第157話 なすりつけ
委員長から考察を聞いた僕は、委員長の有能さを甘く見ていたと反省する。
委員長が完璧人間だとは思ってはいたけど、それは中学生の枠組みの中に収まるくらいだと思っていた。
僕はその認識を改め、行動計画を変更することにする。
「宿屋に戻る前に少し話したいから、お茶でも飲んでから帰ろうか」
さらに日が過ぎ、委員長からある報告を受けたので、僕はヨツバに2人で話をしたいと誘う。
内密な話ということだ。
「……わかったわ」
店に入り、隅の席に座って飲み物を注文した後に話を始める。
「さっき委員長に教えてもらったんだけど、薬師さんは街にいなかったって。僕が教えたやり方でお金を稼いでいるはずなら、冒険者ギルドか商業ギルド、それかどこかの商店に出入りしているはずなんだけど、それらしき人は見つからなかったって」
「そんな……」
「狩谷君の話は前にしたよね?委員長からも聞いたと思うけど」
「……うん」
僕は狩谷君が薬師さんを殺したとほのめかす。
「僕の予想では、もうそろそろ狩谷君が委員長達を襲うと思うんだよ」
「……なんでそんなことわかるの?」
「狩谷君はクラスメイトを殺して回っているわけでしょ?」
「うん」
「僕達には近付かないように魔導具を使って契約しているから、僕達を襲う前に委員長達を襲うはずなんだよ」
「……そうなるね」
「狩谷君が僕を襲って来たってことは、相手が複数まとまっていても殺す対象にしているってことでしょ?1人で行動している人はもうほとんどいないんじゃないかなって思うんだよ。僕達みたいに複数で動いている人よりも1人でいる人の方が狙いやすいでしょ?」
「そうだね……」
「だから、狩谷君が委員長達を襲ったら、僕も行動に移そうかと思ってる」
「狩谷君を止めるって意味じゃないんだよね?」
「そうだよ。ヨツバが思っている通りだね」
「委員長達を殺すの?」
「委員長ではなく、とりあえず保護している7人だね。狩谷君のこともあって、他の街にいた2人も今は騎士団の保護下にあるよね?今がチャンスだと思うんだ」
「……私の目を見て答えてくれる?」
ヨツバに真剣な顔で言われる。
「……うん」
「クオンはクラスメイトを殺すことに罪悪感はないの?」
「ないよ」
「私が今から委員長にクオンの所業を伝えたら?」
「残念だけど、ヨツバとはここでお別れかな」
ただならぬ空気で聞かれているので、誤魔化すのはやめる。
真摯に受け止めて答えようと思う。
「色葉ちゃんと桜井君に伝えても同じ?」
「うーん、桜井君をどうするかは考えどころかな。イロハにはヨツバの後を追ってもらうよ」
ヨツバの口を封じた時点でイロハの願いは叶えられなくなるからね。
親友が死んだとずっと思い続けるよりは、すぐに帰ってしまった方がいい。
神下さんを殺すのはいつになるかわからないから。
桜井君は僕を責めはしても、我を忘れはしないだろう。
話をしてからどうするか考えることにする。
「良いことをやっているつもりでみんなを殺しているんだよね?」
「そうだね。殺すべきだと思ってるよ」
「クオンにとって私って何?約束を守ってもらってるわけだけど、私にはクオンを止められないって思ってるの?」
「ヨツバはパーティメンバーで旅仲間だよ。ヨツバに教えるのは約束ってこともあるけど、それで関係がギクシャクするのが嫌だからかな。前にも言ったけど、僕はこの世界を楽しみたいのであって、クラスメイトを殺すのはついでなんだよ。前はヨツバには何も出来ないと思ってたけど、今は違うかな。だからヨツバの行動には目を光らせている。船の時もヨツバが剣を降ろしてなければその場で殺していたよ。桜井君達に怪しまれるからやりたくはなかったけどね」
「……わかった。ちゃんと答えてくれてありがとう。クオンを止めるのはやめるわ」
「僕は助かるけど、それでいいの?」
「クオンとずっと一緒にいて、クオンは悪いことをしないってわかったわ。クラスメイトを殺すことをクオンが良いことだって言うなら、そうなんだと思う。理由を話してくれればいいんだけど……、クオンを止めることは良くないことだって思うの。だからこそずっと迷ってたけど、クオンがちゃんと答えてくれたから決心がついたわ」
「そう。ヨツバが後悔しないようにしてくれれば、僕はそれでいいよ」
完全に信用されるのも、それはそれで困るな。
ヨツバを殺す時の計画が狂う。
話をした翌日からも変わらず、ヨツバと委員長と禁書庫に籠る。
