第146話 相手

翌日、商業ギルドで海路が使えない件を確認する。


「海路が使えないと聞いたんですけど……」


「海竜が住み着いてしまいまして、船を出す事が出来ません」

疲れ切った顔の受付の女性に対応される。


「陸路も使えませんよね?」


「盗賊が道を塞いでしまっております」


「他に道はありませんか?」


「山を越える道はありますが、馬車は通れません。又、魔物の動きが活発になっているという報告も上がっておりますので、高ランク冒険者や騎士団の方達でなければ危険で通ることは出来ません」


「復旧の目処は立ちそうですか?」


「冒険者ギルドの方で動いてはくれていますが、動きはありません」


「わかりました。ありがとうございます」


冒険者ギルドが動いているとのことなので、次はそっちに向かう。


ギルドの中は閑散としていた。


「……どうされましたか?」


「街から出られないことについて話を聞きたいんですけど……」


「……状況は変わっておりません」

説明したくないようだ。

面倒なクレーマーと思われているかのように感じる。


「変わってないと言われても、昨日この街に着いたばかりなので教えてほしいんですけど」

この人には面倒だとしても、教えてもらわないと困る。


「…………!失礼しました。すぐにギルマスを呼んできます」

受付の女性はバッと立ち上がって奥の部屋に走っていく。


「え!?」

なんだか勘違いされている気がする。


「ギルマス!スカルタから応援がきてくれましたよ」

部屋の向こうから不穏な内容の声が聞こえる。


「お待ちしておりました。遠い所まで足を運んで頂きありがとうございます。詳細は聞いておりますでしょうか?」

細身の落ち着いた感じの男性が部屋から出てきて言う。


「詳細は何も聞いていませんが、何か勘違いをされていませんか?」


「勘違いとは何でしょうか?」


「スカルタから来ましたが、応援に来たわけではないです」


「そんな……。この街を見捨てる判断をされたということですか」


「見捨てるも何も僕達は観光で昨日この街に来ただけです。陸路も海路も塞がれていると言われたので、話を聞きたかっただけですよ」


「……そうでしたか。スカルタから来られたと言っていましたね。応援を頼んだのですがいつまで待っても来てもらえないのです。スカルタに向かわせた冒険者がスカルタまで辿り着けなかったのか、それとも要請を拒否されたのか。何か知りませんか?……というよりもどうやってこの街に来られたんですか?」


「僕達は歩いて山道を超えてきました。スカルタでアクアラスがこのようなことになっているとは聞きませんでしたが、街道は盗賊の目撃情報があるとのことで通行止めになってました。なので、向かわれた方は山の向こうまでは行っているのではないでしょうか」


「通行止めというのは、誰かがいたのか?」


「いえ、看板があっただけです」


「砂漠を越えられなかったのかもしれないな……。情報感謝する。山を超えてきたということだが、盗賊か海竜のどちらかを討伐する力はないだろうか?それかスカルタまで行ってきてはくれないだろうか?」


「この街に冒険者はいないんですか?随分と閑散としていますが……」

ファストトラベルが使えなくなっていたので、パッとスカルタに戻ってサラボナさんに伝えることは出来ない。


牢獄に入るイベントの時とかもファストトラベルは使えなくなるので同じ扱いなのだろう。


「この街に高ランクの冒険者は少ないんだ。唯一のBランクパーティがスカルタに向かってくれたんだが……」

Cランク以下の冒険者しか残っていないらしい。


「そうでしたか。事情があってスカルタに戻ることは出来ません。盗賊か海竜の討伐が可能そうであれば受けても構いませんよ」


「ありがとうございます。先に冒険者ランクをお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「Dランクです。この子だけGランクですね」


「……ご冗談を。Dランク冒険者があの山を越えられるわけありません。それとも何か特殊なスキルでもお持ちでしたか?」


「昇格試験を受けていなかったのでDランクなだけです。討伐記録をみてもらっても構いませんよ」

僕はギルド証を渡す。


「失礼します。これは……バーゲストの討伐までされているとは驚きが隠せません。ヘルハウンドも驚く程に倒されておりますし、山を越えられて来たというのも納得出来ました」


