第191話 side ヨツバ②

王都に到着した後、委員長が第10騎士団の団員の方に頼んで薬師さんを呼びに行ってくれたけど、薬師さんは見つからなかった。


クオンは狩谷君が薬師さんを殺したみたいたことを言っていたけど、クオンが殺していないという証拠はない。


クオンは元の世界に帰ると言い、よくいなくなる。

だから、ずっと一緒に行動しているようで、1人行動をしようと思えばいつでも出来る。


薬師さんが生きていたなら、クオンが帰りたい人を殺しているという私の考えに矛盾が発生するけど、そうでないなら、方法はわからないけど、クオンが薬師さんと別れてすぐに街に戻って殺したという可能性は残る。


クオンは誰かを殺す前に私に知らせてくれる。

私に気を使ってくれているというのもあると思うけど、あれはクオンが自身に掛けたルールだと思う。

だから、堀田君を殺した後に薬師さんをクオンが殺したということはないはずだ。


少なくとも、初めの頃、薬師さんは冒険者としてポーションを冒険者ギルドに売っていたはず。

いつ頃まで売りにきていたかギルドで聞けば、薬師さんがいつ死んだのかわかるかもしれない。


数日後、狩谷君が現れたという連絡を受けて委員長とクオンは調べ事を中断して禁書庫から出て行った。


多分、狩谷君がみんなを殺すか、クオンがみんなを殺すだろう。

そうなるだろうことがわかっている私は、複雑な心境で冒険者ギルドに向かい、薬師さんが最後にポーションを売りにきたのはいつか確認する。


薬師さんは友人で、行方がわからなくなっていると話したら渋々教えてくれた。

やはり、薬師さんは私達と別れてからすぐにギルドにポーションを売りにこなくなっている。


タイミング的にもクオンが薬師さんを殺したってことでいいかな。


宿屋に戻った私は、色葉ちゃんから桜井君がみんなの所に行っていることを聞く。

もしかしたら、桜井君もここで殺されることになるかもしれない。


そう思っていたけど、桜井君は殺されなかった。

平松さんも。


平松さんは桜井君がクオンからもらった杖で治したらしい。

桜井君は殺す予定に入っていないからクオンは殺さず、平松さんは桜井君がいることが想定外だったってことかな。


その後、クオンは狩谷君の口を封じて、魔法学院で犬飼君と宮橋君を処刑させた。

やはり死ぬことが重要であって、クオンが関わる必要はなさそうだ。


王都に戻ると桜井君と平松さんが行方知れずになっていた。

クオンに聞いたら、クオンは行ったことのある街には一瞬で移動出来るらしい。

薬師さんをどうやって殺したかの謎が解けた。


そして、クオンが次はえるちゃんを殺すと言った。

私はクオンにえるちゃんを殺すなら私も一緒に殺してほしいと頼む。


死んでも元の世界に帰るだけのはずだし、もし違うなら、えるちゃんにあわせる顔がない。


しかし、なぜかクオンには断られた。

しかも、自殺はダメだと言われる。


真実に近づいている気はするのに、まだ私には気付けていないことがあるらしい。


今度は、桜井君と平松さんを探すという名目でスカルタに向かう。


クオンが桜井君達を殺したのだから、他に理由があるはずだ。

ギルドマスターに用があると言っていたから、そっちが本当の目的だろう。


スカルタでみんなで占いをしてもらった翌日、もう一度占いをしてもらう。

クオンもだけど、委員長もあの子供の占い師のことを信じているようだ。

2人とも占いとかオカルトなことは信じなさそうなのに。実際、クオンは王都での占いは全く信じていなかった。


占いをしてもらったことで、私の仮定は間違っていなかったと確信が持てた。


翌日、クオンがえるちゃんを連れて帰ってきた。

クオンがスカルタに来た目的はえるちゃんだったみたいだ。


クオンは問い詰める委員長に適当な答えを返して、自室へと帰っていった。


クオンの部屋に行き、占ってもらったことを話すと、これだけ確実なものとなっているのに、クオンはまだ誤魔化した。


ここまでくると、言わないのではなく言えないのだろう。


王都に戻ってすぐにクオンはロンデル子爵という人のところに向かっていった。

初めて同行を拒否されたわけだけど、クオンが行くと言っていたあの湖は、クオンと出会った街の近くだった。

前に言っていたファストトラベルというやつで移動したいというのが本音だろう。

だから、現地集合ならと委員長に言ったのだと思う。


えるちゃんが部屋から出られないということもあり、私と色葉ちゃんも基本的には部屋にこもって過ごしていたら、委員長が訪ねてきた。


私に用があるとのことで、第10騎士団にある委員長の部屋で話をすることになった。


「率直に聞くわね。立花さんはクオンくんが隠していることの一部は知っているのよね。教えてもらえる?私も気付いてはいるけど、一応確認よ。話してくれるなら、他の話もしたい」