「インチョー様、お客様が来られています」
ある日、客が来たと禁書庫を守る兵士に委員長が呼ばれる。
気になったので僕とヨツバも外に出ると、第10騎士団のミハイルさんがいた。
「例の人が現れました」
「……犠牲は?」
「出ていません。指示通り捕まえています」
「ありがとう。クオン君、そういうことだから私はお先に失礼するわ」
「僕も行くよ」
止めるのをやめたと言うだけで、ヨツバに惨劇を見せるのはどうかと思ったので、先に宿屋に帰らせて、僕は委員長に付いて行く。
第10騎士団の寮の一室に入ると狩谷君がいた。
縛られて騎士に囲まれている。
僕の予想通り、狩谷君は誰一人殺してくれなかったな。
ガッカリだよ。
「内密に話したいことがあります。あなた達は外に出ていて下さい」
委員長が騎士達を部屋の外に出す。
僕は少し待ってから、この時の為に取得しておいたスキルを発動する。
委員長がここまで有能だからこそ取得したスキルだ。
生半可なやり方では委員長にバレるだろう。
「ストップ」
僕は空間魔法でこの部屋の時を止める。
ストップの魔法は使用に制限があり、万能ではない。
まず、指定した空間の時間を止めるけど、指定していない場所の時間までは止まらない。
なので、時間のズレが発生する。
それから、動けるのは時間を止めた時に、発動者に触れていた者のみなので、触れていなければパーティメンバーの時も止まってしまう。
さらに、止めた相手に触れることは出来ない。
つまり、ストップの魔法で動きを止めて、その内に息の根を止めるみたいなプレイは出来ないということだ。
ゲームだと、主に体勢を立て直す為に使う魔法である。
僕は時を止められた委員長と狩谷君をそのままにして、部屋を出る。
そして、幻影で騎士の姿に変えてからクラスメイトが集められている部屋を探し、姿を狩谷君に変えてから中に入る。
「貴様!どうやっ…うっ……」
護衛をしていた騎士を僕は無言で眠らせる。
騎士の練度は高く、この人もレベルは高いけど、不意打ちでなら気絶させることは難しくはない。
「殺しに来てやった」
狩谷君の声を真似しつつ、僕だということがバレないということの方を重視して声を変えて、殺すと宣言する。
「きゃーー!」
「助けてくれ!」
「なんでこんなことするのよ!」
騒がれるけど、助けが来ることはない。
なぜなら、この部屋にも空間魔法で魔法を掛けているからだ。
防音というゲームでは使い所のほとんどなかったスキルだ。
イベントで使ったくらいかな。
防音のスキルは、ストップの魔法が使えるようになるまで空間魔法のスキルレベルを上げる過程で習得した。
だから、無駄に取得したわけではない。
僕は火魔法と土魔法を避けながら、クイクイっと手を動かし、掛かってこいと挑発する。
ここにいる人で警戒するのは2人だけだ。
怖い顔で睨まれていたりもするので、十分敵対したと判断できるけど、一応出来るだけ敵対するように挑発しつつ、レベルを上げている2人を先に処理してから、近くにいる人から順にコインを射出していく。
全員の腹に穴を空けて、窓の施錠を開けてから元いた部屋に隠れて戻る。
僕は狩谷君を縛っているロープを千切り、狩谷君がスキルで解いたと思えるように、狩谷君の後ろの壁にコインをめり込ませておく。時間を止める前に座っていた椅子に座り、ストップの魔法を解除する。
「なんでこんなことをしてるのか教えてもらえるかしら?」
委員長が時を止められていたことになんて気付かずに狩谷君に質問を続ける
「…!この世界は弱肉強食なんだよ!」
ロープが解けていることに気付いた狩谷君が吠えて、ポケットからコインを取り出して委員長に向けて放つ。
僕は委員長を突き飛ばして躱させた後、ドアから狩谷君が逃げないように立ち塞がる。
「くそ!」
狩谷君は窓を割って外に逃げていった。
「大丈夫?怪我してない?」
「ええ、ありがとう。助かったわ」
委員長は壁にめり込んだコインを見ながら言う。
「大丈夫ですか!?」
騎士が慌てて部屋に入ってくる。
「ええ、大丈夫よ。ただ、みんなが捕らえてくれたのに逃しちゃったわ。ごめんなさい」
「参謀が無事でなによりです」
「団長に説明してくるわ」
僕は心を痛めつつ、ヘコみながら部屋から出て行く委員長を見送った。
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