第159話 始末
少し予定とは違ったけどやり遂げた僕は、宿屋でヨツバとイロハに委員長のところで保護されていた人の内、平松さん以外が狩谷君に殺されてしまったと話し、何があったのか説明する。
桜井君も一緒に襲われて、今日は騎士団の救護室で休ませてもらっていることも伝える。
「クオン君がいたのに、狩谷君に逃げられたの?」
イロハに聞かれる。
「不甲斐ないけどその通りだよ。逃がさないようにドアは塞いだんだけど、窓を破って逃げてしまったよ」
「これからどうするの?」
「どうしようか迷ってるよ。一度委員長と話をしようかなとは思ってる。ただ、身勝手に騎士団長になってしまったから、逃げるのは抵抗があるんだよね。前と違って得体の知れない誰かに狙われているわけでもないし」
「そう……」
「どちらにしても、また1人での行動は控えた方がいいと思うから、ヨツバとイロハも桜井君と一緒に騎士団で待機してて」
「クオン君は?」
「僕は第1騎士団の方で用事があったりするから、別行動するよ。第1騎士団の団長が第10騎士団に保護してもらうっていうのもおかしいし。僕に不意打ちは効かないから、やられることは無いと思う。死ななければ自分で怪我も治せるから心配は必要ないよ」
「……わかった」
「それじゃあ、移動しようか」
僕は2人を連れてアルマロスさんのところに行き、少しの間保護してもらうように頼む。
翌日、まず委員長と話をする。
「落ち着いた?」
「昨日よりはね」
「委員長はどうするか聞こうと思って来たんだけど、今後どうするか何か考えはある?」
「何かしないといけないとは思ってるわ。クオン君は?」
「狩谷君を探そうと思ってるよ。放置は出来ないね」
「……私も連れて行ってくれない?」
「いいけど、僕は狩谷君を殺すつもりだよ。それでも付いてくるの?僕は委員長の言うことを聞くつもりはないから、殺さずに捕まえたいなら別行動して僕より先に見つけることを勧めるよ」
「大丈夫。覚悟は出来てるわ。今回も私の甘えが原因よ。初めから捕まえずに冷徹になればよかったわ」
「それなら別に付いて来ても構わないよ。委員長の方で何か探す手掛かりとかある?」
「鷹の目ってスキルを使える人がいるわ。協力を頼みましょう。遠くまでハッキリと見ることの出来るスキルよ」
「同じスキルを僕も使えるから、それは大丈夫だよ。スキル名は違うけどね」
「それなら頼まなくても大丈夫ね」
「1つ問題があるんだけど、多分狩谷君は僕達の位置を感知するスキルを持っていると思うんだ。何人も殺しているわけでしょ?委員長みたいに公に探しているわけでもないし、普通に探していたら無理じゃないかな」
「……そうね。何か考えてみるわ」
「それじゃあ、とりあえず今日は足で探そうか」
「連れて行ってと頼んでおいて申し訳ないのだけれど、私は戦えないのよ。守ってもらってもいいかな?」
「もちろんだよ」
「ありがとう。それと、騎士見習いなんだけど、親友に手伝って貰えるようにお願いしてみるわ。狩谷君が私達を感知しているかもって話だけど、それが私達クラスメイトしか感知できないなら、力になるはずよ。私が異世界人だってことも知ってるから、その辺りで気を使う必要もないわ」
「助かるよ」
委員長がアルマロスさんに許可を貰いに行った後、親友らしいリノという人の所へと行く。
「初めまして。クオンといいます。委員長がお世話になってます」
「き、騎士団長様!は、初めまして。リノです。お会い出来て光栄です」
少女に尊敬の眼差しを向けられる。
「僕のことって何も言ってないの?」
「勝手に言わない方がいいでしょ?新しい騎士団長ってことを知ってるくらいだよ」
「そうだね、ありがとう。リノさんだね。僕も委員長と同郷なんだよ。だからそんなに畏まらなくてもいいよ。畏まられるような存在じゃないから」
「恐縮です」
「いつもこんな感じなの?」
「リノにとって、というよりこの世界の人にとってだけど、騎士って憧れなんだよ。第1騎士団の団長ってその中のトップだからね。クオン君は自分がこの世界の人にとってどういった存在なのかちゃんと考えた方がいいよ」
「そう……みたいだね。リノさんには少しずつ慣れてもらうとして、探しに行こうか」
「クオン君はどうやって探すの?何か当てはある?」
歩きながら委員長に聞かれる。
「さっき少し言ったけど、望遠ってスキルが使えるんだよ。それから、狩谷君が近くにいれば気付けるスキルもあるから、その2つを使って狩谷君の位置を特定しようと思ってるよ。特定出来たら逃がさないように一気に攻めるよ。委員長は念話で中継役をお願い」
「わかったわ」
「目標を見つけたら僕は逃げられないように特攻するから、リノさんは委員長を守りつつ付いてきて」
「わかりました」
僕は委員長とリノさんの3人で王都の中を歩く。
狩谷君は王都を離れていないと僕は思っている。
なぜなら、神下さんと捕まっている2人を除けば全員王都にいるのだから。
今は作戦を練り直しているのではと思っている。
「適当に歩いているみたいだけど、それで見つかるの?」
「どっちの方向にいるかはわからないからね。一応、端から順に地図を塗り潰すように歩こうとはしているけど、狩谷君が僕達の動きに合わせて動いているかも知れないから、バレないように適当にフラフラと歩いているよ」
