第176話 オアシス
真面目な話をした後は、ロゼさんにもバーベキューを楽しんでもらってから街に戻り、当初の目的であるスカルタに向かった。
その道中、委員長にはロゼさんを試した訓練の結果を伝えた。
心配していた精神力の話もして、心配がなくなったわけではないけど、ロゼさん自身の決意は固いようなので、忠告だけしてあると伝えてある。
委員長のせいでロゼさんの自信が喪失していっているという話はしていない。
それを話した結果、委員長が手を抜いたとしても、誰にとってもプラスにならないからだ。
「あれ、なんだろうね?」
スカルタに着いたところで、イロハが指を指す。
そこには人が集まっていた。
騒ぎがあったという様子ではなく、行列をつくっているようだ。
「井戸から水を汲んでいるみたいだね」
望遠のスキルで確認すると、行列の先に井戸が見えた。
前来た時には井戸なんてなかったはずだ。
水脈を掘り当てたのだろうか?
そうなると、サラボナさんの借金は大丈夫かな。
「井戸の件も気になるので、僕は冒険者ギルドに行ってきます。みんなは宿の手配をお願いします。その後は自由行動としますが、急な予定の変更もあるかもしれませんので、夕食は一緒にとります。冒険者ギルドの前に集合です」
「「「はっ!」」」
エドガードさん達が返事をする。
自由時間という話を聞いて、嬉しそうな表情に見える。
「クオンです。ギルドマスターに会いたいんですが、時間が空いているか確認してもらってもいいですか?」
みんなと別れて1人で冒険者ギルドにやってきて、受付でサラボナさんを呼んでもらう。
「確認してまいりますので、そのまま掛けてお待ちください」
「こちらへどうぞ」
すぐに受付嬢が戻ってきて、応接室に通される。
「お久しぶりです。外に井戸が出来てましたけど、水の販売は大丈夫ですか?」
サラボナさんも入ってきたところで、先程の井戸について確認する。
「もう見たのね。おかげで結構な儲けが出ているわ」
「サラボナさんが作ったんですか?」
「そうよ。私がじゃなくて、ギルドがだけどね」
「どこか他の所と井戸を繋げていて、そこで職員が水を精製しているんですか?」
「違うわよ。龍脈の力を利用して、水の魔石が水を沸き出し続けるようになっているの」
「龍脈ですか?」
なんとなく意味合いはわかるが……。
「龍脈というのは、大地に流れる魔力のことよ。水のないこの街が栄えている理由でもあって、スカルタの街の下には太い龍脈が通っているそうよ。その力を利用してこの街は発展してきたらしいわ。その龍脈に少し細工をして、魔力を水の魔石に流しているわけ」
「そんな素晴らしいものがあるんですね。それなら、魔力を注ぐ人件費も掛からず、ボロ儲け出来ますね。作ってしまえば、後の費用は井戸で水を売る人だけですか」
こうする予定だったから、大金を借りることに躊躇がなかったわけか。
「そうね。前もって水と交換出来る木札をギルド内で売っているから大金を扱う必要もないし、必要最低限の人数を雇うだけで済んでいるわ」
「借金は無事返済出来そうですね」
「そうね。予定よりも大分順調で、このペースなら数年もすれば元が取れるわ。その後も売れるだろうから、大分潤うわね。それで、今日はそれを確認する為に?あの後、第1騎士団の団長になったと知って驚いたわよ。Cランクの昇格試験を受けてたとは思えない躍進ぶりね」
「色々とあって、騎士団長になる覚悟をしただけです。今日はサラボナさんにお願いがあってきました。サラボナさんにスキルを使ってもらいたいんです」
「どのスキルのことを言っているのかによる。君に見せたことがあるのは、試験の時に使った身体強化系のスキルと影移動のスキルだけだったはずだ。その2つであれば構わないが……」
サラボナさんの表情が真剣なものに変わる。
「どのようなスキルか詳しくは知りませんが、サラボナさんが習得しているスキルの中で1番ヤバそうな名称のやつです」
「あのスキルのことはエアリア達しか知らないはずだ。何故知っている?それとも、他のスキルのことを言っているのか?」
「次元斬というスキルのことを言ってます。何故知っているかは、影移動のスキルを知っていた理由と同じですが、話すつもりはありません。もちろん、他の人に言ったりはしてませんよ」
「影移動は知っている者も少ないがいる。しかし、あのスキルは違う。…………もしかして、神眼の持ち主か?」
「神眼?」
話の流れからすると、なんでも見通す目でもあるのだろうか?
「知らないなら忘れてくれて構わない。神話の話で空想の話だ」
「そうですか。それで、次元斬のスキルを使ってはくれませんか?」
気にはなるが、今はこっちの話を優先しないといけない。
神眼については、また今度調べてみよう。
「あのスキルは危険すぎる。何の為に使わせたいのか知らないが、あのスキルは使わないと決めている。諦めてくれ」
「どうしてもですか?」
「どうしてもだ」
困ったな。決意は固そうだ。
うーん、何かいい説得の方法はないかな……。
「……水の魔石の追加は要りませんか?」
サラボナさんの欲しいものなんて他に知らないし、考えつくのはこれしかない。
「もちろんあるに越したことはないが、それでもあのスキルを使うつもりはない」
「あと2つだけ言わせて下さい。それでもダメなら一旦諦めて今日は帰ります」
「……聞くだけ聞こうか」
「僕はサラボナさんが困っている時に手を貸しました。Aランク指定の魔物が闊歩する遺跡に行った時の話です。次はサラボナさんが僕を助けてくれる番ではないですか?」
これで首を縦に振ってはくれないだろうが、交渉材料の一つとして情に訴えてみる。
「その件には深く感謝している。君以外の冒険者を行かせていたら死なせていたかもしれない。しかし、正規の報酬は支払っている。恩は感じているが、借りは作っていない」
大人な返答だ。
冷たいともとれるが、何も間違ったことは言っていない。
ギルドマスターという立場であることを考えても、当然の返答だ。
「そうですね。言ってみただけです。もう1つですが、サラボナさんがスキルを使ってくれるなら、僕はこの街にオアシスを作ります。先程あった龍脈に関してはお手を借りますが、他に関しては僕の私財を使って作ります。他にサラボナさんの心を動かすことを僕が出来るかもしれませんが、思いつくのは結局これだけです」
「オアシスか……。それは心惹かれるが、非現実的過ぎる。あの井戸を作るだけでも、水の魔石を8個も使っている。大量に手に入らないからこそ、以前私と魔道具で契約したのだろう?」
少し食い付いたか?
「それなら、先にオアシスを実現するという条件でどうですか?実現しなかった場合はスキルを使ってくれとは言いません。それから、その為に集めた水の魔石はそのままサラボナさんにプレゼントします」
「………………少し考えさせて欲しい。何の為に使わせたいのか聞いてもいいだろうか?」
「それはまだ言えません。ただ、悪いことではないとだけ約束します」
「……いつまでこの街に滞在する予定だ?」
「すぐに帰らないといけない予定はないですね。騎士を連れてきていますので、オアシスを作るなら一度戻ることになると思いますが」
「それなら、2日後までに答えを決めておくことにする」
「良い返事を期待してます。それから、別件でもう一つ。この街に魔法学院を卒院した的中率100パーセントの占い師がいると聞いたんですが、どこに店があるのか教えてもらえませんか?」
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