第163話 処理

レイハルトさんの模擬戦とは別にアリオスさんには用があったので、用を済ませてからザングの街を出る。


馬車に揺られ続け、魔法都市に到着する。


「宿の手配をお願いします。僕は詰所に行ってきます」


「私も行ってもいい?」

委員長に聞かれるけど、返答に迷う

別に委員長はいいけど、委員長を連れて行くとヨツバを連れて行くことになりそうだからなぁ。


「ヨツバとイロハは?」


「行くよ」「私も」


「ショックを受けることになるかもしれないけど、大丈夫?」


「この為に来たんだから大丈夫よ」

委員長が答えるけど、ショックを受けるかもしれないのはヨツバだ。

ただ、ヨツバも行くつもりのようなので、その話題に触れられないように願っておくしかない。


「第1騎士団団長のクオンです。聞きたいことがあります。兵長はいますか?」

4人で詰所に行き、目に入った衛兵に兵長に会わせて欲しいと頼む。


「へ、兵長なら奥の部屋にいます。少しお待ちください」

衛兵が駆けていき、少しして戻ってくる。


「こちらへどうぞ」


「ありがとう」

部屋に通される。


「お初にお目にかかります。サルウェと申します。騎士団長様が私に何用でしょうか?」


「以前私が捕らえた賊についてお話を聞かせて頂きたいと思いまして――――」

僕はギルド証を見せ、どの賊のことかを確認する。


「何をお聞きしたいのでしょうか?」

一瞬サルウェさんの顔が歪んだ気がしたのは気のせいかな。


「賊があの後どうなったのかをお聞きしたいです。こちらでもある程度情報は持っていますので、嘘は吐かれない方が良いとだけ言っておきます」


「……やはり不正に手を貸すべきではなかった。騎士団の情報網を甘く見ていたようだ。2人は領主に引き渡した。他の賊は子供以外処刑。子供に関しては、親に逆らえなかったという点で減刑し、犯罪奴隷として更生を促している」

すんなり話してくれたのはいいけど、言わなくてもいいことまで言ったな。


「子供……?」

ヨツバが呟くけど、僕はこの場では無視する。


「何故領主に引き渡したんですか?」


「……2人は異世界から来たと言っていた。もちろん初めは信じるに値しないと思っていたが、別々に尋問しているのに、2人は同じことを話した。判断に迷った私は領主様に報告した。領主様は異世界の技術に興味を持ち、都市を発展させるためだと言い、罪人の引き渡しを求めてきた。処刑したことにすればいいと」


「その申し出に乗ってしまったと……。何かメリットを提示されたんですか?」


「……はい。この地が発達すれば衛兵に回す予算も増えるだろうと」


「わかりました。このことを知ってるのは誰ですか?」


「領主様の方はわかりませんが、こちらでは私しか知りません。公に出来る事ではありませんので」


「異世界人だということを知っているのもですか?」


「それは尋問を担当した2人も知っています」


「では他に漏らさないように言っておいて下さい。処罰に関しては領主からも話を聞いてから追って連絡します」


詰所を出て、次は領主邸に向かう。


「さっき言ってた子供ってヘンズ君のことだよね……?クオンは知ってたの?」


「知ってたよ。だからショックを受けるかもしれないって詰所に行く前に言ったよね。知らない方がいいことかなって言わなかっただけだよ」


「……気を使わせてごめんね」


「勝手にやったことだから僕のことは気にしなくてもいいよ。辛かったら先に戻っててもいいよ?」


「……大丈夫」

無理してそうだけど、本当に大丈夫かな。


心配しつつも領主邸に到着する。

「第1騎士団団長クオンです。マルルーク伯爵に話がありきました」

門の前にいる兵に話し掛ける。


「そのようなご予定は聞いておりません。面会の約束はされておりますか?」


「約束はしていません。伯爵に時間をとってくれないか聞いてもらってもいいですか?忙しいようであれば、いつなら会えるか聞いてきてください」


「ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「ここでは言えないことです。誤った情報で伯爵の名誉を傷付けてしまうかもしれません」


