第153話 問答

「うっぷ……」

アクアラスの街の観光を満喫した僕達は、船で王都近くの港に向かっている。


「大丈夫か?」


「なんとか……。船ってこんなに揺れるんだね……うっ」

僕は船酔いに苦しめられていた。


「いや、島に船で行った時はこんなに揺れてなかったな。波が大きいわけでもなさそうだし、船の構造的にこっちの世界の船は揺れが大きいんだろう。魔法がある代わりに科学はあまり発展してないだろ?」


「うっ……」


「横になってた方がいいんじゃないか?」


「……そうだね。そうするよ」

僕は船室に移動して横になり、苦しみから逃れる為に目を瞑る。


ガタっ!


物音がしたので目を開く。


「何か用?……今は僕達しかいないけど、誰でも入れるんだから見られると誤解されるよ」

剣を抜いて僕の横に立っているヨツバに聞く。

この船室は3つある内の一つだ。


夜は男女で分けられるだけで、個室はない。


「誤解も何も私は本気だよ。クオンが隠していることを教えて。クオンは良いことをしているつもりでみんなを殺してるでしょ?それはなんとなくだけどわかるよ。だから止めるべきかどうか迷ってる。教えてくれないならクオンが弱っているうちに……」


「……何を言われても教えるつもりはないよ」


「私は本気だよ」 

ヨツバの手は震えている。

アラームは鳴らなかったし、不意打ちをする気はないけど、剣を振り下ろすつもりはあるようだ。


「……そうみたいだね。手が震えてるよ」


「馬鹿にしてるの?」


「してないよ。こうなることも想定していたから驚いていないだけ。それがヨツバの決めたことなら振り下ろせばいい。船酔いでダウンするとは思ってなかったけどね」


「………………今はやめておく」

ヨツバは剣を構えたまましばらく考えた後、剣を下ろした。


「そう」

僕は圧縮させていた魔力を霧散させる。 


「もう一つ聞いてもいい?」


「答えられることなら」


「委員長達を殺した後どうするつもりなの?」


「順番が前後するかもしれないけど、神下さんを探すことになるかな。それ以外は今までと変わらないよ」


「えるちゃんを見つけてクオンはどうするの?」


「殺すことになるかもしれないね。他の人と僕の中では変わらないよ」


「会わないとわからないってこと?」


「うーん、まあそうだね」


「ぅあ!?どういう状況だ?」

話していたら桜井君が入ってきてしまった。

タイミングが悪い。


ヨツバは剣を下ろしただけで、鞘にも収めず手に持ったままだ。

桜井君は横たわる僕の横に剣を持ってヨツバが立っているという異様な光景に驚いたのだろう。


「え、ああ、誤解だよ。ヨツバの剣が刃こぼれしてないか見てたんだよ。いい剣だけど、ずっと直しながら使ってるからね」


「……そうか。修羅場かと驚いた」


「桜井君はどうしてここに?桜井君も酔ってきた?」


「いや、船酔いに効く薬を買ってきたから持ってきたんだ」


「助かるよ。ありがとう」


「私は外に行ってるね」

ヨツバが剣をしまって部屋を出て行く。


委員長に喧嘩を売る前にヨツバとはもう一度話をしたほうが良さそうだ。


「言いたくないなら言わなくてもいいけど、本当は何の話をしていたんだ?」

流石に無理があったようだ。

まあ、船酔いしてるときに武器の点検なんてしないよな。


「剣の点検をしていたってことにしておいて」


「……わかった。深くは聞かない」


「ありがとう」

桜井君のくれた薬のおかげで少しマシになる。


マシにはなったけど、苦しみに耐えながら船旅を終え、さらに馬車で移動して王都に到着する。


「すごいね。大きな城」


「とりあえず、宿を決めたら委員長に会いに行こうか。その後に観光しよう」

アリオスさんの言っていた禁書庫に入ることは出来ないかな……。


部屋を借りた後、騎士団本部へと行く。


「13騎士団の参謀に会いにきたのですが、取り次いでもらうことは出来ますでしょうか?」

受付で委員長を呼んでもらう。


「13騎士団の参謀……?少々お待ち下さい」

なんだか誰のことかわかってないような反応をされた後、受付の人は席を離れた。


「お待たせ致しました。インチョー様でよろしいでしょうか?」

さすが委員長だな。周りから委員長と呼ばれてもおかしくないようにインチョーなんて偽名を使ってるなんて。

徹底している。


「そうです」


「お名前をお伺い致します」


「クオンです」


「確認して参りますので、あちらに掛けてしばらくお待ち下さい。それから、しばらく前になりますが、騎士団のナンバーに一部変更がありました。インチョー様が所属している騎士団は現在、第10騎士団になります」

