第158話 隠蔽

狩谷君が逃げて、委員長が団長を呼びにいった後、護衛として付けられた騎士と部屋の中で待っていると、少しして寮の中がさらに騒がしくなる。


「何かありましたか?」

僕は部屋を出て近くにいた騎士に確認する。


「……騎士団で保護していた人達が襲われました」

惨状を発見したようだ。

それか目を覚ましたか……。


「襲われた人は無事ですか?」


「申し訳ありません。2人を残して殺されました。その者達も重症です」

2人……1人じゃなくて?


「団長は?」


「訓練場の方に。他の者が呼びに行っています」


「今回のことは団長の指示があるまで緘口令を敷きます。くれぐれも外に漏らさないように。すぐに周知させて下さい」


「はっ!」


騎士に指示を出して、僕は救護室に行く。


「襲われた人の怪我はどんな感じですか?」

救護室の治癒士に聞く。


「死んでもおかしくない程の出血をしていたようですが、治癒魔法を使えたようで、運ばれた時にはなんとか命は取り留めていました」


「診ていただきありがとうございます。少し面会させてもらいます」


「どうぞ、こちらです」


「桜井君も来てたんだね。大丈夫?」

僕は横たわっている桜井君に声を掛ける。

桜井君が来ているとは知らなかったから、怪しまれないように仕方なく桜井君も襲っておいた。


「ああ、クオンのくれた杖のおかげでなんとかな。だけど、平松さんしか助けられなかった。まだ回復が不十分なんだ。治してやってくれないか?」


「もちろんだよ。ヒール!」

僕は平松さんの怪我を仕方なく治す。


「久しぶりだね。これで傷は塞がったと思うけど、この力は秘密にしてるんだ。他の人には言わないでね」


「ありがとう……痛くなくなったわ」


「何があったか教えてくれる?それと、なんで桜井君がここにいるの?」


「俺からするとクオンがなんでいるのかの方が不思議なんだが?」


「今日も委員長と禁書庫に行ってたんだけど、狩谷君が捕まったって聞いてね。僕も付いてきてたんだよ」


「……そうだったのか。俺はクラスの奴らに会いに来てたんだ。クラスの奴らというか、平松さんにだけど……」


「平松さんに?」


「前にチョコレートの話をしただろ?そのお礼を少し前に改めてしてな。それからよく会いに来てたんだ」

チョコレートを1から作ろうとしたっていうのは平松さんだったのか。


「恥ずかしいから言わないで」


「悪い」

そういう関係なのかな……?


「そういうことだったんだね。それで、何があったのか教えてもらえる?」


「クラスの奴らと集まって遊んでたんだ。遊んでたって言っても、今まで何してたとか、帰還方法の相談とか、そういう話をしてたわけだけどな。そしたら狩谷の奴が現れたんだ」


「急に襲われたんだね。ヒール!」

リキャストタイムが切れたので桜井君の傷も治す。


「悪いな。それで騎士団の人が狩谷を捕まえてくれて安心していたんだが、しばらくしてまた部屋に入ってきた。護衛をしてくれていた騎士が不意を突かれてやられてしまって、俺と川上の2人で戦ったんだが、手も足も出なかった。……最初の時とは別人のように強かったな。腹に穴を開けられたけど、もらった杖でなんとか傷を塞いだ。ただ、その後気を失ってしまい、目を覚ました時には、全員やられていた。平松さんを治すことは出来たけど、他の皆んなは間に合わなかった」


「そっか……。何があったかはわかったよ。2人はこのまま休んでて」


「どこか行くのか?」


「アルマロスさんに話をしてくるよ」


僕は部屋に戻り、アルマロスさんがやってくるのを待つ。


しばらくしてアルマロスさんと委員長が入ってきた。


「口止めしていただき感謝致します」


「騒ぎになるのは僕としても望むところではないので、勝手ながら緘口令を敷かせてもらいました。襲われた人から少し話は聞きましたけど、アルマロスさんの方でも何か情報は得ていますか?」


「気絶させられていた騎士が顔を見ていたそうです。参謀から聞いていたカリタニというものだったそうですが、最初に捕まえた時に比べて、力が増していたように感じたみたいです。もしかしたら、初めはわざと捕まっていたのかもしれません。実際に捕まえた後は、警戒を解いて護衛の数を減らしていたから、まんまと騙されてしまいました」


「私が逃がしてしまったからよ。私のせいだわ」

委員長が悔しそうに言う。


「逃してしまったのは僕も同じだよ」


「クオン君は悪くないわ。私が気を抜いていたのよ。私がちゃんと自分で避けれていたらクオン君が止めてくれていたはずよ」

委員長が自分で避けていたとしても僕は狩谷君を逃したから、委員長が悔やむ必要は全くない。


委員長が捕まえそうだったら、連携を取れてないフリをして邪魔しようとしていたくらいだ。


そもそも、委員長の動きを阻害する為に突き飛ばしたのだから。


「あんまり自分を責めないでね。少し休んできた方がいいよ」


「休んでなんていられないわ」


「休んでこい。これは団長命令だ。一度気持ちを落ち着かせてこい。そんな状態では冷静な判断も出来ない」


「……わかりました」


「部屋に護衛を付けろよ。窓の外にも忘れるな」


「はい」

委員長が部屋を出て行く。


「私と2人きりでしたい話があるのでしょうか?」


「僕にはありませんよ。アルマロスさんが僕に話があるのではと思って委員長を退出させただけです」


「……どういうことでしょうか?」


「今回の件、騎士団で保護をしていた民間人を殺されましたよね?詳しくはありませんが、せっかく13騎士団から10騎士団になったというのに、降格してしまうのではないかと思うほどの失態ではないかと思いまして。無かったことにしたいのではと思ったんですけど、僕の気のせいでしたか?」


「……何を言っているのかわかりかねます」


「そうですか。内密に保護をしていたというのは委員長から聞いていたので、この場で済ませることも可能だと思ったんですけど、違うようならレイハルトさんに報告しなければなりませんね。騎士団内部で事件が起きたのですから、実質的なトップであるレイハルトさんには話すのが普通です」


「……何が狙いですか?」


「狙いも何もありませんよ。元々この件は僕達異世界人の問題です。殺したのも、殺されたのもこの世界の人ではありません。委員長を入団させ、参謀として功績を上げていたのですから無関係ではありませんが、この騎士団が責を負うのも違うかなと。僕としてもあまり事件を広めて騒ぎにはしたくないですし……」

実際に狙いなんてない。

石像の時に見逃してもらったし、そのお返しくらいの意味しかない。


そもそも、この事件の犯人は僕なわけだし、秘匿したいのはどちらかというと僕の方だ。


「この件は内密にお願いします」


「わかりました。今後の話もしたいので、また明日委員長を訪ねます。僕の仲間が1人救護室で休んでますので、面倒をお願いします」

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