第166話 制約

桜井君と平松さんを殺した翌日、何か面白い魔導具が増えてないかなと、カルム商会の魔導具店に向かっている最中、近道しようと路地裏に入ったところで神下さんが現れた。


「久しぶり」


「久しぶりだね。また何か用でもあるの?」

何の用かは予想は付くけど、違う用ならいいなと思う。


「私の探している人ってクオン君なんじゃないかなって思うんだけど、違う?」


「……僕にはわからないけど、そうだとしたら僕に何をして欲しいのかな?」

やっぱり。僕が探している人だとは言えなくされているので、分からないと言いつつ、話を進める。


「……死にたいから殺して欲しい。死にたくても私は普通の方法では死ねないから」

やっぱり用件はこれだよね。


「……残念だけど、僕には今の神下さんを殺すことは出来ないよ。それに殺さないといけない人は殺したし、ここからはこの世界を楽しむことに時間を使うつもりなんだ」

僕は殺す意思があることを伝えて、敵対しないといけない。

だから堀田君を挑発したり、殺人鬼の認識をされている狩谷君の姿を借りたりしているのだ。


「え?」


「もう少し僕のことも考えて言って欲しいな」

僕に殺して欲しいなら、少なくともフリでもいいから敵対してくれないと困る。

殺してと言われたところで殺すことは出来ない。


「私を殺せるのはクオン君かいろはちゃんのどちらかだと思うの。クオン君はいろはちゃんが私を殺せると思う?」


「天使を殺せるかどうかでしょ?無理じゃないかな。ゲームで天使を殺せるアイテムは知ってるけど、イロハは加工品は買えないからね」

イロハには無理だろう。

僕からではなく、他から情報を手に入れれば可能性はあるけど、加工されていない状態でしか買えないので厳しいだろう。


「それならやっぱりクオン君だと思うよ。他の人には無理だと思うから。クオン君が気づいてないだけで天使を殺す方法とかないの?」

気付いてないどころか、スキルもその為だけに取得してある。

足りてないのは、どうやって殺したら帰れる事を知っている人と敵対するかということだ。


似た理由でヨツバを殺すのもどうやろうかと迷っている。


「そんなこと言われても困るよ。そもそも僕は何も考えずに無条件で殺しているわけでもないし」


「元の世界に帰りたい人を殺してるんでしょ?」


「何を言ってるのかわからないけど、僕にも予定ってものがあるから、死にたいから殺してっていきなり現れても無理だよ。もう一度言うけど、僕の都合も考えて」

神との話を言うことは出来ないから、僕の行動を考えて、僕に殺されたいなら何をやらないといけないのか考えて欲しい。


「何の都合が悪いの?私を殺したくないってこと?」


「神下さんはなんで誰も殺さなかったの?」

明らかに自分を探している人でない人は、神下さんが殺して元の世界に帰してもよかったはずだ。


宮橋君と犬飼君とかどうせ碌な扱いをされてたりしないんだから、真実を知ってるなら一思いに殺してやるべきだ。

2人と僕が戦っているのを見ていたなら、あの2人のスキルが何かもわかっただろう。


それでも殺さなかったということは、出来なかったということだと思う。

僕にも同じように出来ないことがあると気付いて欲しい。

多分神下さんが殺せない理由にもあの神が関わっているのだから。


「私にはみんなを殺せない理由があったの」


「そうなんだね。僕が神下さんの探している人かどうかは別として、僕には神下さんを殺さない理由があるよ。それで用件はそれだけ?」


「……うん」

僕も意地悪で言っているわけではないのでわかって欲しい。


「神下さんと連絡を取る方法はないのかな?僕のことはちょくちょく見てるよね?呼べば顕現してくれるの?」


「簡単には出来ないよ。顕現したいと思ってもすぐに出来る事ではないんだよ」

やっぱりそうだよね。

だからこそ、次は万全な状態で来て欲しい。


「そっか。お願いがあるんだけど、なんだか近くで見られてるかもしれないと思うと落ち着かないんだよね。だから、あんまり近づき過ぎないようにして欲しいんだよ。覗くなとは言わないから、僕の近くにいる時は少し距離を取って……えっと、そこの木がある辺りの距離感で離れていてもらっていい?僕は神下さんが近くにいるとしても、あの辺りだなって思うことにするから」

せっかくスキルも取得したけど、神下さんが敵対しないと殺せないってことに気付かない可能性も考慮して、布石を置いておくことにする。


「うん、わかった。クオン君の近くにいる時は3mくらい右後ろに出来るだけいるようにするよ」


「ヨツバとイロハと委員長はあっちの魔法学院の奥にある店に行くって言ってたよ。まだ顕現出来るなら会いに行ってきたら?」

今日殺すことは無理そうだし、遊んできたらと勧める。


「そんなに時間はないから、もう少ししたらまた話せなくなるよ」


「そっか。それじゃあ、僕は観光を続けるから。魔法都市にいるのは今日が最後だからね」

これ以上は話していても意味が無さそうなので、神下さんとは別れて観光を優先させてもらう。

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