昇格していたようだ。

多分今の13騎士団には参謀なんていないのだろう。

だからこの人はわからなかったようだ。


「そうでしたか。王都には先程着いたばかりで、知りませんでした。よろしくお願いします」



「お待たせ致しました。確認が取れました。第10騎士団は現在こちらで訓練をされております。こちらが許可証になります」

少しして、訓練している場所を教えてもらう。


「ありがとうございました」


教えられた場所に行くと、見た記憶のある人が訓練をしていた。


「先日はお世話になりました。参謀に会いに来ました。許可証です」


「確認させて頂きます。……はい、ご案内します」

僕はゴンズさんに声を掛けて委員長の所に案内してもらう。


「久しぶり。今日は1人じゃないのね」


「前はザングの街に用があっただけだからね。今日は委員長に会いに来たよ」


「立花さん達も元気そうでよかったわ。今日は特別な用があったりするのかしら?」


「特にはないよ。王都に来たからまずは委員長に挨拶しようかなって。色々と情報を交換したいとは思ってるよ」


前は隠れて会いに行っていたこともあって、あまり詳しい所まで話せていないので、あの時に触れなかった所も話をする。


騎士団で木原君を保護していることも知れたし、唯一所在の分からない人物が誰かもわかった。


木原君は薬師さんも委員長の所に来たら、なんて言い訳をするつもりだったのだろうか……。


「薬師さんは保護してないの?」

ヨツバが聞く。


「薬師さんはまだ見てないわ。騎士団の伝手を使って捜してはいるのだけれどね」

委員長が答える。

薬師さんはもうこの世界にはいないからどれだけ捜しても見つかることはない。

僕のストレージの中身を見る方法がなければ……。


「木原君から薬師さんの話は聞いてる?」


「聞いてないわよ。木原君は薬師さんに会ってるの?」


「話してもいいかな?」

僕は3人に相談する。


「仕方ないんじゃないか?やったことには変わりない」

「そうだね」

「……うん」


誰も止めはしないので、委員長に木原くんの悪行をバラす。


「……事実確認は後で木原君本人にするけど、本当なら最低ね。助けなければよかったと少し後悔しているわ。でも、木原君のことは一旦置いておいて今は薬師さんね。それならまだそこにいる可能性が高いわね。迎えに行ってくるわ」


「委員長が行ってくれるの?」

無駄なことをやらせてしまうのが申し訳ないと思うけど、それを伝えるとなんで死んだことを知っているのかということになってしまうので教えることは出来ない。


「団長に確認してになるけど、わたしが行かない方がよければ、代わりに誰かに行ってもらえるように頼むことにする」


「それじゃあお願いね」


話さないといけないことは話したし、聞きたいことは聞けたかな。


「平山の話もしておいた方がいいんじゃないか?狙われた話も」

桜井君に言われる。


「そうだね。スカルタって砂漠の街で平山君に出会ったんだけど、依頼に1人で街の外に行ってる時に誰かに殺されちゃったよ。同じ日に僕も誰かに狙われたんだ。誰かはわからなかったけどね」


「クオン君は何か狙われる心当たりはないの?」


「これといったのはないかな」


「そう。今も狙われ続けてるの?」


「わからないけど、その後に行ったアクアラスって街でトラブルがあってね。街からの出入りが出来なくなってたから、そこで振り切れた感じだよ」


「確認が取れてない話だけど、狩谷君が皆んなを殺しているらしいの。だから、平山君を殺したのは狩谷君かもしれないわ。クオン君を狙ったのも」

なんで委員長がそのことを知っているのだろうか……。


「どこでその情報を手に入れたの?」


「神下さんが来て教えてくれたわ。狩谷君がみんなを殺しているから、保護している人を守って欲しいって。神下さんは姿を消すスキルでも持ってるのかと思ってたけど、住んでる位相……次元みたいなのが違うんだって。天使ってふ「あっ」え?何?」

僕は咄嗟に止めようとする。


「今えるちゃんの話をしてたよね?天使って言ってなかった?」

イロハが言う。


「あれ?もしかして、話したらマズかった?」

委員長が僕の方を見る。


「あー、まあ、話しても問題はないよ。口止めされていたわけではないから。僕が秘密にしていたっていうよりは、神下さんが話してほしくないのかなって思って黙ってただけだからね」


「もしかして、前にえるちゃんの体がどうとか言ってた話?」


「そうだよ。僕のスキルでわかったことだから、伝えていいかわからなかったんだよね。聞かないって言ったから話さなかっただけだよ。委員長にイロハ達にはそのことを話してないって言わなかったからだね」


「……話を戻すわよ。狩谷君はバトルロワイヤルをする為に、私達はこの世界に連れてこられたって言ってるらしいわ。本当にそんなくだらない理由で連れてこられてたとしても、従う道理はないし襲ってきたら捕まえて話をしようと思ってるわ」


「流石にそんな馬鹿みたいな理由ではないと思うけど、気を付けてね」

狩谷君には呪いが掛かると嘘をついたから、僕達の所に来る前に委員長達を殺そうとするはずだけど、委員長に情報が漏れてるなら捕まるだろうな。


狩谷君が頑張ってくれればその分僕が楽になるけど、期待せずに結果を待つとしよう。

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