第161話 疑い
「クオン君、ちょっと……」
魔法学院に行く当日、委員長に引っ張られて路地裏に連れていかれる。
「どうかした?」
「どうかしたじゃないわよ。なんであの人がいるのよ?」
「いや、なんか自分も行くって。断る理由もないし、一緒に行くことになったよ。僕もさっき連れて行ってくれって言われてびっくりしたところだよ。あれだったら委員長は王都で待っててもいいよ」
「もちろん行くけど、緊張するわ」
「自分に妥協が出来ないだけで、良い人だよ。一応紹介するから戻ろうか」
「はーーふぅーー。ええ」
委員長は息を吸って吐いてから返事する。
「お待たせしました。こちら、第10騎士団で参謀をしている委員長です。それから、こちらはイロハです。2人とも僕と同郷です」
ヨツバは以前に会っているので、委員長とイロハの紹介だけする。
「レイハルトだ。活躍は耳にしている。長旅になるが、私のことは気にせず、普段通りにしていてくれて構わない」
「先日は訓練をつけて頂きありがとうございます。失礼ですが、副団長殿がご同行される目的をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「団長……アリオス殿より団長を見て戦い方を学ぶように御助言頂いたからだ。遠回りをさせることになるが、長いことアリオス殿に会っていなかったから、ついでに寄らせてもらおうとも思っている」
「そういうわけだから、少しまわり道をするよ。僕もアリオスさんには用事があるから、勝手にで悪いけどルートを変更したよ」
「わかったわ」
「それで委員長にお願いがあるんだけど…」
「何かして欲しいの?」
「委員長は歴史とか詳しいでしょ?」
「中学生が知っている程度にはね」
これは絶対謙遜だ。
「レイハルトさんに陣形の話とかしてもらってもいい?特にトリッキーな布陣を取ったやつとか、地形を利用したようなやつをお願い」
「私が知ってるようなことが参考になるの?」
「僕はなると思ってるよ。馬車の中は暇だと思うし、嫌じゃないなら頼みたいな」
「過度な期待はしないでね」
「ありがとう。帰りも寄るかもしれないから先にザングに行くよ。そのつもりでよろしく」
第1騎士団の騎士5人も一緒にザングへと出発する。
騎士団の馬車を襲うような輩は流石におらず、順調に進んでいく。
「団長に付いてきて正解だったな」
「行く前はめんどくさがってただろうが」
「違ぇよ!保存食ばかりの移動を嫌だって言ってたんだ。普段食ってるものより美味いものが食えるって知ってれば、喜んで志願したさ」
騎士達は食事を囲みながら騒いでいる。
「騎士ってもっとキチッとした人ばかりだと思ってたわ」
ヨツバがボソッと言う。
「第1騎士団は元々アリオスさんをトップとした騎士団だからね。仲間内で壁は少ないんだよ。委員長のところも似た感じでしよ?」
「そうね。ここまでではないけど、やることさえちゃんとやっていれば結構自由よ。だからこそこうしてここにいるわけだし。団長と団員でここまで壁がないことはないけどね」
「それは僕が団長の器ではないからだよ。僕にはアリオスさんに一撃当てたということしか団員から評価されることはないからね。実際に団員よりも団長の方がレベルも低いからね」
「そんなことないですよ。団長の戦い方は勉強になります。副団長が困惑している姿なんて久々に見ましたよ」
騎士の1人である、エドガードさんにフォローされる。
「気持ちは嬉しいけど、団長が副団長に手加減されている時点でちょっとね」
「それはそうかもしれませんが、団長のおかげで副団長がアリオス殿に再挑戦する気になったのですから、やはりそこまで卑下する必要は無いと思います。私達では手加減した副団長の相手も出来ませんので」
「そんなことはない。いつも十分過ぎるほどに助かっている。お前達と団長では戦い方に差があるだけだ。それに団長とばかり戦っていたら人間不信になりかねない」
レイハルトさんが言う。
「はははははは、それは違ぇねえな」
「副団長がアリオス殿の試験をクリアしたら、団長はどうするんですか?」
「これは私のケジメの問題だ。私がアリオス殿に一撃当てられたとしても団長はクオンのままだ」
答えようと思ったら、先にレイハルトさんが答えた。
「頑張ってください」
「ああ」
「良い人達だね」
ヨツバが言う。
「そうだね」
「もう遅いからお開きにするぞ。私達を襲う馬鹿はいないだろうが気を抜くなよ」
「「はっ!」」
宴会のような夕食を終え、僕はテントに入る。
「クオン君、少しいいかな?」
横になっていたら委員長がやって来る。
「……大丈夫だよ」
「気分を悪くするようなことを言うから先に謝っておくわね。確認したいことがあるんだけど、前に神下さんがクオン君に会わないように言いに来たって言ったわよね」
「そう言ってたね」
「神下さんはクラスメイトの誰かを探しているわけよね?それで、私がクオン君に会うと帰れなくなるかもしれないって」
「そうみたいだね。僕が聞いたわけではないから、本当のところはわからないけど」
「神下さんが探している人が誰かはわからないけど、ほとんどの人は死んでしまったよね?」
「そうだね」
「クオン君と私達が会ってしまったから、みんなが死んでしまったのかなって」
「……まあ、そういう風にも考えられるね。それで何を確認したいの?」
「クオン君がみんなを殺したわけではないよね?」
委員長が言うってことは何か今言ったこと以外にも気になることでもあるということだろうか……?
