第167話 失踪
魔導具店で気になる魔導具を買った後、宿屋に戻り日本に帰る。
桜井君が訪ねて来ているかもしれないと思ったからだ。
昨日の夜に死んでいるから、今までと同じならもうこっちの世界には戻ってきているはずだ。
パソコンを点けて記事を見るけど、まだ桜井君が戻ってきたことは書かれていない。
犬飼君と宮橋君の事は書かれているので、領主はちゃんと処刑したようだ。
桜井君のことは書かれていないので、まだ僕の方から会いに行くことは出来ない。
それに、前に刑事に聞かれた時に桜井君の名前は出していないので、会いに行くなら何か理由を付けなければならない。
なので、話をするなら桜井君の方から来て欲しい。
最近は誰も僕に会いに来てなかったから、桜井君が来るくらいなら問題ないだろう。
刑事に言われてからパッタリと会いに来なくなっているのもどうにかしないといけないと思っていたし、今は会いに来て欲しいまである。
桜井君の性格からして、家から出られない理由でもない限り来ると思っている。
なので、ネットサーフィンをして情報を集めつつ、桜井君が来るのを待つ。
関係ありそうな記事を読んでいて、僕は一つの記事が気になった。
留置場から逃げ出した少年Aが捕まったという記事だ。
少年Aには同年代の少年・少女を殺害した容疑が掛かっており、身柄拘束後に留置場に勾留されている際に逃げ出したらしい。
記事には逃走を許した警察に対する批判的な内容が書かれているけど、あの神が言うには実際には発生していない事件なので、辻褄を合わせる為に書かれているだけで、これで警察に対する不信感が高まるとかそういったことにはならないのだろうと思う。
多分これは狩谷君の事だと思う。
ということは、やっぱり狩谷君はおかしな妄想に囚われてみんなを殺していたということだ。
狩谷君のことはわかったけど、桜井君は全然来てくれない。
相手の認識としても僕が殺した相手は、僕を訪ねて来るのに……。
そうじゃなかったとしても、桜井君とはしばらく旅を共にしていたから来ると思ったんだけどなぁ。
夜になっても来ないので、僕は諦めることにする。
明日以降に来たとしても僕は馬車で移動中なので、夜くらいしか帰って来れない。
訪ねてきたなら母さんが教えてくれるだろうから、時間がある時にこっちから行くことにしよう。
訪ねてきたなら、僕が会いに行ってもおかしくないからね。
翌日、王都に向けて出発する。
レイハルトさんが結果に満足していなければ帰りもザングに寄る予定だったけど、今出来る事はやり切ったということなので、遠回りはせずに最短距離で帰る。
「今日は帰って休むけど、明日から委員長はどうする?」
王都に着いたあと、委員長と分かれる前に確認する。
委員長1人では禁書庫に入れないからだ。
「やることが溜まってると思うから、片付いたらお願いするわ」
「わかった。また連絡して」
「僕は騎士団に寄ってから帰るよ」
レイハルトさんと今後のことを話さないといけないので、ヨツバとイロハともここで別れる。
騎士達と第1騎士団の本部に戻り、団長室でレイハルトさんと話をする。
「団長の座ですがどうしますか?レイハルトさんは一撃当てても団長は僕のままだと言っていましたけど、レイハルトさん自身が団長になってもいいと思えたなら、僕は騎士団を辞めても構いませんよ。禁書庫に入れなくなるので、調べ物がしたい時だけお願いしに来ることはあると思いますけど……」
狩谷君の存在があったから、委員長の所に集まった人達を殺す時に、団長の権力を使って第10騎士団の騎士を関らせないようにする必要はなかった。
騎士団長の座にいたい理由は禁書庫だけで、それもレイハルトさんが団長になり、僕を入れてくれればいいだけなので、僕が団長でいる理由はなくなった。
レイハルトさんが団長になるのはアリオスさんも願っていることだ。
レイハルトさんを団長にしたいから僕を団長に推薦したということはわかっているので、アリオスさんに恩を返す為にも、レイハルトさんが団長になりたいのに僕が居座るということはしたくない。
「一度団長になった者が短期間で辞める意味を分かっているのか?」
「無能の烙印を押されるだけですよね?別に構いませんよ。結果が全てです。実際にアリオスさんに一撃当てたから団長にしてもいいとレイハルトさんから認められただけで、団長の仕事はしてませんからね。団長の器ではなかった。これだけです」
「本当にそれでいいのか?」
「いいですよ。僕としてはレイハルトさんが団長になる気があるのかどうかだけです。まだなる気がないなら僕が団長の椅子に座っておきますし、団長になる気になったなら譲ります」
「……もう少し待ってくれ。以前と違い団長の椅子に座ることに抵抗はない。ただ、それとは別に団長の下でもう少し勉強させてもらいたい」
「わかりました。僕から学ぶことなんてほとんどないと思いますけど、レイハルトさんがそうしたいならもうしばらくは僕が団長の椅子に座っておきます。でも、いつまでも続けるつもりのない人間が居座っているのもよくないので、後数ヶ月くらいにしましょう」
「……そうだな」
「それじゃあ僕は帰ります。何か僕にやって欲しいことがあれば、今まで通りでお願いします」
「承知した」
団長の方針は決まったので、寮に帰る。
「こちらの方達が団長にご用があるそうです」
寮の前にはヨツバとイロハがいた。
「知り合いだから通していいよ」
「はっ!」
「とりあえず中に入ろうか」
僕は2人を自室に入れる。
「それでどうしたの?」
「桜井君と平松さんが宿にいないの。ずっと戻ってないみたいで、今は他の人が借りてたよ」
イロハが言う。
「何かあって宿を変えたのかな……。冒険者ギルドには行ってみた?何かあったらギルドに伝言を残すことになってたよね?」
「行ったんだけど、何も伝言は預かってないって言われたよ。伝言を残した相手にしか教える事は出来ないみたいだから、クオン君も聞きに行ってくれる?」
「わかったよ。今から行ってくるから2人は部屋で待ってて」
2人を部屋に残してギルドへと向かう。
「クオンさんですね。ハルトさんからお手紙を預かっています」
行かないと不自然だから来ただけなのに、手紙があると言われた。
「ありがとうございます。内密な手紙になります。僕が手紙を受け取った事は漏らさないようにお願いします」
「かしこまりました」
手紙を受け取り、寮に戻る前に中身を確認して僕は驚く。
僕は手紙をストレージに仕舞い、寮に戻る。
「僕にも何も伝言はなかったよ」
「……そうだよね。どこに行っちゃったのかな?クオン君に心当たりはない?」
「僕も2人と同じで王都を離れていたからね。桜井君だけなら依頼を受けにいって魔物にやられたとかって可能性はあるけど、平松さんもいないってなるとわからないね。荷物とかは宿に残ってたの?」
「片付けられてたみたいだよ。それもあって、宿のおじさんは部屋を他の人に貸したみたい」
「そうなると自分の意思で宿を出たってことになるね。何か手掛かりがないと探すのは難しいかな。とりあえず明日、他の宿に泊まってないか確認しようか。委員長が何か知ってるかもしれないし」
「うん」
2人と明日の約束をして帰らせた後、僕は桜井君の家に向かう。
桜井君が僕に会いに来ない理由はわかったけど、流石に無視は出来ないな。
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