第162話 頂上決戦

あれから委員長から何か言ってくることはなく、変わらず接しているので、僕が白だと思ったわけでは無いと思うけど、上手いこと誤魔化せたのではと思っている。


委員長の中では狩谷君がやったのが8割、僕が1割、他の協力者がいるが1割といったところかな。


そんな願望を抱いたままザングに到着する。


「僕と副団長はアリオスさんのところに行ってきますので、宿の手配をお願いします。委員長達は悪いけど自腹でお願いね。第1騎士団の予算から出すわけにはいかないから」


「はっ!」

宿の手配は任せて、レイハルトさんと詰所に行く。


「お久しぶりです。長いこと待たせてしまいましたが、手合わせをお願いしたく会いに来ました」

レイハルトさんがアリオスさんの前で礼をした後、模擬戦を頼む。


「彼と来たということは、推薦状は受け取ったわけだね?」


「はい。今はクオンが団長です」


「アリオスさんのおかげで助かっています。禁書庫で知りたいことも色々と知れました」


「こうしてレイハルトが来たからな。君を推薦してよかった。手合わせする前に礼を言いたい。よく私が抜けた後、騎士団をまとめ上げてくれた。私が団長だったせいで団員は癖者ばかりだ。その中でよくやってくれた。ありがとう」

アリオスさんがレイハルトさんに礼を言う。


「恐縮です」


「話はここまでにして、私に一撃当てる算段がついたのだろう?」


「それなんですが、アリオスさんにお願いがあります」

僕は話に割って入る。


「なんだ?」


「殺さなければ、僕が責任を持って治しますので、真剣での勝負をお願いします」


「……いいのか?」

アリオスさんがレイハルトさんに確認する。


「お願いします」


「それなら明日にしよう。本気には本気で答えるために、万全の状態に整えてくる」


「ありがとうございます」


「場所は街の外の方がいいだろう。2の鐘がなる頃に門の前に集合しようか」


「わかりました」


「終わったら昔みたいに朝まで飲み明かすからな。他の話はそこで聞かせてくれ」


「はい」


翌日、門に集合し街から離れる。


「付き合わせて悪かったな」

歩きながらレイハルトさんに言われる。


「いい結果を期待してます」


「この辺りでいいだろう。立会人を頼む」


「わかりました。僕には2人の動きが追い切れないかもしれないので、治療が必要な場合は呼んでください」


「了解した」


アリオスさんとレイハルトさんが少し距離をとり、剣を構えて向き合う。


「武器を変えたのか?」

アリオスさんがレイハルトさんに聞く。


「この日の為に団長が作ってくれました」

言わない方がいいのだけれど、僕のように小細工だけで勝とうとはしてないので、これで良いのだろう。


「……そうか。普通の剣だと思わない方が良さそうだな」


「お二人共準備は大丈夫ですか?」


「ああ」

「問題ない」


「では、石を上空に打ち上げますので、地面についた所で開始とします。ではいきます」

僕は上空に向けて石を射出する。


………………トン。

静寂が支配し、打ち上げた石が落ちてくる。


2人とも動かなかった。

お互いがお互いの動きを牽制しているようだ。


緊迫した空気に包まれたまま、永遠とも思える時間が流れ、レイハルトさんが先に動く。

僕にはわからなかっただけで、アリオスさんが何か動きを見せたのかもしれない……。


常人とは思えない速さでアリオスさんに近づき、剣を横なぎに振るう。


アリオスさんは冷静に一歩さがり避ける。


レイハルトさんは踏み込みながら斬り返しでもう一振りするが、アリオスさんには避けられる。


相手がアリオスさんでなければ、既に決着は着いているだろう。

それくらいにレイハルトさんの剣は鋭く、速い。

少し離れた位置から見ているから、目で追えるだけだ。


あれを無駄なく避けるアリオスさんはやはり異常だ。


レイハルトさんは隙をつくらないようにしつつも、攻めの姿勢を崩さない。


レイハルトさんの集中が切れるのを待っているのだろう。

アリオスさんは剣筋を見切って避け続ける。

攻めが少しでも緩まれば、攻守は逆転してそのままレイハルトさんは斬られるだろう。


レイハルトさんは仕掛けるべきその時が来ると信じて踏ん張り続け、遂にその時が来る。


レイハルトさんが下から上へと斬りあげる。

アリオスさんは先程までと同じく下がって避けようとするのを寸前で止め、上半身を退け反らせて避け、切り返しで振り下ろされた剣に剣を当てて受け止める。


ピキッ!


