第165話 side 神下 える⑥

委員長に狩谷君の事を伝えたのは正解だったようで、狩谷君が騎士団の寮に侵入して、クラスのみんなを襲おうとしたところで、騎士の人たちが捕まえてくれた。


騎士が委員長を呼びに行き、クオン君も一緒にやってくる。


委員長が狩谷君に対して質問を始めた時、委員長と狩谷君が動かなくなった。


「あの人間はなかなか面白いですね。神の域に足を踏み込み始めてますよ」

先輩天使が言うけど、今はそれどころではない。


騎士の姿に化けたクオン君は部屋を出て、狩谷君の姿に化けた後にみんなが集まっている部屋に入り、みんなを殺してしまった。


「仕事が入りました。戻りましょう」

先輩天使が言うけど、仕事が入ったのは見ていたからわかる。


これだけ一気に死んでしまったのだ。

神様から私を殺せる人が死んでしまったと言われないか怖い。


「……わかりました」


天界に戻り、みんなが帰る準備を進める。

その間もずっと心臓はバクバクだ。


全員分の準備が終わり、神様の所にまとめて運ぶ。


私の心臓の鼓動がさらに激しくなる。


「準備が完了しました」

先輩天使が神様に報告する。


「うん、数が多いからね。そこに並べておいて。並べたら下がっていいよ」

あれ、何も言われないってことはセーフだったのかな。


「あの、私の探さないといけない人は……?」


「この中にはいないよ。よかったね」

私はペタンと尻餅をつく。


助かった……。


その後、クオン君は狩谷君を見つけて殺した後、ザング経由で魔法都市に向かう。


残っている人も限られており、自分を殺せる人物が誰かが絞れてきた。


絞れてきたというよりも、可能性があるのが2人しかいない。

クオン君かいろはちゃんだ。


他の人のスキルではどう考えても無理だ。


いろはちゃんが天使をも殺せる物を買うか、クオン君が何か特殊な方法を使うかのどちらか。


あの時、クオン君は私の探している人の捜索を手伝ってくれると勘違いし騙されたと思ったけど、クオン君は誰なのかわかっていたのかな……。


移動中に、クオン君がみんなを殺したのではないかと委員長が詰め寄る。

私が委員長にクオン君と会わないように言ったことを発端として委員長はクオン君を疑っている。


クオン君が私のことも考えてみんなを殺していたなら、クオン君には悪い事をしてしまった。


魔法都市でクオン君は、領主に宮橋君と犬飼君を処刑させる。


クオン君は手際が良すぎる。

領主には殺すことが目的だとは思わせず、他のメリットがあるように思わせる。


クオン君が領主の館から出た後、すぐに2人は領主の手により殺された。


いろはちゃんはこの結果に納得のいっていない様子だったけど、2人はクオン君の言う通り酷い扱いを受けていた。


牢で縛られており、領主が地球の事を話させる時以外は常に口に布を咥えさせられ、舌を噛み切って死ぬことさえ許されない。


元の世界に帰れなかったとしても、あの2人は死んだ方が幸せだったと思う。


2人の調整を終えて神様に持っていったけど、予想通り神様からは何も言われない。


その後、いつの間にか桜井君と平松さんが死んでいた。

クオン君が魔法都市で姿を消していたので、元の世界に帰っていたと思っていたけど、どうやってか2人を殺したのだと思う。


下界にはすぐに帰りたい人はいなくなったので、クオン君は当分の間、誰も殺さなくなるだろう。


クオン君が私を殺せるなら、クオン君の前に姿を現せば殺してくれるのだろうか。


私が死んでもクオン君が四葉ちゃん逹を帰してくれるだろうから、そこは安心して死ぬことが出来る。


私は魔法都市でクオン君が1人になっているタイミングで、会いに行くことにする。


神様にはクオン君に殺して欲しいと頼むことの許可はもらった。

すんなりと許可が降りたことに少し違和感を覚えたが、そこまで鬼ではなかったということだろう。


「久しぶり」


「久しぶりだね。また何か用でもあるの?」

なんだか違和感を感じる。


「私の探している人ってクオン君なんじゃないかなって思うんだけど、違う?」


「……僕にはわからないけど、そうだとしたら僕に何をして欲しいのかな?」


「……死にたいから殺して欲しい。死にたくても私は普通の方法では死ねないから」


「……残念だけど、僕には今の神下さんを殺すことは出来ないよ。それに殺さないといけない人は殺したし、ここからはこの世界を楽しむことに時間を使うつもりなんだ」


「え?」


「もう少し僕のことも考えて言って欲しいな」


「私を殺せるのはクオン君かいろはちゃんのどちらかだと思うの。クオン君はいろはちゃんが私を殺せると思う?」


「天使を殺せるかどうかでしょ?無理じゃないかな。ゲームで天使を殺せるアイテムは知ってるけど、イロハは加工品は買えないからね」


「それならやっぱりクオン君だと思うよ。他の人には無理だと思うから。クオン君が気づいてないだけで天使を殺す方法とかないの?」


「そんなこと言われても困るよ。そもそも僕は何も考えずに無条件で殺しているわけでもないし」


「元の世界に帰りたい人を殺してるんでしょ?」


「何を言ってるのかわからないけど、僕にも予定ってものがあるから、死にたいから殺してっていきなり現れても無理だよ。もう一度言うけど、僕の都合も考えて」

クオン君に断られてしまった。

いろはちゃんではないなら、クオン君で合っているはずだ。


クオン君の行動からして、クオン君自身も私が探しているのはクオン君だって本当はわかっているはず。

天使の殺し方も見当が付いているはずだ。


クオン君の都合ってなに?

ちゃんと私を殺すところを見られないように、周りに人がいない1人の時に話しかけたのに。


「何の都合が悪いの?私を殺したくないってこと?」


「神下さんはなんで誰も殺さなかったの?」

クオン君は私の聞いた事を無視して、違う事を聞いてくる。


クオン君は私が死んだら帰れる事を知っているのに、誰も殺さなかったことを責めてるの?

だから殺してくれないってことなの?

自分は見ていただけなのに、都合の良いことを言うなってこと?


でも、神様に私が手を出す事を禁じられてたから仕方ないじゃない。


「私にはみんなを殺せない理由があったの」


「そうなんだね。僕が神下さんの探している人かどうかは別として、僕には神下さんを殺さない理由があるよ。それで用件はそれだけ?」

クオン君は私を殺さないと断言した。

やっぱり怒ってるのかな……。

私のせいで委員長に疑われてたりするもんね。


「……うん」


「神下さんと連絡を取る方法はないのかな?僕のことはちょくちょく見てるよね?呼べば顕現してくれるの?」


「簡単には出来ないよ。顕現したいと思ってもすぐに出来る事ではないんだよ」

先輩天使に話をしてから、神様に許可をもらわないといけない。


「そっか。お願いがあるんだけど、なんだか近くで見られてるかもしれないと思うと落ち着かないんだよね。だから、あんまり近づき過ぎないようにして欲しいんだよ。覗くなとは言わないから、僕の近くにいる時は少し距離を取って……えっと、そこの木がある辺りの距離感で離れていてもらっていい?僕は神下さんが近くにいるとしても、あの辺りだなって思うことにするから」

クオン君は何を言っているのだろうか?

そんな素振りは今までなかったのに、本当は私が見ている事を気にしてたってことかな。


「うん、わかった。クオン君の近くにいる時は3mくらい右後ろに出来るだけいるようにするよ」

意味が分からないけど、隠れて近づくなと言われているわけではないので了承する。


「ヨツバとイロハと委員長はあっちの魔法学院の奥にある店に行くって言ってたよ。まだ顕現出来るなら会いに行ってきたら?」


「そんなに時間はないから、もう少ししたらまた話せなくなるよ」


「そっか。それじゃあ、僕は観光を続けるから。魔法都市にいるのは今日が最後だからね」

クオン君は手を振って歩いて行ってしまった。

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