ってきた。


「お久しぶりです。その節はご迷惑をお掛けしました。無事お仲間には会えましたでしょうか?」

デイルさんから、置き去りにされた時の話をされる。

僕のことを覚えていたようだ。

覚えていたというより、あの時の男が騎士団長になったという情報を得ているのだろう。


「おかげさまで、野宿させる前に合流することが出来ました」


「安心しました。それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」


「欲しい魔導具があるのですが、店には売っていなかったので、作ってはもらえないかと頼みに来ました。作れるかはわかりませんが、店の商品を見る限りでは可能ではないかと……」


「当商会で扱っている魔導具の内、新規の物は全て支部長が作っていますが、支部長は基本自身の作りたい物しか作りません。その上でお聞きしますが、頼みたいものというのはどのようなものになりますでしょうか?」


「自身の声を変える魔導具を作ってもらいたいです。ただ変えるのではなく、特定の人物そっくりにしたものが欲しいので、並の職人には頼めません」


「正直、支部長が心を動かすものではないと思います」


「僕もそう思います。なので、代わりの何かで心を掴みたいと思います。支部長は魔導具がお好きとのこと。お近づきの印に失われた技術で作られた魔道具をお譲りします」

僕は机の上に赤い球の付いた杖を置く。

これも僕が鍛治で作った『火の杖』だ。


「ふむ……。この杖が魔導具ですか?」

デイルさんが杖を手に取る。


「以前、ダンジョンの隠し部屋で拾いました。どのような仕組みかわかりませんが、魔力を込めると目の前に炎の壁が現れます。魔力で動くので魔導具だと思うのですが……」

カテゴリー的には魔導具ではなく武器だけど、この世界で魔力で動くものは総称して魔導具なので、これでいいだろう。


「炎を出す魔導具なら他にもありますが、一度試してみても構いませんか?」


「もちろんです。ただ、ここでは危ないので、周りに何も無いところに移動した方が良いかと思います。もちろん、ここが燃えても僕に被害はありませんので、ここで使ってもらっても構いませんよ」


「そうですね。地下に試験場がありますので、そちらで試させてもらいます」


デイルさんと一緒に地下に降りる。

試験場の横に工房らしき部屋があり、何人かが何かを作っているのが見えた。

1人女性がおり、鑑定するとその人がマーリンさんだった。


「それでは、試させてもらいます」

試験場に入ったデイルさんが火の杖を持って、魔力を込めるが、何も起きなかった。

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