神下さんが言っていたからって、本人にそんなこと聞くような人じゃないし。
「僕は狩谷君が逃げて、委員長がアルマロスさんを呼びに行ってからずっとあの部屋にいたよ。誰かは知らないけど、騎士も一緒にいたはずだけど……」
「それはわかってるんだけど、クオン君って幻を作れるでしょ?それで、自分の幻をあの部屋に置いておいて狩達君に化けて殺すことも出来るんじゃないの?」
「作れるけど、これってただの幻だよ。触ってみたら分かると思うけど、こうやってすり抜けるからね。幻を見せてるだけで分身しているわけではないから、委員長と一緒にいたのが幻なら、委員長を助けようと突き飛ばすことは出来ないよ」
僕は幻を作って、手を突っ込み動かしながら弁明する。
「幻を作れるけど、分身も出来るってことはないの?」
「出来ないよ。これは信じてもらうしかないね。出来ないことを証明しろっていうのは難しいよ」
「……そうね。分身は出来ないとして、他におかしなスキルは使えないの?過去に戻る、時間を止める、記憶を消す、石化する、転移する、この辺りのスキル。後、音を遮るようなスキルね。そんなスキルが存在するのかはわからないけどね」
「そんな便利なスキルは使えないよ。いくつか委員長に言ってないスキルは確かにあるけど、なんでその辺りのスキルを使えるか聞いたの?」
ピンポイントに正解すぎるな。
「狩谷君が逃げてから、戻ってきてみんなを殺したのよね?」
「そうじゃないの?」
「襲われた騎士と桜井君と平松さんに聞いたんだけど、狩谷君が逃げる時の声を聞いてないのよ。それに、私達が狩谷君から話を聞こうとして数分で逃げられたと思ってたんだけど、駆け付けた騎士が言うには、私達が部屋に入ってから10分くらいは経ってたって言うの。だから、もしかしたらみんなは狩谷君が逃げる前に襲われたんじゃないかなって。そう仮定して考えた時に、どうやったら出来るかなって考えただけなんだけど……」
頭が切れすぎるのには困ったものだ。
「整理が出来ないんだけど、どうやったのか仮説でいいから教えてくれる?別に怒らないから」
「クオン君と私が狩谷君に話を聞いている時に、クオン君は私と狩谷君の意識を奪ったの。意識を失っていたことにも気づかないってことは、寝てたとかではないと思うから、私の時間を止めたとかかな。石化してたとか、これはなんでもいいんだけど、その内にクオン君は狩谷君の姿に見えるように幻を作って、みんなを殺しに行った。その時に音を遮るスキルを使えば、すぐに他の騎士が駆けつけることはないはず。クオン君は何食わぬ顔で部屋に戻ってきて、私の意識を戻したの。その時に狩谷君の拘束も解いておいてわざと逃したんじゃないかな。それで狩谷君に罪を擦り付けて、バレないように狩谷君も殺した」
天才かな……?