「わかりました。そのようにお伝えいたします。中に入ってお待ち下さい」


応接室に案内され、待っていると伯爵が入ってきた。


「お忙しいなか、お時間を頂きありがとうございます。先日、第1騎士団の団長に就任しましたクオンと申します」


「マルルークだ。門兵が不穏な事を言っていたが何用だ?」


「別の任務で捕らえた者から伯爵が不正をしているのではと思われる話を聞きましたので、真意を確認しに来ました。何か心当たりはありませんか?」


「……ないな」


「ここに来る前に詰所に寄って裏は取れているんですが、本当にないと言われるのですね?自ら認めるのと捕まるのでは、今後の影響にかなりの違いが出ると思いますが……」


「……面白いことを言いますね。仮に私が何か不正をしていたとして、新参者の第1騎士団団長と伯爵である私の言い分のどちらを王は信じてくださるだろうか」


「言ってませんでしたが、副団長も現在魔法都市に来ていますよ」


「それは面白い冗談だ。第1騎士団の団長と副団長が来るくらいの悪事を私が働いていると言うのか?」


「そんなことは言いません。個人的な興味もあったので僕が来ましたが、副団長は別件で同行しているだけです。ただ、今回の件に関しては副団長の耳にも入れてあります。僕の発言力が足りなかったとしても口添えしてくれるでしょう。ちなみにですが、アリオスさんもこの件は知ってますよ。副団長の用はアリオスさんに会う事でしたので、ついでに話をしてきました。封書も預かっています。国王様は聡明な方だと聞いてますので、発言力とは関係なく真実を見極めてくれると思います。一応、権力で握りつぶせると思わない方が身のためですよと忠告しておきます。最終確認ですが、心当たりは本当に無いんですね?」


「……申し訳ありませんでした。全ては領民の生活を豊かにする為だったんです」

伯爵が頭を下げ、悪事を認める。


「認めていただけてよかったです。間違いがあるといけないので詳しく話してもらえますか?」


伯爵から経緯を聞く。

さっき兵長から聞いたこととほとんど同じだ。


伯爵が発達した科学に興味を持って、都市開発に力を入れようとしたというただそれだけ。


神が賭け事をしたとか、そのあたりは話してないのかな。

話していたとしても、伯爵が重要視したのが科学力の方だけだった可能性もあるけど……。


「どうかお手柔らかにお願いします」

伯爵が懇願する。


「この件を知っているのはどなたですか?」


「兵長と私だけです。使用人には会わせていません」


「それなら今回のことは無かったことにしましょうか?」


「え!?私を捕まえに来たのではないのか?」


「違いますよ。真意を確認しにきただけです。ただ、不正をそのままにしておくわけにはいきません。無かったことにする。意味はわかりますよね?」


「……わかっている」


「え?」

イロハが困惑した声を漏らしたけど、ヨツバと委員長は何も言わない。


「それから、今回のことは貸しです。忘れないように」

これで、貸しを作ることを目的に見逃したと思ってくれるだろう。

実際には処刑することが目的だったとしても。


「もちろん承知しております」


「では失礼します」


僕達は領主邸を後にする。


「犬飼君と宮橋君を助けに来たんじゃなかったの?」

イロハが言う。


「違うよ。衛兵に引き渡したはずの2人が何故か領主の所にいたから、状況を確認しに来たんだよ。2人が異世界人だってことを言いふらしてたらマズいからね。幸い領主のところで止まっていたけど、助かるために話してしまうようだと危険だね。言い方は悪いけど信用出来ない」


「委員長も?」


「クオン君は第1騎士団の団長として行動しているのよ。逃すのは無理よ。騎士団の顔に泥を塗ることになるわ。肯定するわけではないけど、私達の存在は戦争の引き金にもなり得るから、クオン君はそれを阻止するために来ただけで、助けに来たわけではないわ」

言わないけど、処刑してもらわないと2人がいつまでも帰れないからという理由もある。


「四葉ちゃんは?」


「いろはちゃんの気持ちは分かるけど、元々捕まえたのもクオンだから助けにきたとは思ってなかったよ。私も助けられるなら助けたいとは思うけど……」


「それでも処刑するように促さなくてもよかったんじゃないの?」


「2人がどんな扱いを受けているかはわからないけど、普通に考えていい扱いはされてはいないよね?領主からは知識を求められているだけだから、拷問まがいなことをされて、無理矢理情報をはかされているかもしれない。この世界で罪人は物以下の扱いだよ。それなら、自分の罪を償って本来の罰を受けた方が幸せなんじゃないかな。後はさっき委員長も言ったけど、戦争の起爆剤になり得る人をここに置いておくのはリスクが高すぎると思う。引き取るにしても、2人との関係を公にはしたくないから難しいよ」


「……それでいいの?」


「良い悪いじゃなくて、僕に出来ることはやったつもりだよ。これ以上を求めないで欲しいな」


「……ごめん」

謝られるけど、納得はいってなさそうだ。


急に知り合いが処刑されることになって、すんなり受け入れられる方が異常だから、イロハの方が普通だろう。


僕からしたら委員長の方が異常だ。

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