第156話 仮定
騎士団長になってから3日後、僕達は委員長に会う為に第10騎士団の訓練場を訪ねる。
「忙しいところごめんね」
「私も聞きたいことがあったからちょうどよかったわ」
「先に委員長の用を聞くよ」
「第1騎士団の団長が決まったらしいんだけど、クオンっていうらしいのよ。こんな偶然あるのかしら」
「偶然じゃなくて僕自身だよ」
「そうでしょうね。なんでそんなことになってるの」
「今日はその話も関係した話をしに来たんだよ。禁書庫に入れるようになったから、委員長もどうかなって」
「その為だけに騎士団長になったの?」
「その為だけではないけど、そういうことだね。禁書庫に籠りはしたんだけど、調べ事は委員長の方が向いてるかなって思って誘いにきたんだよ」
「デートの邪魔をしていいのかしら」
「別にデートじゃないよ」
「そうなの?2人で仲良さそうに歩いているのを先日見かけたわよ」
「王都観光に付き合ってもらってただけだよ」
「……それなら私も一緒にお願いするわ」
委員長はヨツバの方を見てから答える。
「これから僕達は行くけど、委員長は行ける?」
「団長に確認してくるわ。少し待ってて」
しばらくして、委員長が戻ってくる。アルマロスさんと一緒に。
「第1騎士団団長殿、改めてご挨拶させて頂きます。第10騎士団団長アルマロスです。第1騎士団で手が足りない時は第10騎士団にお声掛けください」
アリオスさんから聞いた話も考慮すると、評価される任務を寄越せってことだね。
「任務などに関しては副団長に現在任せています。その旨伝えておきます」
「よろしくお願いします。話は変わりますが、うちの参謀を禁書庫に連れて行って下さるという申し出感謝致します。任務や訓練を優先させる事もありますが、それ以外は連れて行ってやって下さい。私には連れて行くことは出来ませんので」
「お預かりします」
「聞いていい?」
城に向かう途中、委員長に聞かれる。
「答えられることなら」
「禁書庫に入る為に騎士団長になったのはわかったけど、どうやったら第1騎士団の団長になれるのよ」
「委員長は第1騎士団の団長になる為の条件を知らないの?」
「知ってるわよ。表向きには副団長に一任されているみたいだけど、実際には以前務めていた団長に模擬戦で一撃入れることよね」
「知ってるならその通りだよ。アルマロスさんから聞いてないの?ザングの街でアルマロスさんには一撃入れたことを教えたんだけどね」
「聞いてないわ……いえ、アリオスって兵長とクオンが模擬戦をしたような話は聞いたわね。団長の名前がアリオスっていうのは知識として知ってはいたけど、もしかしてその人がそうなの?」
「そうだよ」
「信じられないわ。第1騎士団の副団長には会ったことがあるけど、あの人がクリア出来ない試験をクリアしたなんて」
「委員長が信じなくても嘘は言ってないよ」
「本当なの?」
委員長がヨツバに聞く。
「攻撃はしないとかハンデをもらってたけど、一撃当てたのは本当だよ」
「流石に驚きを隠せないわ……え、副団長でも人間を辞めてたわよ。クオン君も辞めちゃったの?」
「一撃を当てたってだけで、僕がレイハルトさんより強いってわけではないから」
「実際騎士団長になってるのだし、本当なんでしょうね……。いつまでも疑っていても仕方ないから禁書庫の話をしましょう。何か目新しい情報は見つかった?」
信じたくないようだ。
「色々とあったよ。委員長の言う通り、以前にもこの世界に異世界人が来ている可能性は高そうだね。異世界人について書かれた書物が結構あったよ。秘匿しているみたいだね。あの鐘の作り方も書いてあったよ」
「その人達が帰ったとか、そういったことは書かれてなかったの?」
「そういったことは見つけられなかったよ。まだ全部見れていないけど、委員長の方がそういった調べ事は得意でしょ?」
「過度な期待は困るわ」
委員長も参加して禁書庫に篭り続けること5日目、委員長が一つの可能性を導き出した。
「前に私は神がいるという前提で話をしたのだけれど、もしかしたらこの世界に今は神はいないのではないかしら」
神の石像を持っているので、この話は僕の中では真実味が高く感じる。
「なんでそう思うの?」
「まず、魔王が大昔にこの世界を支配していた頃の話ね。魔王の暴虐を止める為に神が自らの力を使いきることで封印したわ。力を使い果たした神は姿を隠し、神が回復するまでの間、この世界には天変地異が何度も起きたそうね。神は天界に帰ったように書かれてもいたわね」
