第155話 就任
王都観光をしばらく続けながらその時を待っていると、遂に狩谷君がやってくれたようだ。
行方が全くわかってなかった最後の1人が日本に帰ってきた。
そろそろ僕も動き出そうと思う。
そうはいっても、まずは狩谷君に委員長と戦ってもらって委員長の出方を見たいので、まだ対立はしない。
「委員長達と対立はまだしないけど、明日からは観光をやめて調べ事をしようと思ってるよ」
僕はヨツバに伝える。
「調べごとって?」
「魔法学院で調べたことと同じ感じかな」
「それなら色葉ちゃんと桜井君が調べてたけど、それらしい情報は無かったって言ってたよ」
「そうみたいだね。だから禁書庫に行こうと思ってるよ」
「禁書庫って……入れないよね?もしかして侵入するつもり?」
「そんなことはしないよ。入れてもらえるように頼もうかなって」
侵入出来るなら侵入してでも入りたいけど、流石に無理があるだろう。
「頼んだって入れてもらえないと思うけど……」
「伝手はあるよ。明日はその伝手を頼ろうかなって」
「……私も行ってもいい?」
「いいけど、禁書庫にヨツバが入れるかはわからないよ。僕も入れないかもしれないけどね」
「そうなったら仕方ないから外で待ってるよ」
翌日、僕は騎士団本部に行き、今度は第1騎士団の副団長であるレイハルトという人に会わせてもらえるように話をする。
アリオスさんの名前を出して時間を作ってもらった。
「初めまして。クオンと言います」
「団長の知り合いだそうだな。何の用だ?」
「アリオスさんからこれを貰いました。必要になったらレイハルトさんに渡すように言われてます」
僕はレイハルトさんに推薦状を渡す。
「読ませてもらう」
レイハルトさんが推薦状を読む。
内容は事前にアリオスさんに確認している。
第1騎士団団長になる為の推薦状ではあるけど、実際に書かれていることはレイハルトさんへのアリオスさんからの手紙である。
「……間違いなく団長からの推薦状だな。君を団長として、手を貸すように書かれているが、団長に一撃当てたというのは間違いないか?」
「間違いないです」
「栄誉ある第1騎士団の団長に、自己の都合の為だけになりたいというのも間違いないか?」
「間違いないです。団長を続けるつもりはありません。一時的に第1騎士団団長という権力を行使したいだけです」
「自分が何を言っているのか理解しているか?」
「理解してますが、騎士団のことを軽く見ているわけではありません。目的を達する為に選べる選択肢がこれしかないだけです。僕に騎士団長の器があるとも思ってません」
「……団長は元気だったか?」
「元気でしたよ」
「いいだろう。元々団長に一撃与えた者を次の団長にすると決めたのは私だ。理由はどうあれ、団長に一撃与えたのならば君を一時的に団長とする。私は君が団長を短期で辞めることを知っているが、他のものには正式な団長として紹介する。君も表向きには団長の任を死ぬまでやり遂げるつもりで動くように」
「わかりました」
思ったよりもすんなりと認めてくれたな。
「それで、そちらの女性は?」
「冒険者仲間です」
「君は冒険者なのか。ランクは?」
「Dです」
「……Cランクの昇格試験を受けたことはあるか?」
「無いです」
「なら構わない。それで使いたい権力とはなんだ?」
「禁書庫に入りたいです」
「少し待ってろ」
レイハルトさんがどこかに行き、戻ってくる。
「これが許可証だ。禁書庫は城の2階にある。部屋の前の者に見せれば入れてもらえる」
魔導具のような許可証をもらう。
「ありがとうございます。これで入れるのは僕だけですか?」
「その許可証を持っている者が許可を出せば誰でも入れる。第1騎士団団長というのはそれだけの権力を持つということだ」
ヨツバも入れるということか。
「わかりました」
「君を見て勉強しろと書かれていた。私の壁を壊すキッカケになるだろうと。時間がある時でいいから、任務や模擬戦に参加してくれ」
「わかりました。僕はここの宿に泊まってますので、呼んでください。いなければ、店主に伝言をお願いします」
「ああ。これから禁書庫に行くか?」
「そのつもりです」
「混乱を招かないように私も一緒に行こう」
「お願いします」
レイハルトさんに宿の場所を教えて、禁書庫に入るべく城に向かう。
「宰相はいるだろうか?」
「呼んでまいります。こちらへ」
門兵に案内されて、小部屋に入る。
少し待っていると貴族らしき高そうな服を着た男性が入ってきた。
「レイハルト殿、どうされましたか?」
「お時間を頂き感謝致します。長年空席となっていた団長が決まりましたのでご報告にあがりました」
「そちらの若者が試験を突破されたのですか?」
「はい。団長……アリオス殿より模擬戦の結果と、この者を団長に推薦する旨をいただきました。団長代理としてこの者を騎士団に所属する許可を与え、騎士団長に任命致しました」
「レイハルト殿が決めたのであれば私に異論はございません」
「私のわがままで騎士団長を決めておりますので、騎士団としての機能が失われないように当分は私が引き続き騎士団長の仕事を行います。この者が騎士団長に相応しくない場合には私が責任を持って退任させます」
「王には私から伝えておきます」
「お願い致します。団長としての仕事を覚えさせる為にも禁書庫に入らせることがあります。許可証も本来の持ち主の団長であるこの者に渡してあります。周知をお願いします」
その後、宰相と自己紹介を含めて雑談のような話をした後に解散する。
「ここが禁書庫だ。許可証を出してくれ」
レイハルトさんと禁書庫の前に行き、部屋の前にいる兵士に許可証を見せる。
この兵士、レベルは高いし、気配察知のスキルまで獲得している。
城の中を徘徊している兵士も練度が高そうだし、やっぱり侵入するのは難しかったな。
侵入出来たとしても、禁書庫の中に人の気配がすればバレるだろう。
「どうぞ」
許可をもらい禁書庫に入る。
「私はこれで失礼する。団長として、問題は起こさないでくれ」
「ありがとうございました。気をつけます」
レイハルトさんと別れる。
「それじゃあ調べたいことを調べようか。何か面白いことが書かれている本があったら教えて」
思ったより簡単に禁書庫に自由に入れるようになったな。
あの像のことも調べたいし、狩谷君が仕掛けるまでまだまだ時間も掛かるだろうから、ゆっくりと調べようかな。
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