第175話 原因
「今回、ロゼさんを騙すようなやり方で試したのは、ロゼさんが指揮官に向いているのか心配だったからです。先日ロゼさんと話していて、覚悟が足りていないと思いました」
「……はい」
「ただ、実際にロゼさんが指示を出す所を確認して、覚悟が足りていないと感じたのは僕の誤りだったと反省してます。僕の予想では、ミズチが情報と違っていた時、ケルトさんが負傷した時、僕が意識を失った時などに、ロゼさんは指示を出せない、又は、判断を他の人に仰ぐと思っていました」
「……ありがとうございます」
「エドガードさんに聞きたいんだけど、エドガードさんを囮にしたことについて、ロゼさんはエドガードさんの死を一生背負っていくつもりだったらしいんだ。そのあたり当事者としてどう思う?」
「お心は嬉しく思いますが、騎士としての誇りをもった死に方であれば、死ぬように命令した者を恨むことはありません。背負う必要はないです。もちろん死にたいわけではありませんが、それも覚悟の上です」
エドガードさんが答える。
これで恨むような人は、そもそもあの命令を聞かないから、こういった答えが返ってくるとは思っていた。
「ありがとう」
「私は向こうに戻ります。何かあれば呼んでください」
「お酒は足りてる?足りなくなったら遠慮なく言ってくれていいから。ケルトさんとルイスさんにも伝えといて下さい」
「なくなりましたら遠慮なくもらいにきます」
エドガードさんが肉を食べに戻る。
「聞いてたと思うけど、エドガードさんは背負う必要はないって言ってたね。その上でもう一度聞くけど、ロゼさんは自分の命令で死なせた人を一生背負うつもり?」
「はい。私が指示した人がどう思っていようとも、私の命令で死なせたのですから、それは私の責務です」
考えは変わってないか。
「ロゼさんの為に正直に言わせてもらうけど、ロゼさんは指揮官を続けることは出来ないと思う。後悔する前に諦めるか、考えを改めたほうがいいと思うよ」
「……何故ですか?先程の指揮も悪くはない評価をしてくれたのに。経験不足で、まだ参謀には遠く及ばないのも自覚してますが、納得出来ません」
ロゼさんが俯きながら言った。
「誤解しているようだから言うけど、僕はロゼさんの指揮能力に対して言っているわけじゃないから。指揮能力だけで考えるなら、僕がとやかく言うことは何もない」
「それじゃあ、何が不満なんですか?」
「不満はないよ。心配をしているだけ」
「何を心配されているのかわかりません」
「ロゼさんはきっと、自分が死なせた人への罪の意識に耐えられなくなる」
「覚悟はしてます」
「その覚悟は何人まで耐えられる?それに、自分が明らかに間違った指示をしてしまって死なせた場合も耐えられるかな?そもそも、ロゼさんは指揮官をやりたくて騎士団に入ったわけじゃないよね?」
「……何があってもやりきります。それに、元は違っても、今は参謀のようになりたいと本気で思ってます」
「今のままでは無理だよ。まず、誰しも罪の意識を背負い続けることは出来ない。何かしらの折り合いをつけて前を向かなければ押し潰されて心が病む。持ち堪えたとしても、犠牲を出さないように無意識にセーブが掛かるようになると思う。そうなったら、もう的確な指示なんて出せない」
「クオンさんの言っていることはわかりました。私にはそれだけの精神力がないということですね」
「これはロゼさんに限らずの話だよ」
「何か方法はないんですか?私は背負う覚悟をするからこそ、全体のために死ぬ指示を出せるんです。何も思わず冷徹に死ぬように言うことなんて出来る気がしません」
「一つだけあるとすれば、誰も死なせないこと。死なせなければ誰も背負う必要はない」
「それは……言っていることが矛盾していると思います」
「そうだね。でも、僕はこの枠組みの中から外れた2人を知っているよ。ロゼさんの参考にはならないと思うけどね」
「教えて下さい」
「まず、レイハルト副団長。第1騎士団で指揮をしているのはレイハルトさんなんだけど、レイハルトさんは自身も最前線に立って指揮もしている。前にレイハルトさんと話していて知ったことだけど、レイハルトさんは自身よりも団員が危険な位置にならないように采配して指揮をしている。つまり、自分の指揮によって犠牲を出したとしても、その時には自分も死んでいる可能性が高いということだね。エドガードさんは、レイハルトさんが団員に死ぬように指示しているのは聞いたことないって言ってたよ」
「それは……」
「わかってるよ。これはレイハルトさんの圧倒的な力があるからこそ出来ることで、ロゼさんが真似できるかといえば無理だと思う」
「はい…」
「それから、もう1人はアリオス兵長。元団長だね。詳しくは語らないけど、アリオス兵長は騎士団に所属している時に悩みを抱えていた。その悩みから騎士団を離れることで解放され、別の形で騎士の誇りは捨てずに人の為に力を振るっている。勘違いしないでもらいたいのは、アリオスさんは逃げたわけじゃない。自分の本来の居場所を見つけただけ」
「私も騎士団を辞めた方がいいと、そう言っているんですか?」
「そんなことは言ってないよ。そういう考え方もあるというだけ。初めにロゼさんには参考にならないと思うって言ったでしょ?ただ、ロゼさんが指揮官になるのであれば、背負いきれなくなった時に、他にロゼさんが活躍できる道があるってことは覚えてて欲しいと思ったから口を出させてもらったよ」
「…はい」
「辛気臭い話は次で最後にするつもりだけど、ロゼさんは自己評価が低いと思う。さっき自分に点数を付けた時もそうだし、先日、短弓は使えないと言った時もそう感じた。その自信の無さは団員の士気に関わるよ?それと、委員長と自分を比べるのはやめた方がいいよ。僕もだけど、周りは当然比べる。でも、ロゼさん自身は比べない方がいい。僕は昔のロゼさんを知らないから的外れなことを言ってるかもしれないけど、そのマイナス思考は委員長が原因じゃないかなって思ってしまうんだよね」
「……確かにそうかもしれません。心配して頂いていることにも嬉しく思います。でも、参謀と同じ役割を求められているわけなので、参謀のようになるために、何が自分に足りないか知るためにも参謀と比べる必要はあるんです」
「最終的に決めるのはロゼさんだからこれ以上は何も言わないよ。頑張ってね」
アルマロスさんがどこまでロゼさんに期待しているかわからないけど、これは、委員長は当分帰れないな。
ロゼさん自身が真面目で良い人だというのがタチが悪い。
「あの、なんでクオンさんがここまでやってくれたんですか?参謀の友人というのは知っていますが、第1騎士団の団長様が私にここまでしてくれる理由がわかりません」
ロゼさんに答えにくい質問をされる。
正直に答えるなら、このままだといつまで経っても委員長が騎士団を辞められず、殺すことが出来ないからだけど、そんなことをロゼさんに言うわけにはいかないし、これはロゼさんには関係ない話だ。
別に委員長が騎士団を辞めないと殺せないわけではないけど、委員長は騎士団で役目を終えるまでは帰る予定ではないみたいだし、それでも殺すのは当初に決めたルールに反する。
「知ってるかもしれないけど、委員長は別に騎士になりたかったわけじゃないんだよ。目的の為に騎士になって、目的を達成させてもらった対価として今は騎士団に残っている。だから、委員長が早く騎士団を辞められるようにロゼさんにお節介を焼いたわけだよ。だから特にロゼさんに対しての深い理由はないよ」
「そうでしたか。参謀の為にも早く一人前になれるようにします」
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