立ち上がって拍手したい気分だ。
「狩谷君が音を遮るスキルを使ってたってことはない?時間に関しては時計が無いからなんともいえないけど、最初がわざと捕まったなら、小細工することも出来るかもしれないよね?みんながいた部屋は、音だけでも隔離されてたとすればおかしくはないと思うけど……。それに狩谷君は自分でみんなを殺したって認めてたよね?」
「私もそれが1番可能性はあるとは思うわよ。私がさっき言ったのは、クオン君を犯人にするのを前提で考えたやり方だから」
「さっき言ったスキルは使えないから、僕には出来ないよとだけ言っておくよ。分身と同じで使えないことの証明は難しいからね」
「犯人扱いしてごめんね」
「別にいいよ。こうやってちゃんと話せば僕がやってないって委員長ならわかってくれると思うから」
話せば話すほど疑いが増しそうで怖いな。
「さっき言ってた、私の知らないスキルが何か聞いてもいい?前にクオン君のスキルは万能だって言ってたけど、本当になんでも使えるわけではないでしょ?証明ではないけど、使えるスキルを沢山知ってれば、他に使えるスキルがある可能性は減るでしょ?」
「……それで委員長の信用を得られるなら教えてもいいよ。ただ、他の人には言わないで欲しい」
「立花さんとかにも?」
「ヨツバには話してもいいよ。ヨツバとイロハと桜井君以外には言わないで欲しい。3人はもう知ってるから話してもいいけど、知ってる人は少ない方がいいから」
「わかったわ」
「とりあえず一気に言うから、わからないことがあったら後でまとめて説明するよ。火魔法、水魔法、強化魔法、幻影、マップ、魔力譲渡、魔力吸収、魔力操作、回復魔法、アイテムボックス、アラーム、貫通、簡易鑑定、望遠、鍛治。これだけだよ。回復魔法と簡易鑑定については絶対に広めないでほしい」
言うスキルと言わないスキルを選別して教える。
「……幻影っていうのが幻を作るスキルよね?」
「そうだよ」
「私が念話を使えるのを知ってたのは簡易鑑定のスキルでだよね?狩谷君が音を遮るスキルを使えたかはわからないの?」
「狩谷君のスキルは指弾とサーチと弓術と封鎖と……あと何個かあった気がするけど、覚えているのはそれだけかな。スキルの詳細まではわからないけど、封鎖ってスキルがそれかもしれないね」
それっぽいスキルを追加で入れておく。
「前に石を飛ばしてなかった?土魔法も使えるよね?」
「あれは魔力操作のスキルで魔力を使って石を射出しているだけだよ。土魔法を使えるように装ってるだけ」
「アラームっていうのは?」
「不意打ちされそうになったら、脳内に音が鳴るスキルだよ」
「貫通は?」
「防御力を無視して攻撃する付与魔法だね」
「狩谷君を見つけたスキルは?」
「望遠と魔力感知だよ。狩谷君の魔力が近くにあることは分かるんだけど、細かい場所まではわからない欠陥なんだよね。その範囲が大体10kmなんだよ。このスキルは狩谷君の魔力パターンで登録してしまってもう使えないんだ。だから言わなかったよ」
「なんで回復魔法は言ったらダメなの?鑑定の方は分かるけど」
「僕の回復魔法は特殊なんだよ。腕とか足も生えてくるんだ。騒ぎになるから言ってほしくないんだよ。良いタイミングがあれば見せるよ」
「最後だけど、なんでそんなに良いスキルが無駄なく揃ってるの?元の世界に帰るスキルもないよね?」
「自分で選んでスキルを取得出来るからだよ。それが僕が神からもらったスキルだね。元の世界に帰れるのも同じスキルによるものだよ」
「……ズルいわね」
「それは否定しないよ。自分でもそう思うから。少しは僕の容疑は晴れたかな?」
「自分で選べるならさっき私が言ったスキルを選ぶことも出来るよね?」
「選択肢にそんなぶっ壊れスキルはないよ。音を遮るスキルはあるけど、選べるっていっても限度はあるからね。回復魔法くらいだよ。ぶっ壊れてるのは」
「……そうなのね」
「他に聞きたいことはある?」
「……今はないかな」
「それじゃあ、今日はもう寝ようか。また聞きたいことがあったらなんでも聞いてくれていいから」
「ありがとう。気分悪いわよね、違うなら本当にごめんね」
「本当に気にしてないからいいよ。おやすみ」
委員長が冴えすぎている。
なんとか乗り切ったけど、委員長はまだ帰る気はなさそうだし上手いこと容疑を晴らしたいな。
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