第164話 完遂

魔法都市での用は済んだけど、どうせここまで来たのならと、数日滞在することに決め、僕は単独行動をさせてもらう。


魔法都市を観光するだけなら、ファストトラベルを使えばいつでも来れるので、実際の目的は他にある。


桜井君と平松さんの存在だ。


すぐに帰りたいと言っていたのは、あとあの2人だけなので、2人を帰せば神下さんを残して僕自身で決めたメインクエストは達成だ。


神下さんに関しては、こちらから会おうとしても会えないので、裏ボス的な扱いでいいだろう。


桜井君を殺す前にはやらないといけないことがある。

それは桜井君がハロルドさんに別れの挨拶をすること。


今回の最難関はここだ。

どうやって、桜井君に死んだら帰れる事を悟らせずに元の世界に帰る方法を見つけた事を伝え、その後に敵対して殺すか。


その方法を僕は考えていた。


なんとかして、僕が王都に居ないことになっているうちに桜井君達を殺して、犯人は僕でないと委員長に思わせたい。


その為に僕はアリオスさんに頼み事をした。

ハロルドさんを王都に行かせたいと。


理由を聞かれたので、ハルト君が元の世界に帰る目処がついたから、帰る前に話をしたいだろうと言っておいた。

ハルト君がこっちに来るのは難しいからと。


旅に必要なお金は僕が払うと言ってあるので、アリオスさんにはハロルドさんに休みを与えて欲しいと頼んである。


ハロルドさんには桜井君に会うついでに息子と王都観光を楽しんでもらおうと思う。


予定ではそろそろハロルドさんが王都に着く頃だろう。


ヨツバには桜井君と平松さんを殺す事にした事を伝えてある。

前回、もう止めるのをやめると言っていたので、言わなくてもいい気がするけど、一応だ。


驚かれはしたけど、止められはしなかった。

ただ、悲しそうな顔はしていた。


ヨツバは王都に戻ってから殺すと思っているかもしれないけど、僕はその前に殺す予定で考えている。


止めないのだから、そこまで言わなくてもいいだろう。


僕はファストトラベルで王都に行き、桜井君の所へと行く。


「……随分早かったな。立花さん逹はどうした?」


「僕だけ戻ってきたよ。ヨツバ逹は今は魔法都市にいるよ」


「1人で戻ってきたのか?」


「桜井君には言ってなかったけど、僕は街と街を一瞬で移動出来るんだよ。ファストトラベルっていうんだけど、ゲームで行ったことのある街に一瞬で移動する魔法とかシステムとかあるでしょ?あれだよ」


「そんなことも出来たんだな」


「僕しか移動出来ないから今まで使う場面が無かったからね。今回は急を要したから使ったわけだけど、元の世界に帰る方法が判明したよ」


「本当か!?」


「うん。レイハルトさんがアリオスさんと模擬戦をする為にザングに行ったんだけど、そこで神下さんに会ってね。探してた人には会えたみたいで、帰り方を教えてもらえたよ。だけど、帰るにはタイミングが限られてるんだ。それを逃すとまた当分帰れなくなる。だから誰にも言わずに隠してたスキルも使って戻ってきたんだよ」


「……どうやって帰るんだ?」


「魔法陣を使って帰るよ。桜井君にも分かるように順を追って説明するね」


「頼む」


「そもそも僕達って神に連れてこられたんじゃなくて、召喚されたんだって。ただ、ひとつの場所に特殊なスキルを持った人が集まりすぎることを危惧した神が、目的を隠して別々の場所に飛ばしたんだ。召喚をする為の魔法陣を使われて僕達はこの世界に連れてこられたわけだけど、対となる帰還の魔法陣があるんだって。その魔法陣の描き方を魔法学院の学院長に頼んで調べさせてもらってきたよ」