「時間が掛かりそうね」
この日に狩谷君が見つかることは無かったけど、探し続け狩谷君の反応を見つける。
「反応があったよ。あそこの商店がこの辺りだと1番高いね。屋根に上がらせてもらおうか」
やっと、魔導具に反応があった。
ここで光ったということは、ここから10kmの地点に狩谷君がいるということだ。
商店の店主に任務の為とだけ説明して、屋根に登る。
自分たちが歩いて来た10km先くらいを望遠のスキルを使って探す。
「……いた。バフを掛けるよ。こっちに」
「はい」
委員長とリノさんにも身体強化と脚力強化のバフを掛ける。
「狩谷君がいるところはここだよ。僕はこの道で向かうから、リノさんは委員長の指示に従って動いて」
僕は地図で狩谷君の位置を示して、僕の使うルートを伝える。
「わかりました」
「それじゃあ、現地で落ち合おうか。気を付けてね」
僕は屋根から飛び降りて、狩谷君のいる所に走る。
「殺人犯がいます。至急逃げて下さい!逃げて下さい!――――――。また会ったね。逃げたところで、僕の方が速いんだから逃げられないよ?」
周りの人に逃げるように言いながら狩谷君との距離を詰める。
すぐに気付かれて、狩谷君は逃げようとするので、周りの人達に逃げるように呼びかけながら追いかけ、目の前に回り込む。
「くそ!」
狩谷君は悔しがりつつ、僕に向けてコインを飛ばす。
前と同じだ。モーションを隠さないと、いくら攻撃自体が強力で使い勝手が良くても、当たることはない。
「建物が壊れるでしょ?まだ逃げられてない人もいるし、巻き込んだらダメだよ」
リノって人のレベルからすると、まだ到着までには時間が掛かるかな。
委員長を運びながら移動しているだろうし……。
「許さないわよ」
そう思っていたけど、すぐに委員長とリノさんが狩谷君の背後に現れる。
これが統率の効果か。
思った以上にチートだな。
「バトルロワイヤルだっけ?本当にそんな理由でみんなを殺したの?」
僕は委員長に聞かせる為に、言葉を選んで狩谷君に質問をする。
「生き残りを決める為に俺達は呼ばれたんだよ。その為にスキルを交換出来るんだろうが!?」
狩谷君は逃げようと周りを見ながら答える。
この状況だと、時間を稼いで逃げ道を探したいだろうから、ちゃんと返答してくれるとは思った。
まあ、狩谷君は平山君とか小早川さんのことを聞かれたと思っているだろうけど、僕は委員長が保護していた人を殺した理由として委員長に聞こえるように聞いた。
これで、冤罪なのに狩谷君は罪を認めたことになる。
「狩谷君はクラスメイトがどこにいるのかわかるんだよね?」
「ああ」
やっぱり。
「他の人はどこにいるの?教えてくれないかな?」
「……言ったら許してくれるか?」
「許すわけないじゃない!」
「落ち着いて。聞いてから考えようよ。許して欲しいなら誠意を持って答えた方がいいんじゃないかな?」
憤慨する委員長に落ち着くように言う。
「……残ってるのはお前らと魔法都市の2人だけだ」
「魔法都市の2人って?」
「誰かまでは知らない。領主の屋敷にいたから後回しにしていた」
誰がどこにいるかまでは分からないのか。
不便だな。
衛兵ではなく、領主のところにいるのはなんでだ?
放置してたけど確認しに行かないといけないかな。
「答えてくれてありがとね。もちろん答えたからって許さないけど、知りたい事が聞けたよ」
「騙したのか!」
「別に許すとは言ってないから殺すよ?ここで僕の判断で狩谷君を許したら、殺されたみんなに恨まれそうだからね。死にたくないなら抵抗したら?……ウォーターボール!」
聞きたいことも聞けたので、不都合な存在の狩谷君には退場してもらうことにする。
「こふぁっ!くそ!てめぇ」
流石にウォーターボールを数発当てたくらいでは気絶もしないか。
「ファイアーボール!」
「うああああ。熱い……た、助けて。……死にたくない」
「……クオン君?」
委員長が呼ぶけど、僕は無視する。
ちゃんと先に見つけたら殺すと言っているからだ。
「ストーンバレット!」
「くふっ!」
所々赤黒くなった狩谷君が血を吐き出し動かなくなる。
「任務完了だね。これでみんなの仇は取れたかな」
僕は狩谷君を袋に入れて担ぎ現場を離れて、途中でストレージに入れる。
「どこに消えたの?」
委員長に聞かれる。
「アイテムボックスに入れたんだよ。あそこだと人の目があったから袋に入れただけで、この方が運ぶのが楽でしょ?アルマロスさんに報告したら埋めようか。狩谷君もこの世界に連れて来られたから狂ってしまっただけで、被害者でもあるから」
「……そうね」
「さっき狩谷君が言っていたことも気になるから、後でみんなで話をしようか」
「わかったわ」
「リノさん、手伝ってくれてありがとうね。助かったよ」
「お力になれてよかったです」
「危機が去ったお祝いでもしようかなって思ってるから、よかったらリノさんも来てね」
「お誘いありがとうございます」
「美味しい料理を用意するから楽しみにしててね」
最近のゴタゴタはこれで片付いたな。
少しの間はゆっくりさせてもらおう。
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