第184話 問い詰められる

時間の止まった部屋で、神下さんに神と交わした約束を教える。


「それであの時私を殺してくれなかったの?」


「そうだね。それからもう一つ、ここまで知った神下さんを僕が殺すことは無理だから。どうやっても敵対なんて出来ない。死ねば帰れるから、身の丈に合わない依頼を受けるとかして、勝手に死んでもらえるかな」

さっきのことがセーフだった時点で、本当は神下さんを殺すことは問題ないと思っているけど、今後のために無理だと言っておく。

これで本当に死んだら、それはそれで別にいい。


「そうだね。わかった。でも死ぬのは怖いね。先輩が調整してくれるのを知っていても……」


「調整?何の話?」


「クオン君は知らないんだね。天界に私たちの体がもう一つあって、死んだらその体に魂を移して地球に送っているんだよ。その仕事を私は先輩の天使とやってたの」


「そんなカラクリだったんだね。遺体が残っている謎が解けたよ。言ったらダメなことは言わないように気を付けてね。神とは敵対したくないから」


「うん。私も敵対なんてしたくない。考えたくもない」

何か天界で酷い目にでもあったのだろうか……。


「それから一つ聞いておきたいんだけど、昨日の夜神下さんは何してた?」



知りたいことも聞き終わったところで、神下さんには木箱の中にしゃがんでもらい、時間の流れをもとに戻し、木箱から出て来てもらう。


「っ!えるちゃん!」

照れながら顔を出した神下さんを見て、イロハが声を上げる。


「ひ、ひさしぶり」


「それ、どうしたの?天使になったのは聞いてたけど……」

イロハが黒い羽を見て聞く。


「それは僕から説明するよ。さっきサラボナさんにスキルを見せてもらってたんだ。何のスキルかはサラボナさんが隠してるスキルだから話さないけど、そのスキルを使ってもらったら、偶然神下さんの姿が見えたから捕まえたんだよ。天使を堕天使にするスキルなんだけど、堕天したことで天使が住む位相には居られなくなったみたいだね。結果として、前みたいな時間制限なく滞在出来るようになったって訳」


「あれを偶然だってクオン君は説明するんだね」

委員長が言う。

後で2人で話す時間を作ると約束したけど、委員長はここで僕を詰める気なのかな?

僕としては、イロハとヨツバからの信頼は敵対する為にも失いたいところだから何も問題はないけど。


「神下さんの姿は見えないんだから何処にいるかもわからないし、偶然以外のなにものでもないよ」


「たまたまギルマスが切っ先を変えたところに神下さんがいて、たまたまクオン君は神下さんを堕天させるスキルを使えたって言うの?前にクオン君のスキルを聞いた時はそんなスキルのこと言ってなかったよね?」


「スキルは今度神下さんに会った時に使おうと思って前もって取得しておいたんだよ」


「そんなピンポイントなスキルがあるんだね。なんてスキルなの?」


「反魂ってスキルだよ。元々は魂を呼び戻すだけのスキルだと思われていたんだけど、魂の状態を反転させる効果もあったんだよね。あったというか、途中で実装されたといったほうが正しいかもしれないね」


「実装……?」


「委員長には僕のスキルのことを詳しくは話していなかったね。僕のスキルってこの世界がゲームみたいになるってやつなんだよ。僕のやっていたゲームはレベルが上がったりするとスキルポイントが手に入って、それを使ってスキルを取得する。だからこの世界でも、欲しいスキルを欲しい時に取得できるってわけなんだけど、ゲームで天使が敵として実装されて、その天使を倒す方法として発見されたのが反魂というスキルを天使に使うこと。使うと天使が堕天使に変わって攻撃が通るようになるんだ。だから、僕は神下さんに反魂のスキルを使って堕天させられたんだよね」


「……そうなのね。オンラインゲームって言うのよね。やったことないからあまりピンときてないけど、クオン君は死んだ人を蘇らせることも出来るってこと?反魂って死者を呼び戻すことよね?」


「出来るかもね。やったことないから、実際に出来るのかは知らないけど」


「それなら、みんなを助けることも出来たってことよね?」


「あの時は反魂のスキルは取得していなかったから使えなかったよ。取得すれば使えないことはなかったけど、死んだ人を生き返らせるつもりはないよ。今後もね。実際に生き返るかもわからないし、それは死者を冒涜しているとは思わない?人の域を逸脱しすぎると、あの神が何かしてくるかもしれないし……」


