第183話 side 委員長⑦

神下さんが現れてからしばらくして、任務でザングの街に滞在している時、団長から「クオンが来た」と連絡を受ける。ハルトという人も一緒のようだ。

ハルトというのは桜井君のことだろうか?


以前に頼んだ通り、私はいないと団長は答えてくれた。


しかし、夜になって斉藤くんがやってきた。

ゴンズさんの姿で。


違和感を感じてカマをかけたら、悪びれることもなく白状した。


そして、情報を交換した後、斉藤君は帰っていった。

この時は神下さんの言うことを破るのも悪くない選択だと思っていた。

そのせいでみんなが死ぬなんて思わなかった。


その後、神下さんから狩谷君のことを聞き、クラスメイトを殺しているという狩谷君のことを警戒していたのに、皆殺されてしまった。


そして、当の狩谷君は斉藤君によってあっさりと始末された。


斉藤君の強さは異常だ。

不意打ちとはいえ、皆の護衛をしていた騎士を一撃で気絶させ、無傷で桜井君と平松さん以外を皆殺しにした狩谷君を、赤子の手を捻るかのように殺した。

2人の間にそれだけの力量差があった。

もう少し時間があれば、狩谷君をトレースして力を探ることも出来たのに、それはもう叶わない。


……斉藤君は確かに強い。

どんな手を使ったのか知らないけど、第1騎士団の団長になって、団員から少なくはない支持を得ている程には強い。

しかし、それにしても力量差がありすぎる。


狩谷君は本当にそれ程の強者だったのだろうか……。

初めに捕まえた時には、騎士見習いになれるかどうかの強さだったと聞いている。


本当に皆を殺したのは狩谷君なのかな?

斉藤君がゴンズさんの姿になっていたのは知っている。

つまり、斉藤君は狩谷君の姿になって皆を殺すことも出来るということだ。

それがバレないように斉藤君は狩谷君を始末した。

そう考えた方が自然だ。神下さんに言われていたことでもある。


斉藤君があの時、私の横にいたことを除けば……。


斉藤君がやったとして、果たして可能なのか考えてみた方がよさそうね。


魔法都市に行く途中、斉藤君に直接聞いてみることにする。

斉藤君はこの世界をゲームか何かのように楽しんでいる。

どれだけ疑って核心を突いても、少しでも逃げ道があるうちは強行には出ないだろうとたかを括ってだ。

焦って手を出せば、それは斉藤君の中では敗北となるだろう。


斉藤くんは意外にも色々と教えてくれた。

ただ本人も言う通り、斉藤君が本当のことを言っているという確証はなにもない。


やはり、斉藤君より立花さんから情報を得た方がいいかな……。

明らかに何か斉藤君の秘密を知っているから。

でも話してくれる気はなさそうなんだよね。


魔法都市から王都に戻ると、今度は桜井君と平松さんが行方不明になっていた。


狩谷君はもうおらず、斉藤君は私と一緒に魔法都市に行っていた。

これはまた別件なのかなと思ったけど、中貝さんは慌てているのに対して、立花さんは悩んでいる様子だ。


もしかして、2人がいなくなることを立花さんは知っていた……?


その後、ロゼさんを連れてスカルタに行くことになった。

斉藤君はロゼさんを熱心に教育している。

私がいつまでも騎士団から抜けられないのを気にしているようだ。

なぜ斉藤君がそんなことを気にしているのだろうか。

騎士団を辞めたところで帰還方法は見つかっていないので、まだ何も焦ることはないはずなのに……。


スカルタで歳の近い子供、ネロくんに占いをしてもらう。

なんでも必ず的中するらしい。


半信半疑で聞いていると、途中からおかしなことを何度も言い出した。

矛盾しているとしか思えないけど、こちらの都合の良い事ばかり言って機嫌を取るような相手には見えない。

それに、全てを信じるならそれはそれで興味深い内容でもある。

特に元の世界に帰る方法の中に騎士団を辞めることがあったことは聞き流すことは出来ない。

最近の斉藤君の行動と直結するからだ。


私はいもしない弟のことを占ってもらうことにする。

すると、弟がいないということだけでなく妹がいることまで言い当てた。

……的中率100パーセントというのは信じても良さそうだ。


翌日、私は一人でもう一度占いをしてもらいに酒場にやってきた。

酒場の前でとても機嫌が良さそうな立花さんとすれ違ったけど、もしかして立花さんも何か占ってもらっていたのだろうか。

もう少し早く来ていれば、内容を盗み聞きすることが出来たかも知れない。


私がネロ君に占ってもらったのは二つ。

一つは斉藤君がクラスの皆を殺したのか。

間違いがないように桜井君を殺したのが斉藤君かも聞いておく。

もう一つは斉藤君が悪なのかどうか。

斉藤君はクオンと偽名を使っているので、斉藤という名を出して聞けば、この世界での斉藤君の評判は保たれるだろう。


占いの結果は、私の予想とは少し違うものだった。

やはり、皆を殺したのは斉藤君だった。


しかし、私は斉藤君が悪ではないと思っていた。私が知らないだけで何か理由があるのだと。

しかし、占いの結果、斉藤君は悪だった。


私は銀貨3枚払う。

斉藤君のように金貨を払いたい気持ちではいるけど、そんなにお金の余裕はない。


さらに翌日、占い結果のこともあり斉藤君を観察していると、この街の冒険者ギルドのマスターと街の外に行くようなので無理矢理同行する。


斉藤君はギルマスのスキルを見せてもらいに行くようだ。

その対価としてあの街にオアシスを作るらしい。

意味がわからない。そもそも、オアシスというのは人が作れるものなのだろうか?


街から離れたところで、ギルマスが剣を振りかぶり、下ろす瞬間に方向を斉藤君のいる方に変えた。


え……?殺した?


激しい音が鳴り、黒いモヤがかかる。

モヤの中に誰かいる?ここからだとよく見えない……。


斉藤君の姿は見える。

斬撃は当たっていなかったようだ。


少ししてモヤが晴れる。

そこにはなぜか黒い羽を生やした神下さんがいた。


斉藤君はこの為にギルマスにスキルを使わせた……?

説明を求めるギルマスを斉藤君は帰らせて、私達だけ砂漠の真ん中に残される。


私の同行を許可したのは、ここで私を殺すから?

私は死を覚悟しながらも平静を装う。


心配とは裏腹に私が殺されることはなく、そのまま街に帰ることになった。

斉藤君が神下さんに天界のことを聞いた瞬間、急に斉藤君と神下さんがブレた気がした。

表情も急に変わったように見える。


この感覚には覚えがある。

斉藤君がみんなを殺したあの時と一緒だ。


神下さんも向こう側ということだろうか。


とりあえず、斉藤君は私と2人で話をする時間を作ると言っていた。

真意を見極めなければ……。

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