第154話 王都観光
とりあえず、現状把握はお互いに出来たので、話を進める。
「委員長は帰還方法も調べてるよね?」
「もちろんよ」
「なにか進展はあった?」
「色々と情報が錯綜しててね。知りたいことが見つからないというよりは、どの情報が正しいのかわからないといったほうが正しいわ」
「委員長が怪しいと思う内容はあった?」
「色んな情報をまとめて、私なりに推測を立ててみたの。聞いてもらえる?」
「お願い」
「まず前提として、神様……又はそれに準ずる方がいるとするわ。実際にそれらしき少年には会ったわけだしね」
「うん」
「神様はこっちの国と向こうの国の両方の文化レベルを上げようとしているのではないかしら。こっちの世界は魔法やスキルがあるからなんでも出来るようで、科学が発達してないから、私から見て不便な生活をしている人の方がほとんどだわ。私は信じていなかったけど、元の世界でも魔女とか超常現象とか魔術とかあったわけじゃない?逆にこっちの世界から向こうの世界に転移させられている人もいるのではないかと思うのよ」
「なるほどね。ありえそうな話だとは思うけど、何かそう思う根拠はあるの?」
「この世界の科学って歪なのよ。例えばだけど、この世界で時計を見たことある?」
「ないよ。だから、2時間おきくらいに鐘がなるよね。みんなそれを目安に動いている」
「あの鐘って等間隔で鳴ってるのよ。2時間おきに6回鳴った後に14時間空けてまた鳴り始める。構造を見せてもらったけど、魔導具じゃなくて、歯車で動いていたわ。動力は魔導具だったけどね。どこか一箇所にだけあるならそこまで不思議ではないけど、ある程度の街には設置してあるわよね。流石におかしいわ。私達とは別に、以前にこの世界に連れてこられた人がいて、構造や作り方を教えたんじゃないかしら」
「確かにそう言われれば不自然に思えてきた」
「それから、こっちの魔物の名前って向こうの世界の神話の生き物と同じだったりするでしょ?その辺りでも繋がりを感じるわ。元の世界だと魔物がいないから魔法が発達しない。それなら魔物も転移させてみようみたいなね」
「仮に委員長の推測が合っているとして、それならなんでこっちの世界で科学の発展を助けてくれとは言われなかったのかな?隠す必要はないよね?」
「急激な変化は求めてないのではと私は思ってる。急な変化はパニックの要因になるわ。少しずつ文化レベルを上げたいんじゃないかしら」
「それならおかしくはないのかな?」
「結局は私の推測だから、確固とした証拠はないわね」
「それがわかったとして、帰る方法にはならないよね?」
「そうだけど、連れてこられた原因が分かれば帰ることが出来るかもしれないわ。何かをして欲しくて連れてきたなら、それを達成すれば帰れるかもしれないじゃない。文化レベルを一定まで上げるとか、科学の力で何かを完成させるとかね」
死ねば帰れるというのは、神様なりの救済処置かもしれないので、他に帰る方法があっても別に不思議ではないか。
「委員長は情報をどこで集めてるの?」
「書庫に入る許可を団長から特別にもらっているわ」
「それって、禁書庫にも入れるの?」
「入れないわよ。あそこに入れる騎士なんてごく僅かよ。団長ですら、特別な許可が必要な上に、許可を貰った書物以外には触れてはいけないわ。それにしても禁書庫の存在を知っていることに驚いたわ。私は団長に聞いたから知ってるけど、クオン君はなんで知ってるの?」
「衛兵隊の兵長に聞いたからだよ」
「衛兵隊の兵長が知ってるのも不思議ね」
「元騎士団長なんだよ」
「そういうことね。クオン君達の方は?」
「変わらずだよ」
「そう……変わらずね。これからは王都にずっといるの?それともまた放浪するの?」
「当分は王都にいると思うよ。ここが1番情報は集まるだろうしね。もう一つ委員長に聞きたかったんだけど、他国に飛ばされていた人っていた?」