「クオン君の言い分はわかったわ」

言い分ね……。完全に犯人扱いだ。

このまま委員長がヨツバとイロハも巻き込んで徒党を組んでくれると楽なんだけどな。


「わかってくれて良かったよ。そういうわけで、神下さんと自由に話が出来るように捕まえたってことだよ。神下さんは元の世界に帰る方法を知っているみたいだからね。教えてくれる?」

僕を疑っていることを隠す気がなさそうな委員長との話は一旦終わりにして、神下さんに話を振る。


殺したら元の世界に帰れることを神下さんは言えないけど、本人が以前に委員長に帰る方法を知っていると言ってしまっているので、それに関しては自身の口から言い訳をしてもらわないと困る。


「ごめん。それを言うことは出来ないの。戻る時にも話したけど、天界で知ったことは話すことが出来ないから。私の協力をしてくれる人がまだ誰か特定出来てないけど、特定出来たら約束通りみんなが帰れるように努力するから」

神下さんは話せないということにした。

さっき天界のことを少し聞いているから、本当に何も話せないということはないだろう。

それよりも、神下さんは僕に協力するつもりだということだろうか。


「そっか。それなら無理に捕まえなくてもよかったかな。天使にも戻せると思うから、戻りたいなら言ってくれればいいから」

神下さんを捕まえたのは期待外れだったということにしておく。


「大丈夫だよ。天界に戻らないといけないことはないから」


「僕から説明しないといけないのはこれだけだから、後は神下さんから話を聞いてね。天界のことは話せないみたいだけど……。それから話は変わるけど、王都に帰った後、僕は当分不在になるって先に言っておくね。大量に水の魔石を集めないといけないから。他にやることもあるし、次回は僕1人で行ってくるよ」


「水の魔石って?」

委員長に聞かれる。


「魔力を流すと水が出てくる魔導具だよ。街に井戸が出来てたでしょ?あれもサラボナさんが水の魔石を使って維持しているみたいだよ」


「オアシスを作るとか言ってたけど、その為にってこと?」


「そうだね。オアシスが出来ればこの街も潤うだろうし、やっと騎士らしい仕事をすることになるよ」


「第1騎士団の仕事ではないと思うけどね。騎士団のというよりは、ここの貴族の仕事よ」

確かに委員長の言うとおり本来は貴族がやる仕事だろう。

今回は騎士の仕事と言っただけで、騎士だからやることじゃなくて、サラボナさんに出す交換条件としてやることだから、どちらでも関係はない。

功績を上げて、賞賛され、儲かるのはサラボナさんだ。


「理由はどうであれ、オアシスを作ることを交換条件にサラボナさんにはスキルを使ってもらったから、オアシスを作るのは確定事項だよ」


「それに関して口を出す気はないんだけど、1人で行かないといけない理由でもあるの?今までは一緒に行動していたんでしょ?桜井君は何故かいなくなってしまったけど」


「正直に言うなら、危険だからっていうことと、邪魔だからってことかな。1人ならスキルを使って早く移動出来るからね。委員長も行きたいなら現地集合でよろしく」


「……どこに何をしに行くかだけ聞いていい?」


「まずはここに行って、ロンデル子爵に喧嘩を売ってくるよ。その後はここに湖があるらしいから、そこまで行って水の魔石集めかな。ロンデル子爵に喧嘩を売る理由は個人的なことだから、みんなには何も関係ないよ」

地図を取り出して説明する。


「何で喧嘩を売るのか聞いてもいい?」


「人助けだよ。占い師のネロ君から、ロンデル子爵が孤児院にちょっかいを出しているかもしれないって聞いてね。お世話になったし助けてあげようかなって。今後もネロ君には占いを頼むかもしれないから、善意ではなく打算で助けるんだよ」


「……クオン君はあの子の占いをどこまで信じるの?矛盾していることも言ってたよね?」


「そんなの全て信じてるよ。確かに矛盾しているように聞こえるところはあったけど、信じるに値する結果をネロ君は示してくれていたと思うけどね。あれは、こちらの質問の仕方がよくなかっただけじゃないかな?委員長もそう思うから、もう一度占ってもらってきたんでしょ?」

さっき神下さんに委員長がネロ君にもう一度占ってもらっていたことは聞いている。

あの占いに確信を持った委員長なら、もう一度占ってもらいに行くと思っていたからだ。


占いの結果も聞いている。

予想外だったのは、委員長ではなくヨツバの方だけど……。


「よく知ってるわね。見られてたのかしら」


「本当に行ってたんだ。聞き方からして、行ったのかなって思って言ってみただけだよ。それじゃあ僕が説明することは説明したし、自分の部屋に戻るね。あ、それから、神下さんも一緒に王都に帰ることになると思うけど、騒ぎにならないように、また箱の中に入って移動してもらうからそのつもりでね」

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