第147話 準備

僕はソファに寝転びながら、カリュブディスを倒す方法を考える。


カリュブディスという魔物について必要な情報は調べ、対処しなければいけない問題は洗い出した。


まずはカリュブディスに戦わせること。

海は広い。

こちらが戦うつもりでも、相手がそうでなければ倒すことは出来ない。


水上歩行のスキルを取得したとしても、水中に逃げられたら追う手段もない。


次に攻撃手段が乏しいことだ。

カリュブディスは大きく、的は大きいが、体の大半は海の中だ。


火魔法は当たった瞬間に消えてしまいそうだし、水魔法はそもそもの威力が少ない上に相性も悪そうだ。


ゲームなら雷魔法一択だろうけど、それをやると周りの魚まで殺し尽くしそうなので、やりたくはない。


急所は狙いにくいし、海面に出て来た所しか当てられないけど、石を射出してちまちま攻撃するしかないか……。

でもそれをすると、倒し終える前に逃げられそうなんだよなぁ。


最後にカリュブディスを倒してしまうと目立ってしまうことだ。

なんとかコソッと倒すことは出来ないだろうか。


「うーん」

いい方法が思いつかない。


「珍しく考え込んでるね」

考えていたらヨツバに言われる。


「今後のことを考えなければ倒せそうなんだけど、考えられる方法は、何かを犠牲にしないといけなそうなんだよね」


「犠牲って?」


「スキルポイントだよ。それと環境破壊かな。後は目立っちゃうなぁってことだね」


「ちなみに何も考えなければどうやってやるの?」


「えっと……雷魔法と潜水、それからバーサクのスキルを取得して、雷耐性の防具を鍛治で作ろうかな。餌か何かでカリュブディスを誘い出したら、まずは逃げらないようにバーサクのスキルで興奮状態にして、魔力を圧縮して雷魔法の効果を高めて自身諸共放つ感じかな」


「よくわからないけど、それじゃあダメってことだよね?」


「そうだね。雷魔法は今後も使えるから取得してもいいんだけど、潜水とバーサクのスキルはあんまり使わないしスキルポイントが無駄かな。防具も魔石とか材料をイロハのスキルで買わないといけないから高くつくし、海の生物は大体感電して死滅するよ」


「それは……よくないね」


「だから、他の方法を考えてるんだ。カリュブディスを釣り上げられたら全部解決なんだけど、どうしたものかなと」

海の中から出してしまえば、どうとでもなると思う。


「釣る?相当に巨体みたいだよ」


「トラップを仕掛ければなんとかならないかなって思ってるんだよね。今はどうやって釣るかを考えてるんだよ。トラップの構造もだけど、餌もだね。無理そうなら次は海上で戦う方法を考えようかなと思ってるよ」


「私には想像もつかないけど、クオンなら出来そうな気がするわ。頑張ってね」



僕はやれそうな案を考え終わったので、準備を進める。


まずは目立たないようにする為に、冒険者ギルドに行き、ギルマスに話をして、表向きはギルマス主導で準備を進めてもらう。


とりあえず必要な物の準備からだ。


僕はギルマスの遣いということで、鍛冶屋に行く。

頼むのは釣り糸と釣り針だ。

釣り糸といっても材質は鉄だ。

だから鍛冶屋に来た。


「海竜を釣りたいので、鎖を作ってください。長さは300mくらいで切れないようにお願いします。針は船のイカリみたいな感じで大丈夫です。鎖の先端にくっ付けといて下さい」


「何言ってるんだ。海竜が釣れるわけないだろう。それにそんなに材料はない」


「鉄の準備はギルドでしますので、他の鍛冶士の人と協力して完成させて下さい。スカルタからの応援がくる様子はまだありません。自分達で何とかしなければこの街は終わるかもしれませんよ」


「……わかった」


「完成次第討伐を開始しますので、出来たらギルマスまで連絡をお願いします」


次に竿の部分だな。

これは桜井君にも手伝ってもらう。


「土魔法でこの辺りの地面を崩れないようにしてもらえる?」


僕は桜井君に海沿いの崖の上が崩れないように補強してもらう。


当然、竿といっても人力で釣り上げるなんて無理なので、崖の上から鎖を巻き付けた岩か何かを落として、釣り上げようと思っている。


なので、やらないといけないのは力に耐えられる支柱の作成だ。

ただ、支柱が頑丈でも地盤が緩ければ引っこ抜けてしまうかもしれない。

だから、桜井君にまず地盤の強化をしてもらうのだ。


「もうダメだ。魔力を頼む」

桜井君の魔力が無くなるたびに追加して、数日掛けて可能な限り硬い地面にする。


「次は穴を開けてもらえる?これが半分縦に埋まる感じでよろしく」


「ああ。それ何キロあるんだ?」


「1トンだよ。妥当かどうかは別として、買える金額ではあったよ。イロハのスキルも不思議だよね。こんなサイズの鉄の塊とか普通売ってないよ」


「確かに異常だな。よし、こんな感じでどうだ?」


僕は一度取り出した鉄をストレージに戻して桜井君が開けた穴の中に取り出す。


「いい感じだね。後は鎖が外れないように溝を彫ってと……よし、完成だね。後は鎖が完成するのを待とうか」


「これで本当に釣れるのか?」


「どうだろうね?ここに問題が無くても餌に喰いつかないかもしれないし、やってみないとわからないよ」


「餌は何を使うんだ?」


「2つ考えているけど、とりあえずは僕の食用肉でも使ってみようかなと思ってるよ」


「……勿体無いな」


「沢山あるから大丈夫だよ」


「それでダメなら?」


「カリュブディスは自分の体を食べるらしいんだ。食事としてじゃなくて、食べることでその部分が治るらしいんだよ。だから、体の一部を取ってこれば、取り返そうと追ってくるらしいんだよね。だからそれを餌にしようと思ってるよ」


「それは大分危険じゃないか?」


「危険だね。だから出来ればやりたくないね」


さらに数日経ち、遂に鎖が完成したと連絡が入る。


この間、わざと1人になってみたりしたけど襲われることはなかった。

刺客はいないのか、それとも身を潜めているのか。


僕は鎖を受け取り、崖の上へと行く。

流石に危ないので、今日は1人だ。


配置しておいた岩に鎖を括り付け、鉄柱の裏を回して、先端のイカリ型の針に食用肉を付け、さらに鎖に付けた網の中にも食用肉を入れてから、幻影のスキルで鎖とイカリを透明に見えるように鏡のように被せ海に投下する。


さて、釣れるかな……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る