委員長はクオンに対して疑っていることを隠そうとしていないし、クオンがみんなを殺した犯人だとわかっているのだろう。


クオンからは口止めされているけど、私が話した場合、クオンは相手のことを見極める前に殺すという話だった。


死ねば帰れると気付いてしまった今、それには何も効力はないのではないかな。

既にここにいる人以外は死んでしまっているわけだし。


「……委員長も知ってるみたいだし、話すわ。クオンがみんなを殺している。私は鈴原さんを殺すところをたまたま目撃してしまったの」


「やっぱりそうなのね。クオンくんがなんで殺しているのかも聞いてる?」


「それは聞いてないよ。でも、死ねば元の世界に帰れるんだと思う。クオンはそれに気付いたからみんなを殺しているんだよ」


「そうじゃないかとは私も思うけど、なんでクオンくんが私達を殺さないのかがわからないのよね」


「クオンは元の世界に帰りたい人しか殺していないんだよ。あの占い師のネロくんも委員長が元の世界に帰るには騎士団を辞めることだって言ってたでしょ?多分騎士団を辞めたら委員長がこの世界に残る理由がなくなるから、クオンが殺してくれるんだよ」


「なんでクオンくんはそんな面倒なことをしているの?死んだら帰れることを私達に言えない何かはあるのかもしれないけど、だったら手当たり次第に殺せばいいことよね?」


「多分だけど、クオンは元の世界に帰りたいとは思っていないのよ。いつでも帰れる状況だから、特にそう思っているのかも。帰りたい!っていう強い気持ちがないから。だから、帰りたいと思ってない人を殺すのは、要らぬお節介とでも思っているんじゃないかな」


「死ねば帰れるって話には何か確証はある?私の得ている情報だと、可能性が高いくらいまでしか詰められないのよね。試しに死んでみるわけにもいかないし、占いでもクオンくんは悪だと言われたから、鵜呑みにするのもどうかと思って」

クオンは悪だといえばそうだろう。

今だって、占い師を助けるために、本当に悪いことをしているのかもわからない子爵を潰しに行っている。


「私はクオンが良いことをしていると占われたよ。それから私は死ぬと、懐かしい場所で生まれ変わるみたい。それと、私が生きているか占ってもらったら、生きているって結果と、まだ生まれていないって結果の二つが出たわ。私の体は二つあって、この体で死んだらもう一つの体を使って生き返るのだと思う」


「そうね。私もそう思うわ。それなら、クオンくんに殺してもらわなくても、みんなで自殺すればいいんじゃないかな?ちょうどクオンくんもいないし、何か企んでいたとしても、今なら止められないわ」


「前にクオンに次はえるちゃんを殺すと言われて、えるちゃんを殺すなら私も殺してほしいと言ったら、私は殺さないって言われたの。その時に、自殺はダメだって言われたよ。何か理由があるんだと思う」


「自殺だと元の世界に帰れないとか?あまりしっくりとこないけど、みんなで自殺するのはやめた方がいいかな。犬飼君と宮橋君は領主に処刑させたから、クオンくんが殺すことではなくて、死ぬことに意味があると思うのだけれど……。殺して欲しいと言っている立花さんを殺さないのもさっきの話と矛盾するし、困ったわね。私が立花さんを殺すというのも、マズいことになるのかな。クオンくんは誰かを殺す前に立花さんに教えているの?」


「……うん。元々はクオンを止めるつもりで、知らないところで殺されたら止めようがないって、すごいわがままなことを言ったら、誰かを殺す前に教えてくれることになったんだよ」


「止めようとしている相手にそれを言う立花さんもだけど、それを聞くクオンくんは相当ね」


「クオンはみんなを殺して元の世界に返すというゲームをしているんだよ。だから、ゲームの難易度が上がったくらいにしか考えてないんだと思う。クオンにとってこの世界はゲームで、私達は助けるために用意されたキャラクター。そう考えると委員長にもクオンの芯の部分がわかると思う」


「それを聞くと、クオンくんが悪だというのも納得出来るわ」


「委員長はこれからどうするの?」


「立花さんから聞いた話も踏まえて、もう少し考えをまとめるわ。あとは、死なずに帰る方法を見つけるつもり。さっきの立花さんの話だと、もう一つの体に命を移されて元の世界に帰るわけでしょ?それは少し……いえ、大分怖いわ。頭では理解しているつもりだけど、それって本当に私なのかな。私達がこの世界に連れてこられた理由もよくわかってないでしょ?クラスメイト同士で殺し合いをさせて、体を入れ替えるのが目的って可能性もゼロではないわ。立花さんは?どうするの?」

委員長が言うこともわからなくない。

でも、それで帰れるなら、私は迷わず帰りたい。


「クオンが考えてくれていると思うから、私も残りの限られた時間でこの世界を満喫しようと思ってるよ。下手に何かする方が結果が悪くなると思うから」


「クオンくんは大分信頼されているのね。また何かわかったら話すわね」


「うん。お願い」

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