第202話 オアシス②

あれからしばらく経ち、水の魔石を集め終わった僕は、オアシスを作るためにスカルタに来た。


ヨツバとイロハとはあれから会っていないけど、2人は神下さんとは変わらず会っているようで、神下さんを通して情報は得ている。


僕が3人でと言ったことを警戒しているのか、それとも戦力にならないからかはわからないけど、神下さんを依頼に誘うことはなく、ヨツバとイロハで簡単な依頼を受けて生活しているようだ。


2人は基本一緒に行動しているようなので、待っているだけでは行動に移せる時は来ないと思われる。

どこかで神下さんに協力してもらって、2人を別行動させないといけないな。



サラボナさんに声を掛けて、オアシス建設現場へと向かうと、大きな穴が3つ掘ってあり、それぞれ壁で囲われていた。


「なんで穴が3つあるんですか?それから、なんで壁を……?」


「目的別に三つ作ろうと思って。必要な水の魔石の量は同じだからいいわよね?思った以上に稼げそうだから、作業費用は全て私が負担することにするわ」


「サラボナさんがそれでいいなら、もちろん構いませんよ。僕も助かります。それで、その目的というのはなんですか?」


「水浴び場を作ろうと思ってね。男と女に分けるから2つと、水を汲んだりする普通のやつで三つに分けてある。後は、利用料を頂く為の出入り口を作るために壁で囲ってあるだけよ」

これだけ暑いのだから、利用料次第ではあるけど繁盛しそうだ。


「なるほど。人が殺到しそうですね」


「最初は利用料を高くして、人の出入りを制限するつもりよ。君のおかげではあるけど、これで王都の冒険者ギルドよりも稼ぐギルドになるわ。ヤバいことに首を突っ込んだ気はするけど……」


「何もヤバいことなんてないですよ。だから、それは忘れましょう。そんなことよりも、儲けはギルドのお金なんですか?僕はサラボナさん個人にお願いしたつもりでしたけど……?」

前回水の魔石を売った時とは違い、今回は冒険者ギルドの力は何も借りておらず、サラボナさんだからこそ出来たことに対する対価だ。

サラボナさんがギルドマスターではあるけど、その対価をギルドが持っていくのはおかしい。


「個人で大金を持っていてもいいことなんてないわよ?それに、これからこのオアシスはこの街にとって必要不可欠なものに変わっていくはずよ。今の領主様から悪い噂は聞かないけど、それが続く保証はないわ。その時に、個人で所有しているのとギルドが所有しているのでは危険度が違うわ。家族のね」

確かに、そう考えるとギルド所有とした方が賢いかもしれない。

サラボナさんがどれだけ強い元冒険者だとしても、四六時中家族を守れるわけではない。


「サラボナさんがそれでいいなら、僕が言うことはありませんよ。気になっただけです」


「一応言っておくけど、ギルドの収益の一部は私に入ってくるから、遊んで暮らせるだけのお金は入ってくるわよ。前に王都のギルドから借りたお金もすぐに返せるから、肩の荷が降りた気分ね」

ギルドが儲かれば、当然サラボナさんの懐も潤うようだ。


「それじゃあ約束の水の魔石です。多めに300個用意しましたので貰ってください」

サラボナさんに水の魔石の入った袋を渡す。


「……ありがとう。どうやって手に入れているのかは知らないけど、これだけ短期間に手に入るのであれば最初の時はかなりぼったくられていたってことかしら?」


「あれは、リスクを負うことへの対価です。今だから正直に話しますが、サラボナさんがいくら払ったとしても、同じ数の水の魔石を売るつもりでしたよ。あの時は金欠だったので、稼げる時に稼いでおこうというのが本音です」


「あの額で買ったことに後悔はないから別にいいのだけれど、ひどいわね」


「根に持たないでくださいね。……これですぐに水を貯めれるんですか?」


「水の魔石をあそこの魔導具にセットしたら準備は終わりね。水が溜まりきるまで時間はかかると思うけど、数日もすれば完成ね」

サラボナさんが一段高い所に設置してある魔導具を指差して説明する。


「それじゃあ、早速水を出しませんか?見てていいですよね?」


「構わないわよ」

サラボナさんと魔導具の所に移動する。

いくつかの魔導具が合わさって一つの魔導具になっているようだ。


「これはどういう仕組みなんですか?」

魔導具を見ながらサラボナさんに質問する。何か他のことにも利用出来そうだからだ。


「ここからでは見えないけど、筒が地下深くまで伸びてて、そこから龍脈を流れるエネルギーを吸い取っているのよ。それをこの魔導具が魔力に変換して、こっちの魔導具に貯め込んでいるわけ。魔導具の設置は結構前に終わっているから、もう満タンになっているわよ」