僕は嘘を桜井君に吹き込む。


「魔法陣を描くのにタイミングがあるのか?」


「夜に月みたいな星が2つ浮かんでるでしょ?あれが両方とも隠れている時にしか、発動しないらしいんだ。あの星が魔法の発動を阻害するみたい。それが2日後の夜だよ」


「委員長逹も帰るのか?」


「前に話した時にすぐに帰りたいのは桜井君と平松さんだけだったでしょ?だから帰るのは桜井君と平松さんだけだよ」


「そうか。神下さんに会ったみたいだけど、立花さんと中貝さんは帰らないのか?」


「神下さんはすぐには帰れないみたいだから、今回は一緒には帰らないよ」


「急だから仕方ないけど、ハロルドさんに一言言いたかったな。悪いけど、会ったらよろしく言っておいてくれないか?」


「それだけど、アリオスさんに頼んでハロルドさんが王都に来れるようにしておいたよ。予定だと今日の夜か明日の昼前に着くと思う。魔法都市で魔法陣の描き方が見つからなければ王都観光してもらうだけになったけど、なんとか見つかってよかったよ。ハロルドさんには異世界人だとかそういう話はしてないけど、桜井君の判断で話してもいいよ」


「何から何まで悪いな」


「それじゃあ、僕は魔法陣を書いたりと準備があるから、また明日ね。平松さんにも説明しておいて」


「ああ」


翌日、ハロルドさんに桜井君が会えた事を確認する。


「お別れは言えた?」


「話は出来た。帰るのは明日の夜だろ?昼はハロルドさんと王都を観光しててもいいか?」


「大丈夫だけど、魔法陣は秘匿されているものだから、帰る瞬間は桜井君と平松さんだけにしておいてね。観光は6の鐘が鳴るまででお願い」


「わかった」


そして当日、桜井君と平松さんの2人と街の外へと移動する。


「これが魔法陣か?」

桜井君が僕が適当に書いた魔法陣を見て言う。


「そうだよ。そこに乗ってくれる?」

僕は2人に魔法陣の上に乗ってもらう。


「これでいいか?」


「うん。……ごめんね」

僕は謝りながら地面に手をつき、魔法陣を書いた板をストレージに入れる。


ドシン!!

「うっ」「痛っ」

乗っていた板が消えた事で、その下に掘っていた穴に2人は落ちる。


「……何が起きたの?」

平松さんが訳が分からず動揺する。


「どういうつもりだ?」

桜井君が僕の方を見上げて聞いてくる。


「魔法陣で帰れるって話は僕の嘘だよ。2人にはここで死んでもらうことにしたんだ」


「何言ってるんだよ。冗談にしてはやり過ぎだ」


「冗談じゃないよ。桜井君にリカバリーワンドを渡したのは失敗だったね。せっかく狩谷君の仕業に見せかけて致命傷を与えたのに、まさか助かるなんてね。そのせいで委員長に疑われてしまったよ。今僕は魔法都市にいることになってるからね。今2人を殺しておけば、僕がやったとは思わないと思うんだけどどうかな?」


「嫌!やめて……誰か助けて!」

平松さんが助けを呼ぶ。


「声は遮っているから、大声を出しても誰も来ないよ。あの時も誰も助けに来なかったでしょ?」


「……何が目的だ?これに何の意味がある?」

桜井君に聞かれる。思っていたよりも冷静だな。


「何って意味なんてないよ。クラスメイトを殺すっていうただのゲームをしているだけだよ」


「そういう冗談はいらない。殺すなら殺すで何か目的があるだろ?お前は無意味にこんな事をする奴じゃない。そんな奴を兵長が気にいる訳がない」


「桜井君が何を言ってるのかわからないよ。欲求に忠実に僕はこのゲームを楽しんでるだけだよ」


「狂ってる……。死にたくない」

平松さんが僕の方を睨んだ後、頭を抱えてうずくまる。


「何を隠してるんだよ!?」

桜井君が叫ぶ。


「今は何も隠してないよ。僕の隠し事ってみんなを標的に楽しんでるってことだからね。ストーンバレット!……こうやってね」

僕は平松さんの心臓を石で貫く。


「くぷっ」

平松さんが口から血を吐きながら倒れる。


「……俺が間違ってた。間に合ってくれ」

桜井君が平松さんをリカバリーワンドで回復させようとするけど、平松さんは既に死んでいる。

リカバリーワンドでは死人は生き返らない。


「もう死んでるから、助からないよ」


「……許さない!許さないからな!」

桜井君が怒りながら、魔法で攻撃してくる。


僕は冷静に避けて、桜井君も石で心臓を貫く。


「くぷっ。くそ……。お前は悪い奴じゃないって信じてたのに……」

桜井君はこちらを見ながら言い、息を引きとった。


僕は2人の死体をストレージに入れて、穴を埋める。


「ふぅ」

やっと終わった。

後は待ちだし、これから何をやろうかな。

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