「詳細をお願いします」


「はい。まずは海竜の方ですが、以前はこの辺りにはいませんでした。目撃した者の話から察するにカリュブディスだと思われます。危険度はBですが、海の上で戦うことを考えるとA……いえ、Sといってもおかしくありません」

普通に考えて勝てないような化け物ということか。

ただ、海の上でも問題なく戦える状況を作ればBランクと。


「盗賊の方ですが、これは本当に申し訳ないのですが、元々当ギルドに属していた冒険者が悪事を働いていた為、除籍させたのです。その結果賊に成り下がりました。一緒に悪事を働いていた冒険者や街の荒くれ共も加わり、規模が大きくなってしまっています」


「その冒険者というのは強いんですか?」


「Aランクでした。不正に依頼を達成していたりもしましたが、腕は確かです。近接を得意としていましたが、魔法も使えます。私では相手になりません」


「……とりあえず一度持ち帰らせて下さい。どうするか決めたらまた来ます」


「お願いします」

ギルマスに頼まれるけど、即答は出来ないのでこのままギルドを出る。


「とりあえず、昼ご飯にしようか」

どうせならと海沿いで魚介を食べることにしたけど、店はほとんど閉まっていた。


「美味いけど、こう高いと毎日は食べれないな」

数少ない開いていた店で昼食にする。


メニューはお任せの一つのみになっていた。


「船は出せないみたいだし、釣れた魚と海岸近くで採れた海藻と貝しかないみたいだからね。量も少ないし、それでも食べたいっていう人向けなんだろうね」


「そう思うと、宿屋の飯は凄かったんだな。高い割には普通だと思ったけど、そうじゃなかったな」


「そうだね」


「それにしてもツイてなかったな。頼まれてたけどどうするんだ?カリュブディスだったか……、そっちは無理だとしても、盗賊なら何とか出来るか?」


「うーん、とりあえず盗賊を倒すのは考えてないよ」


「流石にAランクだとクオンでも厳しいか?」


「いや、盗賊相手に正々堂々ってこともないし、やりよう次第で何とかなるかもしれないけど、スカルタからの道が塞がれているっていうのは、今の僕達には都合がいいんじゃないかなって。逆に海路が塞がれている状態でスカルタの方から狙われると逃げ場を失うから、逆に運は良かったんじゃないかな」


「……それもそうか」


「まあ、この街にもう刺客が来てたら最悪だけどね」


「怖いこと言わないでよ」


「そういうわけで、倒すなら海竜かな。でも倒すにしても、ギリギリ勝てるかなとかだったら戦いたくはないし、勝てるビジョンが出来たら受けようかなくらいだよ」


「勝てる可能性があるのか?ギルマスはSランクみたいなこと言ってたぞ」


「それって海の上で戦うならってことでしょ?船を壊されないようにしないといけないから、難しいってことだと思うんだよね。だからカリュブディスを陸に引き上げるか、海の上でも船を使わずに相手にすればBランクだよ。Bランクならヘルハウンドと同じくらいってことだし、倒せるとは思うんだよね」


「それが出来ないからここの人は困ってるんだろ?」


「そうだね。まあ、船を使わない方法は思いついてはいるんだけど、桜井君にスキルポイントの話ってしたっけ?」


「……いや、聞いてないな」


「桜井君はレベルが上がるとスキルを獲得することがあるよね?」


「そうだな」


「僕の場合はレベルが上がるとスキルポイントがもらえるんだよ。スキルポイントは好きなスキルと交換が出来るんだ」


「なんだかズルいな」


「僕もそう思ってるよ。それで水上歩行とか潜水とかってスキルもあるから、そういったスキルを取得すればいいんだけど、今回の為だけにスキルポイントを使うのは勿体無いなって思ってるんだよ。だから出来れば既存のスキルか、今後も使う必須のスキルの取得でなんとかしたいんだよね」


「俺にやれることがあれば手伝うから言ってくれ。ただ、どうしてもメインはクオンになるから受けるかどうかは任せるよ」


「ありがとね。街の人も困ってるみたいだし、倒せないか考えてみる」

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