こっちが発電機で、こっちが蓄電器のようなものかな。


「こんな魔導具があるんですね」


「元々は錬金術師が使う魔導具で、龍脈からじゃなくて、空気中に漂っているエネルギーを魔力に変換してポーションなどを生成する時に使用しているの。これは今回のために大きいのを特注で作ってもらったものだから、普通のはもっと小さいわよ」

サラボナさんが手で大きさを表す。

小さいと言っても、持ち歩いて使うようなサイズではないようだ。


「便利そうなので欲しいんですけど、どこに行けば買えますか?」


「小さいサイズなら、この街の魔導具店にも置いてあるかもしれないわね。王都か魔法都市に行けばいくつか大きさも選べると思うわよ。これと同じものが欲しいのなら、魔法都市にいるカルム商会のマーリンさんに頼めば、作ってくれるかもしれないわね。気難しい人だから、たとえ会えたとしても作ってもらえるかはわからないけどね……」


「マーリンさんというのは、魔法都市の支部長ですか?恰幅のいい男性ですよね?」

名前的には男というより女の人のような気もするけど、魔法都市にいるカルム商会の魔導具職人と聞くと、支部長だと思う。

それに、空気中のエネルギーを魔力に変換するというのは、桜井君に渡した仮面と似たような効果の魔導具だ。

あの仮面は支部長が作ったと聞いている。


「マーリンさんはきれいな女の人よ。男と間違えたなんて言ったら、会えたとしても即追い出されるわね。恰幅のいい男の人っていうと、デイルさんのことだと思うけど、あの人は副支部長よ。実務はほとんどデイルさんが指示を出しているみたいだから、支部長と間違えるのも分からなくはないけどね」

 とても失礼な間違いをしていたようだ。


「マーリンさんに会うのは難しいですかね……?」


「難しいわね。私も冒険者時代にマーリンさんからの依頼を受けたのをキッカケに交流があるだけで、ギルドマスターだからこの魔導具を作ってもらえたわけじゃないからね。マーリンさんに気に入られるか、カルム商会の会長に紹介してもらうしかないわよ。どちらも関わりを持つことさえ難しいけどね……」


「マーリンさんに気に入られる何かコツはありますか?好きなものとか、興味を引くようなこと」


「魔導具を作るのが生き甲斐って感じの人だから、魔導具の材料でも渡せば喜ばれるとは思うけど、普通の物だとデイルさんを通して渡すことになると思うわ。デイルさんになら、カルム商会が運営する店の店主か、商業ギルドを介せば会えると思うわよ」


「ありがとうございます。チャレンジしてみます」


「それじゃあ話はここまでにして、水の魔石をセットするわね」


ジョボジョボジョボジョボ―――


サラボナさんが魔導具の真ん中にある円柱型の容器に水の魔石をジャラジャラと入れると、水の魔石が魔力に反応して水を生み出し、パイプを通って掘られた穴に流れていく。


水は地面に吸われていき、まだ溜まっていく様子は見られないが、しばらく経てば徐々に溜まっていくだろう。


「これで半永久的に水を生み出してくれるわけですね」


「魔導具を定期的にメンテナンスしないといけないけど、壊れない限りは水を生み出し続けてくれるわ」


「これで貸し借りはなしですね。サラボナさんに一つ聞きたいのですけど、あのスキルの割れ目に入ったらどうなるかわかりますか?」


「入ったことはないからわからないわね」

流石にサラボナさんもわからないか。

あの割れ目に入れば天使がいる位相に行けるのか、それとも弾かれて入れないのか。

入れる、入れないの前に、あのスキルに触れただけで消滅する可能性もあるな……。


流石に気軽に試せることではないか……。


「そうですか。それじゃあちゃんと借りを返したことを確認したので僕は帰ります」

サラボナさんに別れを言って、オアシス建設地から出る。


これでやらないといけないことも終わったし、レイハルトさんに団長の座を譲るタイミングになったけど、譲る前にマーリンさんに会えるかだけ確認しようかな。

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