剣と剣がぶつかり合い、アリオスさんの剣が折れる。

レイハルトさんが勝てるタイミングがあればここだけだ。


このチャンスは当然偶然ではない。


僕の渡した剣は武器破壊に特化した剣で、対人戦で使うと周りからもバッシングを受ける、一部の害悪プレイヤーが好んで使っていた武器だ。


アリオスさんの剣は良い物だとは思うけど、衛兵隊の隊長が使うただの鉄製の剣だ。

手入れが行き届いているという意味で良い剣というだけで、変哲のない鉄剣だということには変わりない。

折れないわけがない。


それから、レイハルトさんは剣を斬り上げながら、アリオスさんの後ろに土魔法で壁を作った。

足が引っ掛かるくらいで、壁というより地面を盛り上げただけだけど。


剣を高速で振り続けながら魔法を発動するのは不可能に近い程に難しい。

しかも、僕と違って自分の体に接したところからしか魔法を発動出来ない。

手ではなく足から魔法を発動させる。簡単なわけがない。

それをこの緊迫した場面でやり遂げたのは、見事でしかない。


このまま振り下ろされればアリオスさんは斬られてしまうだろう。

止める手段を失くしているので避けるしかない。

でも、レイハルトさんに作られた土壁によって後ろに下がることは出来ない。


アリオスさんが助かる道は、レイハルトさんに打撃を与えて体勢を立て直すか、レイハルトさんの剣を叩き落とすかのどちらかだろう。

どちらにしてもレイハルトさんの懐に潜り込まないと、斬られて終わりだ。


アリオスさんが振り下ろされた剣を避けつつ、レイハルトさんの懐に入り、後頭部をレイハルトさんに剣の柄頭で殴られる。

上手い。剣を振り下ろした勢いを殺さないように腕の軌道を変えた。


アリオスさんは殴られつつもレイハルトさんに掌底を当て後退させて、距離を取る。


レイハルトさんはなんとか踏ん張って転倒しなかったけど、その隙を見逃してもらえることはなく、折れた剣だと思えない程きれいに右胸から左腹に掛けて斬られてしまった。

レイハルトさんも剣を振っていたけど、アリオスさんには当たらなかった。


「治療を頼む」


「はい」

アリオスさんに頼まれて、僕は気を失って倒れているレイハルトさんのところに駆け寄る。


「ヒール!」

僕は込めれるだけ魔力を圧縮してから回復させる。


「……ダメだったか」

目を覚ましたレイハルトさんが言った。

レイハルトさんの目標はアリオスさんに一撃入れることではない。

アリオスさんに勝つことだ。


「残念でしたけど、やれることはやり切れたんじゃないですか?」


「確かに悔いはない。アリオス殿が想定していたよりも頑丈だっただけだ」

レイハルトさんはスッキリとした顔で言った。


「成長したな。一撃も食らってやるつもりはなかったが、あれはどうしようもなかった。試験は合格だ。だが、その先も考えていただろう?試験とは関係なくまたやろう」


「もちろんです。次は勝ちますよ」


「それは楽しみだ。よし、飲みに行こう。今の戦いの反省会でもするか。気になることもあったからな。クオンも付き合ってくれ」


「お付き合いします」


酒場に移動して、お酒を飲みながら2人が反省会をする。


「あの剣はなんだ?ちゃんと折れないように受け流すように受けたはずなのに、なぜ折れた?」


「ここだけの話にして欲しいんですけど、僕が作る装備品にはスキルのようなものが付いているんです。あの剣には武器破壊に特化したスキルが付いています」

武器の耐久値にダメージを与えるスキルが付いた武器だ。

耐久値が0になれば武器は壊れる。


「……おかしなことを言っているはずなんだが、君が言うならそうなんだろう」


「アリオスさんにも作りましょうか?」


「気持ちだけ受け取っておこう」


「そうですか。欲しくなったら言ってください」


「あの土魔法のカラクリだが、手以外からでも魔法を発動出来るようになったのか?」


「はい。今回は足を起点に発動しました」


「大分クオンに毒されたな。それにしても、よくあの状況で魔法を発動した。あれには驚かされた」


「人の域にいる内はアリオスさんには勝てませんよと団長に言われた。出来ないことをやって、初めて同じ土俵に立てるとな」


「それだとしてもよくやろうとしたな。無理だとは思わなかったのか?」


「団長は簡単にやってましたからね。団長が特殊だということを理解する前でしたから、出来るものだと信じてしまいましたよ。騙されたおかげです」


「やはり君を推薦してよかった」

なんだか褒められている気はしないな。


「私からも1つ聞かせてください。なぜ最後耐えられたんですか?膝くらいは付いてくれると思ってたんですが、効いていませんでしたか?」


「殴られる寸前に気配を感じた。避けられないものだとして気合を入れた。根性で耐えただけで、効いてなかったわけではないよ。あそこで膝をついていたらそのまま斬られただろうから、なんとしてでも耐えないといけなかった」


「アリオスさんって後ろにも目が付いているんですか?」

剣が折れるのを分かっていて、初めから殴るつもりだったから、振り下ろした剣の軌道を無理矢理変えて殴りにいけただけだ。

勘がよくても気付けるものではない。


「君と模擬戦をしてから勘が冴え切っていてね。君の言う通り後ろに目があるかのように周りのことを感じ取れるようになったよ。模擬戦のことはここまでにして、私が抜けてからのことを教えてくれ」


「私も衛兵になってからのことを聞きたいです」


僕は話にしばらく混じった後、2人を残して宿屋に戻ることにした。

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