第145話 封鎖

「キャンプしているみたいで楽しかったね」

馬車を降りてから2日後の朝、山道を抜けて、アクアラスに着いた。


「どこかだよ!死ぬかと思った」

桜井君が怒る。


「冗談だから、そんなに怒らないでよ。それに無事到着したんだから結果オーライだよ」


通ってみてわかった。

サンドスパイクの2人は嘘は言ってなかったのだと。


途中からアラームのスキルが鳴りっぱなしだった。

ヘルハウンドは出て来なかったけど、魔物には襲われ続けており、ゆっくりと休む暇がなかった。


これなら盗賊の方がマシだった。

自己責任で通行止めの道を通らせてくれればいいのにと、今更思う。


ストレージがあり、治癒魔法が使え、MPポーションを持っていたから問題なかっただけだ。


「宿屋に行こう。私もう眠いよ」

「私も。疲れたよ」

ヨツバとイロハは疲れが限界のようだ。


一昨日の夜はそこまで問題はなかった。

2人ずつに分かれて、睡眠も取れた。


でも昨夜は寝る余裕はなかった。

街まであと少しだったこともあり、徹夜で歩いていたので僕も眠い。


とりあえず宿屋に行き休息を取ることにする。


「部屋はどうする?」

僕は桜井君に聞く。


街を移動しても狙われ続ける可能性はあるので、当分は僕もこっちで寝ようとは思ってるけど、桜井君と相部屋にするかどうか。

金銭的には問題はないけど、何かあった時には同じ部屋の方がいい。


「問題ないなら相部屋の方が良くないか?あまり1人にならない方がいいだろう。本当は魔法学院の時みたいに立花さんと中貝さんとも同じ部屋の方がいいのだろうけど、魔法学院の時は同じ部屋といっても、実際には分かれてたからな」


「……そうだね。それなら、高くなっても広い部屋がありそうな宿屋に行って聞いてみようか。ヨツバとイロハもそれでいいかな?」


「うん」「大丈夫だよ」


大通りっぽい道にある大きい宿屋に入る。


「4人1部屋で泊まりたいんですけど、寝る所は男女で分けたいんです。そういった部屋はありませんか?」


「……お高くなりますが、それでも宜しければ空いております。ただ、本来お貴族様におすすめする部屋になっておりますので、部屋は分かれていますが、使用人が使う為に分かれています。その為、部屋の質の差が大きくなっております」

主人が呼んだ時にすぐに来れるように同じ部屋の中に寝泊まり出来るようになっているけど、執事やメイドなどの身の回りの世話をする使用人が使う予定の部屋は豪華ではないと。


「そこでお願いします。とりあえず10日お願いします」


「大銀貨8枚になりますが宜しいでしょうか?」


「はい」

とても高いけど安全がお金で買えるなら仕方ない。

僕は大銀貨8枚支払う。


「昼食はどうされますか?」


「昼食も付いているんですか?」

昼食も付いているのは珍しい。


「朝・昼・晩の3食と軽食であればいつでも用意致します。必要ない場合は前もってお知らせください」

高い分サービスが盛り沢山ということか。

貴族に勧める部屋って言ってたからね。


「僕はいらないけど、みんなはいる?」


「それよりも、そんな部屋に泊まる金はないんだが」

桜井君に言われる。


「こういう時は僕が払うから気にしないで。お金をケチった結果、手遅れになったら困るでしょ?」

宿の人には聞こえないように言う。


「……悪いな」


「それで昼ごはんはいる?」

僕は聞き直す。


「いらないな」「私も今は寝たい」「横になりたい」

やっぱりいらないようだ。


「昼ご飯は必要ありません。先程街に着いたばかりで疲れていますので、急用がなければ起こさないで下さい」


「えっ!……こほん。失礼しました。かしこまりました。ご夕食はいつ頃お持ちしましょうか?」

何故か驚かれた。何でだろう?


「軽食はいつでもいいんですよね?」


「はい。少しお時間を頂きますが、いつでも準備致します」


「なら、通常の時間にお願いします」


「かしこまりました。6の鐘がなる頃にお持ち致します」


「わかりました。お願いします」


部屋に案内される。


「豪華過ぎるんだけど……」

イロハが呟く。


入った時点から高そうな部屋だと分かる。

でも、貴族相手に満足してもらう為にはこのくらいはしないといけないのだろうと思う。


「それじゃあ、何かあったら呼んでね。おやすみ」

今は部屋のことよりも、眠気をなんとかしたいので、僕は寝に行くことにする。


「待って。クオン君がお金出したんだし、私達がそっちの部屋を使うよ」

イロハが言うけど、僕は寝られればそれでいい。


「気にせず使っていいよ。桜井君もあっちでいいでしょ?」


「あ、ああ。俺は気にしない」


「クオン君は気を使ってるつもりかもしれないけど、譲られる方も気を使うんだよ」

イロハに言われる。


「気を使ってないことはないけど、本当に寝られれば僕はいいんだよ……。それに、入り口から近いのはこっちの部屋でしょ?誰かが侵入してきたりした時に逆だとヨツバ達が襲われた後しかアラームのスキルが発動しないかもしれない。だから僕がこっちの部屋を使うんだよ。部屋の配置的にこっちの部屋を僕が使うだけだから、本当に気にしなくていいよ。受け取らないから僕のお金になってるだけで、前にも言ったけど、パーティ組んでる時に稼いだお金はそもそも僕としては分配したいと思ってるくらいなんだけどね」


「でも、いつもそうやって良い方を譲られてる気がするよ」


「使用人の部屋ではあるけど、実際には使用人じゃないんだから、寝てる時以外は僕達もそっちの部屋で過ごすことが多いと思うし、寝る時以外は変わらないよ」

この部屋を借りたのも安全の為だし、寝る場所も僕がこっちに泊まったほうが不意打ちを喰らう可能性が減るし、折れてくれないかな。

眠いし、本当に早く折れてほしい。


「色葉ちゃん、クオンは頑固だから言ったところで意見は変えないよ。気を使わせてあげよう」

ヨツバがイロハに言う。

内容はなんだか腑に落ちないけど、ナイスだ。


「……わかったよ」

イロハが折れてくれた。


「それじゃあおやすみ。何かあったら叩き起こしてくれていいから」

僕は使用人用の部屋に移動してベッドにダイブする。


別に悪いベッドではなかった。

多分向こうの部屋のベッドに比べて質が良くないだけで、十分過ぎる程にフカフカだ。


ぐっすりと寝た後、お腹が減ったので軽食を貰いに行く。


「夕食前で申し訳ないんですが、小腹が空いてしまって何か軽くお願い出来ますか?」

僕は受付の人に頼む。


「かしこまりました。差し支えなければお聞きしたいのですが……」


「何ですか?」


「今日この街にお越しになられたのですか?」


「そうです」

なんでこんなことを聞くのかな?


「道は塞がれていたはずなんですけど、どちらから来られたんですか?」

スカルタからの道が通行止めになってたから驚いていたってことかな……あれ、海路もあるはずだからおかしくはないよね。

なんだか嫌な予感がする。今日は船が運行していないだけならいいんだけど……。


「スカルタから来ました。通行止めになってたので、途中からは歩きで山を越えました」


「……実力者の方でしたか。陸路も海路も塞がれてしまっているのにどこから来られたのか不思議でしたが納得出来ました。軽食はお部屋にお待ちしますので少しお待ちください」


この街から出られないらしい。

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