「いないわよ」
「だよね」
やっぱり、この国だけだった。
だからこそ、この早さでみんなが見つかったわけだ。
そうなると、この国に何かあると考える方が筋は通るかな。
とりあえず話題も無くなったので、お暇することにする。
「これからどうしようか?」
僕はこれからの予定を決めようとする。
「委員長が調べてはいると思うけど、俺達の方でも書庫に入らせてもらえないか聞いてみるか?」
桜井君が言う。
「せっかく王都に来たんだからまずは観光しようよ。どこを観光しようかって意味だったんだけど……」
「ああ、そうか。何があるかも知らないから、いつも通り適当にでいいんじゃないか?それか、せっかくだから城の近くまで行くか」
「私は買い物がしたいな。歩いている時に工芸品の店が見えたけど、ガラス細工かな……キレイだったからじっくり見たいな」
「ヨツバは?」
「街並みを見てるだけでも楽しそうかな」
「それなら、イロハの言う店に行った後は適当に店に入りながら散歩しようか」
数日王都を見て歩き、満足した桜井君とイロハは帰還方法を調べると言って王都の書庫に籠った。
あまり使いたくなさそうだったけど、アリオスさんの名前を使ったようだ。
アリオスさんはそんなことを気にしないだろう。
2人が書庫で調べ事を始めてからも、僕はずっと変わらず王都を観光していた。
「今日はどこに行く?」
ヨツバに聞かれる。
「あっちの塔がある方に行ってみようかと思ってるけど、ヨツバはどこか行きたいところがある?」
「どこに行っても新鮮で面白いからクオンに付いてくよ」
「今日はどうするの?」
さらに数日経っても僕は王都の観光をしている。
「少し遠いけど、昨日教えてもらった占い師の所に行ってみようかな」
「占いなんて興味があるの?」
「こっちの世界の占いはスキルを使って占うから、当たる確率が高いみたいなんだよ。魔法学院の学院長に、スカルタにいる占い師のことを聞いてたんだけど、狩谷君のせいで行けなかったからね。人は違うけど行きたいなって」
王都の端の方まで馬車を使って移動して占いをしてもらったのに、当たり障りのないことを言われて占いは終わってしまった。
人気の占い師だと聞いていたのに、残念だ。
僕もヨツバも悪いことを全く言われなかったので、その辺りを都合良く解釈できる人に人気なのだろう。
さらに数日、王都の観光を続ける。
やっぱり王都は広いな。
これだけ観光しても、まだ見れてない所がいっぱいある。
「ねえ、王都に来てからずっと観光してるよね?」
ヨツバに聞かれる。
「そうだね。まだ王都を満喫してないからね。面白い依頼でも貼り出されれば、それを受けるのもいいかな」
「観光するのはいいんだけど、王都に来る前にあんなことを言ったのにずっと遊んでるなと思っただけだよ。観光は私も楽しんでたけど、クオンが何かするのかなって思ってたのに、本当にただ観光してたから」
今は狩谷君の行動を僕は待っている状態だからね。
ちょうどいいくらいの期間がありそうだから、王都を満喫しているだけだ。
本来、僕がやりたいことはこっちがメインだし。
「ヨツバにちゃんと時間をあげようと思って王都に来る前に話をしただけだよ。僕の本来の目的はこの世界を旅することだから、見ての通り楽しんでるよ」
「……そうみたいね。クオンがはしゃいでいるのは見ててわかるよ」
「気になるなら、動き始める前に知らせることにしようか?ずっと気を張り詰めてたら疲れるでしょ?」
「観光を楽しんでいるというのは本当だから、無理はしてないよ。でも、教えてくれるなら教えて」
「わかった。とりあえずあと少なくても10日はこんな感じだと思うから、一旦忘れてヨツバも全力で王都を楽しんだ方がいいよ」
「……そうするわ」
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