「確かにそう書いてあったね」
「姿を隠したのではなくいなくなったと解釈してみたわ。次に異世界人について、100年周期くらいに連れてこられてるみたいね。絶対ではないけど、その辺りで化学の進歩が明らかに著しいわ」
「それは気付かなかったよ」
向こうの世界で100年前や200年前に神隠しみたいなことが起きてないか調べてみようかな。
「それに対して、この世界から異世界に送られたと思われる書物は全く見つからないわ。これはこの禁書庫だけじゃなくて、他の書庫でも見なかったわ」
「……確かに僕も見てないね。でも、人が消えたとして、それに気づかなかっただけじゃないかな。異世界人は目立ちやすいから、周りもその存在に気付くかもしれない。でも、誰かが消えたとしても魔物に襲われたとか、誘拐されたとかそう思うだけでそこまでおかしいとは思わないよね?」
「クオン君の言っていることは分かるわ。これは仮定の話も含むのだけれど、異世界から人を連れてくる時に、ある程度まとまった人数を一度に連れて来ているんじゃないかしら。私達だと30人まとめてよね。こっちの世界から送る場合も同じようにある程度まとめて送っているなら、おかしいと感じるはずよ」
30人くらいが急に消えれば流石におかしいか。
「確かにそうだね。だとして、どうなるの?」
「前に私はお互いの世界の文化レベルを上げる為にって言っけど、実際にはこの世界に連れてこられているだけじゃないかしら。この世界には神がいないから、何もせずにいると滅んでしまう。それを他の世界の人間を連れてくることで防いでいるって感じかな。魔王を封印した神が力を取り戻したのではなく、私達のような人を昔にも連れてきたから天変地異が収まったの」
「別に僕達は世界の崩壊を防いだりなんてしてないよね?」
「これから防ぐことになるのか、それとも私達と一緒に未知のエネルギーを持ってきているとかしているのではないかしら。例えばだけど、この世界には魔法があるでしょ?魔法を使うには魔力が必要よね?元の世界には魔法を使う人がいたとしてもごく僅かよ。魔力が有り余っているから私達と一緒に持ってきているとかね。それか私達がもらったスキルがその役目を果たしているとか」
「委員長の説はわかったけど、それだと僕達が会った神様は何者なの?」
「この世界と元の世界の両方を管理している神なんじゃないかしら。私が不在だと言ったこの世界の神や地球の神を支部長とするなら、あの少年は本部でふんぞり返っている社長ね」
ふんぞり返っているかは別として、その線もあるか。
「賭けとか言ってたのは全部嘘だったってことだよね?」
「私の推測だとそうなるわね」
賭けではないっていうのは僕も同意見だ。
「前に魔物の名前が元の世界の神話の生物と同じって言ってたよね。あれは?」
「それなんだけど、こっちの世界の人が転移したんじゃなくて、元の世界に帰った人が広めたんじゃないかしら。そうだとしたら帰る方法があるってことよ。希望が持てるわ」
「……そうだね」
「なんだか、納得してない感じね。何か矛盾しているところでもある?」
委員長の説におかしな所は無いと思う。
帰った人がこっちの世界のことを話せなくされていることを知らなければだ。
「いや、ないよ。希望的観測が混じってるかなって少し思っただけ」
「それは仕方ないわ。今までは手がかりが無かったのよ?クオン君のおかげで禁書庫に入れて、欲しかった情報が集まってきているわ。私の推測が合っている可能性が高いとは言わないけど、調べる価値があるレベルにはあると思うのよ」
都合の良いように考えるなら、死んで戻ったから話すことを封じられているだけで、他の方法……例えば本来神がやらせたかったことを為して帰還した場合にはそういった制限が掛からないという可能性もなくはない。
あの神は死ぬ以外に帰る方法が無いとは言っていないのだから。
「僕には思いつかない説だったから、委員長を連れてきてよかったよ。委員長はこれからその説を元に詰めていくって感じだよね?」
「そうね。考えた推測に矛盾が出ない限りはとことん詰めていくわ。無理が出て来たら他を考えるわ」
「頼りにしてるよ」
委員長が死ぬ以外の帰還方法を見つけてくれれば、対立する必要もなくなるし、ヘイトを買う必要もなくなる。
見つけてくれることを期待しよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます